インドネシアの環境問題と課題解決に取り組むスタートアップ企業
- 公開
- 2023/07/23
- 更新
- 2025/01/02
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人口が増加し経済成長が続く一方で、水質汚染や森林の減少、大気汚染など、多くの環境問題にインドネシアは直面しています。
政府の対策に期待が寄せられる中、最新技術を用いて課題解決に取り組むスタートアップ企業の存在にも注目が集まっています。インドネシアではスタートアップ企業が続々と誕生しており、その中には環境問題へアプローチする企業も多くあります。
本記事では、インドネシアの環境問題を紹介するとともに、環境問題解決を目指したビジネスを展開するスタートアップ企業と日本企業の取り組み事例をまとめました。
インドネシアが抱える環境問題
インドネシアの環境問題の中でも、ここでは特に問題視されている3つを紹介します。
ごみの流出による水質汚染
環境林業省は2020年、インドネシアの河川のうち59%が汚染されているという調査結果を公表しました。インドネシアの河川は世界的に見ても汚染が深刻で、例えば西ジャワ州のCitarum(チタルム)川は世界で最も汚染された川の1つとされています。
汚染の主な理由は、石油やガス、鉱山など工場からの廃棄物のほか、畜産業や人々の生活で発生した廃棄物などです。地域や家庭によってはごみを川に捨てる人もいて、生活習慣も要因の1つになっています。
インドネシアでは家庭の汚水処理槽の近くに生活で使う水井戸があることも珍しくなく、未処理の汚水が混ざった水を飲めば健康被害に繋がることから、長く問題視されています。
参考:tempo.co「KLHK Ungkap Penyebab 59 Persen Sungai di Indonesia Tercemar Berat」
森林の減少と温室効果ガスの増加
インドネシアでは、化石燃料を使った火力発電などで多くの二酸化炭素が排出されています。しかし、二酸化炭素を吸収する大切な森林は、干ばつによる森林火災や、パーム油生産のための森林伐採などの影響で、減少傾向にあります。
森林の減少による問題の1つが、森林に住む生き物たちの生態系が崩れること。そしてもう1つが、温暖化で海面上昇が進むことです。ジャカルタなどの都市部はたびたび洪水で大きな被害を受けていますが、海面上昇は洪水の被害をさらに大きくする原因の1つになりえます。
森林の減少による温室効果ガス増加問題について、Joko Widodo(ジョコ・ウィドド)大統領は2021年に開催されたCOP26(気候変動枠組条約締約国会議)で、「2024年までに60万ヘクタールのマングローブ林を再生し、2030年までに林業分野で二酸化炭素吸収量が排出量を上回るようにする」と述べました。
参考:住友商事グローバルリサーチ「インドネシアにおける経済成長に伴う地球温暖化と対策」
排気ガスによる大気汚染
インドネシアでは、自動車やオートバイの排気ガスによる大気汚染の問題が都市化とともに浮上しています。特に、ジャカルタなどの都市部では、自動車やオートバイが渋滞のせいで長時間同じ場所で排気ガスを出すため、沿道の大気汚染が深刻化しています。
2021年9月には中央ジャカルタ地方裁判所がJoko Widodo大統領やジャカルタ特別州のAnies Baswedan(アニス・バスウェダン)知事(当時)に「清潔な空気を吸う市民の権利を守れていない」と判決を下すなど、大気汚染への対策が注視されているところです。
そのほか、工場から出る排気ガスや、乾季に行う焼畑がきっかけで発生する森林火災なども大気汚染の原因となっています。特に、焼畑による大気汚染は規模が大きく、煙霧が隣国のシンガポールやマレーシアにまで及び、目の炎症などの健康被害が報告されています。
参考:CNN「ジャカルタ市民、清潔な空気求める訴訟でインドネシア政府に勝利」
これらの問題に対して国が解決に動いているのはもちろん、最近目立つのが課題解決に向けたスタートアップ企業の取り組みです。そこで以下では、環境問題の解決に取り組むインドネシアのスタートアップ企業をまとめました。
ごみ・水質汚染問題解決に取り組むスタートアップ企業
現在、インドネシアの家庭ごみはほとんど分別されておらず、ペットボトルや段ボールなどリサイクルできる素材の仕分けは、多くの地域でゴミ収集業者がゴミを回収した後に行っています。
また、最近は商業施設や公園などで分別用のゴミ箱を見かけることも増えましたが、それをどのように使うのか理解していない人も少なくありません。
ここでは、そんな「ごみの分別問題」に取り組む2つのスタートアップ企業と、「ごみを減らすこと」自体に着目したスタートアップ企業を紹介します。
waste4change(ウェイスト・フォー・チェンジ)
ごみ問題に取り組むwaste4changeでは、「廃棄物が出るのは仕方のないことであり、廃棄物を正しく処理することが大切」という考え方から、発生したごみを正しく分別するための仕組みづくりや教育に力を入れています。
