インドネシアの教育業界とリモート授業の現状と課題

公開
2022/11/11
更新
2023/12/24
この記事は約8分4秒で読めます。

インドネシアでは日本と同じ、6・3・3・4の教育制度が採用されています。小学校と中学校が義務教育である点も共通しています。

一方でインドネシアでは、地域による「教育格差」が深刻です。

本記事では、就学率や識字率などのデータを交えながら、インドネシアの教育の現状と課題をご紹介します。また、コロナ禍で広まったリモート授業の様子や課題、政府の対応についてもご紹介します。

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インドネシアの教育業界の現状と課題

インドネシアの学校教育制度

インドネシアでは日本と同じく、小学校6年と中学校3年の合計9年間が義務教育と定められています。その後は高校または職業高校3年、その上に大学や専門学校などがあります。一般の学校は教育文化省が管轄していますが、宗教省が管轄するイスラム学校もあり、特に宗教を重視した教育を行っています。

言語は、共通語としてのインドネシア語の他にジャワ語やバリ語などの各地方語があります。多くの人は地方語を母語としますが、学校教育では「国語」としてインドネシア語を習います。そのため、特に各地から人が集まる都市部では、家族などとの日常会話は地方語、公の場ではインドネシア語というように、2つの言語を使い分けて生活している人が多くなっています。

学校教育の課題としては、まず、図書館や実験室など施設・設備の設置状況・整備状況、教師の数や質などに地域差が大きいことが挙げられます。また、義務教育を高校まで含めることや公立高校の授業料無償化が度々議論されていますが、まだ実現していません。

インドネシアの就学率

インドネシアの中央統計庁の調べ(2021年)によると、小学校の就学率は99.35%、中学校が93.23%、高校が78.53%となっています。小学校はほぼすべての子どもが通っていますが、中学、高校、大学と年齢が上がるにつれて就学率が落ちることや、都市部と地方の農村部で差が出ていること、小学校や中学校にも中退者がいることなど、問題点も少なくありません。

小中学校に行かない、あるいは辞めてしまう原因の一つには、経済的な負担があると言われています。インドネシアでは義務教育の授業料は無料ですが、制服などその他の出費があるため、経済的に余裕がない家庭にとっては負担が大きいのです。加えて、農村部では学校が遠く、親が毎日送り迎えできない場合、自力で通うことに困難を感じる子どももいます。

また、幼児教育の普及も課題です。幼稚園などの未就学児向け教育施設は90%以上が私立であり、地域の有志による教育活動に頼る状態が続いています。政府は「一群一幼児教育機関」の設置を目指していますが、まだ30%の群に幼児教育機関がありません。

幼稚園などで学ぶ子どもはインドネシア全体で19.5%に留まっており、教育機関を増やすことと同時に、十分な教育を受けて実践を積んだ教師を増やすことや、親世代に幼児教育の重要性を周知することなどが課題となっています。

出典1:Badan pusat statistik「Angka Anak Tidak Sekolah Menurut Jenjang Pendidikan dan Jenis Kelamin 2019-2021」
出典2:BASRA「Baru 19,5 persen Anak Indonesia yang Merasakan Belajar di PAUD」

なお、インドネシアの就学率に関するデータは、統計発表元により異なります。原因としては、統計の基本となるデータが整っていないことの他、政府が定めた修学年齢の前後に小学校に入学する子どもや留年する子どもがいるため、誤差が生じてしまうということが挙げられます。

インドネシアの識字率

インドネシアの中央統計庁の調査(2021年)では、15歳から44歳の識字率は99.27%でした。

年代別に見ると、読み書きができない人は若者よりも中高年に多く、45歳以上の識字率は90.76%でした。一世代前の学校教育が現在より不十分だったことが原因と考えられます。一方で、2001年の69.69%から20年で21.07%上昇しており、以前に比べると教育環境が整ってきたことが伺えます。

識字率は地域間の差も顕著です。インドネシアの教育文化省が15歳から59歳を対象に行った調査(2017年)によると、34の州のうち、11の州は識字率が100%に達していません。識字率が最も低いのはインドネシアの東端に位置するパプア州で、71.25%でした。

出典1:databoks「Masih Ada 9,24% Penduduk Usia 45 Tahun ke Atas yang Buta Huruf pada 2021」
出典2:LIPTAN6「3,4 Juta Warga Indonesia Belum Bisa Baca Tulis」

インドネシアの教育水準と低学力問題

PISA(国際学力調査)で70位前後の成績

ご紹介した通り、インドネシアには日本とほぼ同じ学校教育制度があり、就学率や識字率も徐々に上昇しています。

一方で、子どもたちの学力の低さは大きな課題です。

以下の表は、2018年に行われたPISA(国際学力調査※)におけるインドネシアと他の東南アジアの参加国、そして日本の順位をまとめたものです。

読解力(全体)数学的リテラシー科学的リテラシー
インドネシア66位72位70位
シンガポール2位2位2位
タイ61位57位53位
マレーシア53位47位48位
ブルネイ56位51位50位
フィリピン70位77位77位
日本15位6位5位
※読解力は70か国中、数学的リテラシー・科学的リテラシーは78か国中の順位