事業の軸は、Consultant(コンサルタント)、Campaign(キャンペーン)、Collect(回収)、Create(創出)の4つ。自宅から近いごみ置き場の写真を顧客に送り分別のイメージを持たせる、担当者が自宅へ訪れ廃棄物を引き取る、リデュース・リユース・リサイクルへの意識向上を目的としたプログラムを開催するなどの取り組みを行っています。
また、日々のリサイクルの活動状況や廃棄物の増加量が一目で分かるように、Webサイトとモバイルアプリを統合したリサイクルシステムのプラットフォームも開発しました。
参考:waste4change
Rekosistem(レコシステム)
Rekosistemもwaste4changeと同じく、廃棄物の分別に力を入れることでごみ問題の解決を目指す企業です。アプリを通して居住地から最も近いごみ捨て場をユーザーに知らせ、そのゴミ捨て場を訪れればポイントが獲得できるシステムを採用しています。ポイントが貯まれば、Go Payなどの電子マネーと交換が可能です。
そのほかにも、バケツで廃棄物を処理して堆肥にできる装置の開発や、使用済みの食用油を売ることで収益を上げる企業向けサービスなどを展開しています。
また、Rekosistemは2022年に丸紅と再資源化事業の開発に関する覚書を交わし、回収ボックスの設置、廃プラスチックの回収・製品化、回収した廃棄物の販売などの取り組みも始めています。
参考1:Rekosistem
参考2:丸紅「インドネシアにおける再資源化事業の開発に向けた覚書締結について」
Bell society(ベル・ソサイエティ)
Bell societyは、有機廃棄物などのごみを使った製品の開発と販売に取り組んでいます。
その1つが、コーヒー豆の皮を使ったバイオレザー「M-Tex」を活用し、カードホルダーや靴、バッグを生産・販売する事業です。コーヒー農家からコーヒーの皮を直接集めるため、農家はごみの廃棄場所や費用に困ることがなくなります。
Bell society は2020年に設立されたばかりの会社ですが、多彩なデザインの靴を手がける靴メーカーBrodoや、質の高い革製品を製造・販売するGinding Leatherなど、既に15のブランドと提携。JICAから資金面で支援を受けて、日本や香港など海外にも製品を販売しています。
参考:Bell societ
森林の減少に伴う問題解決に取り組むスタートアップ企業
Carbon Ethics(カーボン・エシックス)
Carbon Ethicsは、マングローブの植林事業を通して温室効果ガスの増加などの気候変動問題対策に取り組む企業です。
現在、シンガポールにほど近いBintan(ビンタン)島で、開発により伐採されたマングローブ林を再生するプロジェクトを進めています。また、マングローブを植樹して森林を再生させるだけでなく、マングローブを活用した石鹸や布などの製品を開発・販売することで、地域に雇用を創出する取り組みも行っています。
そのほか、ジャカルタ近海の島々から構成されるKepulauan Seribu(スリブ諸島)では海藻の養殖、バリ島ではサンゴの保護など、マングローブの植林以外にもさまざまなアプローチでインドネシアの環境保存に向き合っています。
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大気汚染問題に取り組むスタートアップ企業
AINO(アイノ)
AINOはインドネシアのGadjah Mada(ガジャマダ)国立大学が出資するスタートアップ企業で、大気汚染の原因の1つである道路渋滞を緩和する交通ソリューション事業を行っています。
その一環として、複数の交通機関にまたがる運賃計算とチケット管理、カードやモバイルQRでの公共交通機関の利用、交通事業者が運行や売上に関する情報を一覧できるダッシュボード機能などがひとまとめになったAcasia(アカシア)という交通決済パッケージを開発しました。
このAcasiaはクレジットカードの基幹システム開発などを手がける日本のTIS株式会社と共同開発したもので、交通渋滞による大気汚染問題の解決に向けて2022年7月に採用・運用されています。
参考1:AINO
参考2:TIS「TISとAINOが共同開発した交通決済パッケージ「Acasia」、インドネシア初の統合交通決済基盤「JakLingko」に採用」
インドネシアの環境問題に期待がかかる日本企業の技術
それでは最後に、インドネシアの環境問題において日本企業が期待される技術、日本企業による実際の取り組み事例を紹介します。
グリーンビジネス・ウェビナーが開催
JETROは2022年12月、環境関連製品でインドネシアへ進出したい⽇本企業向けに「グリーンビジネス・ウェビナー」を開きました。
同ウェビナーでは、日本企業を含め製造業の工場が集まる西ジャワ州では特に水質汚染が進んでおり、対策が急務であるという報告がされました。また、2021年に発出された政令第22号により工場排水基準が厳格化され、排水処理に関する製品や技術などのビジネスへの需要が高まっており、この分野で日本の技術が期待されているという内容の共有もありました。
産業排水処理過程で発生する汚泥の乾燥処理に関する高い技術力を持つ日本企業にとって、インドネシアではまだ発展途上である同分野は、今後大きなビジネスチャンスとなりえると結論付けられました。
参考:ジェトロ「環境法制により排水処理過程の技術ニーズ高まる、ジェトロがウェビナー」
日本企業の取り組み事例
日本企業の取り組み事例の1つとして、Daigasグループが行った「インドネシア共和国 ACF大気浄化ユニット普及促進事業」が挙げられます。
同社は、ACFという空気を浄化するユニットを南ジャカルタ市のFatmawati(ファトマワティ)総合病院前の国道に設置しました。この場所に設置した理由は、健康被害に敏感な通院患者が多く通行するにも関わらず大気汚染が深刻であり、空気の浄化が急務であるからです。
2018 年9月にユニットを設置した結果、大気汚染物質のNO2(二酸化窒素)が約1年間で平均60%除去できたとのこと。また、ユニット設置前は周辺の大気がインドネシアのNO2環境基準を大きく上回っていましたが、1年間にわたり環境基準以下に保つことができました。
同プロジェクトは2018~2019年の1年間で試験的に行われたものですが、これによりインドネシアの大気汚染問題対するニーズを見出し、日本の環境問題に対する技術の信頼性を高めると共に、人的ネットワークの構築にもつながったとされています。
参考:JICA「インドネシア共和国 ACF大気浄化ユニット普及促進事業 業務完了報告書|P8.本事業の実施内容、P9.本事業の結果/成果」
インドネシアの環境問題に大きな影響を与えるスタートアップ企業たち
本記事ではインドネシア国内で特に問題になっている環境問題と、その解決に取り組むスタートアップ企業に焦点を当てて紹介しました。
インドネシアには現在多くの環境問題が存在しており、人々の生活や健康を脅かすことから、政府と共に、多くの企業が解決に向けて取り組んでいます。大企業はもちろん、最近は先進的な技術とプランで貢献するスタートアップ企業の存在も見逃せません。
一方で、環境問題を始めとする社会問題解決に取り組むスタートアップ企業には、資金不足という悩みが付いて回ります。気骨あるスタートアップ企業の先進的な取り組みに対する事業協力や資金面での投資も、待ち望まれています。
インドネシアでのビジネスにお悩みの方へ
最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
もし宜しければ、現在抱えているお悩みを弊社に壁打ち的に相談してみませんか。何かしらお役に立てる情報を共有できる自信があります。
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インドネシアにはどのような環境問題が存在しますか?
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インドネシアには多くの環境問題が存在し、特にごみの流出による水質汚染、森林の減少と温室効果ガスの増加、排気ガスによる大気汚染が問題視されています。
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インドネシアの環境問題に取り組む企業を教えてください。
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インドネシアでは環境問題に取り組むスタートアップ企業が盛り上がっており、例えばごみ問題ではwaste4change、Rekosistem、Bell society、森林の減少問題ではCarbon Ethics、大気汚染問題ではAINOなどが活躍しています。
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インドネシアの環境問題に取り組む日本企業を教えてください。
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インドネシアの環境問題に取り組んだ日本企業の事例としてDaigasグループが挙げられます。南ジャカルタ市の国道にAFCというユニットを設置し、沿道の空気浄化に貢献しました。
読後のお願い
弊社で公開している記事の1つ1つは、日本人とインドネシア人のライター、日本人とインドネシア人の編集者がそれぞれ協力しながら丁寧に1記事ずつ公開しています。
記事の内容にも自信がありますし、新しい情報が入り次第適宜アップデートもしています。これだけ手間ひまかけて生み出した記事はできれば一人でも多くのインドネシアのビジネス関係者に読んでもらいたいです。
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