ご覧の通り、いずれの科目でもインドネシアの順位は最下位付近です。2003年に参加を始めて以降、インドネシアは同じ東南アジアに位置するシンガポール、タイ、マレーシア、ブルネイよりも低い順位が続いています。

学力の低さの要因はいくつか考えられます。

その一つとして、「教師など目上の人には絶対に従う」という価値観の下で教育が行われる場合が多く、生徒たちの学習態度が受け身になってしまうという点が指摘されています。

PISA 実施時の調査によると、インドネシアの生徒の63%が「自分の知能は自分ではほとんど変えられないものだ」と答えており、これはOECD加盟国平均の29%を大きく上回りました。

PISA:義務教育修了段階の15歳児を対象に、 OECD(政府開発援助)が2000年から3年ごとに実施。2018年の参加国は79か国。うちOECD加盟国は37か国。

出典1:国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)」
出典2:GLOBAL NEWS VIEW「インドネシア:5,500万人の生徒を抱える教育の現状」

インドネシアのトップ大学は世界231位

低学力の要因としては、大学のレベルが低いことも挙げられます。

2023年版のクアクアレリ・シモンズ(QS)世界大学ランキングによると、インドネシアの大学で最も順位が高いのは231位のガジャマダ大学でした。以下、国内5位までの大学は以下の通りです。

  1. ガジャマダ大学(ジョグジャカルタ特別自治州):231位
  2. バンドン工科大学(西ジャワ州バンドゥン):235位
  3. インドネシア大学(ジャカルタ首都特別州):248位
  4. アイルランガ大学(東ジャワ州スラバヤ):369位
  5. ボゴール農科大学(西ジャワ州ボゴール):449位

つまり、インドネシアでは難関大学を受験するような優秀な子どもたちでも、国内の大学を目指している限り、世界トップレベルの学力には届かないという現状があるのです。

参考までに日本の大学を見てみると、100位以内には東京大学(23位)、京都大学(36位)、東京工業大学(55位)、大阪大学(68位)、東北大学(79位)の5大学が、300位以内には合計10大学がランクインしています。

出典:Quacquarelli Symonds「QS World University Rankings 2023: Top global universities」

政府の教育改革

子どもたちの学力を向上させるため、インドネシア政府は以下のような教育改革を行っています。

  • 2013年:初等教育のカリキュラムを改訂
  • 2020年:Meredeka Belajar(ムルデカ・ブラジャール:自由で自立した学び/教育の規制緩和)5か年計画開始
  • 2022年:小中高校の統一国家試験(UN:Ujian Nasional)を廃止

2020年に始まったMeredeka Belajarは、ジョコ・ウィドド第二次内閣で任命されたナディエム・マカリム教育文化大臣の下で実施されている新プロジェクトです。ナディエム・マカリム大臣はインドネシアを代表するIT系スタートアップ企業Gojekの創業者で、自身の専門分野を活かした政策が期待されています。

2022年に廃止となった統一国家試験は、基準点に達しなければ学校を卒業できない可能性のある重要な試験でした。この試験のための詰め込み教育や教師・生徒の心的負担が問題視され、以前から再検討を求める声が上がっていました。

出典:JETRO「インドネシア教育(EdTech)産業調査」

コロナ禍で進められたリモート授業の状況と課題

対応に差が出たリモート授業

新型コロナウイルス感染拡大を受け、インドネシアでは2020年3月より無期限で学校が休校となりました。幼稚園から大学まで、すべての学校が休校となり、その代わりにリモート授業が行われました。
(休校措置は感染者の少ない地域から徐々に緩和され、2022年11月現在、全国の学校がほぼ平常通りに授業を行っています。)

「リモート授業」と言っても、その方法は様々です。

例えば、ビデオ通話を使った顔の見えるオンライン授業を行う学校がある一方で、担当教師から大量の宿題が出され、WhatsAppなどで提出して終わりという学校もありました。地方の農村部ではインターネットが不安定なため、教師が自ら生徒たちの家に出向いて授業をしたり課題を配布したりする学校まであり、ITインフラの地域差が浮き彫りになりました。

オンライン授業を実施できない学校とその生徒のためには、国営放送(TVRI)が教育番組の全国放送を行い、多くの教師と生徒が視聴しました。

参考:pikiran rakyat「Kisah Guru Berkeliling Mengajar ke Rumah Murid karena Tak Semua Punya Smartphone dan TV」

ITインフラとデバイスの普及状況

英国のメディア企業We Are Socialが2022年に発表したレポートによると、インドネシアでは人口の133.3%にあたる約3億7,000万台の携帯端末が使用されており、人口の73.7%がインターネットユーザーです。

これを見ると、スマートフォンが広く普及しており、国民の大多数がインターネットにアクセスできているので、オンライン授業もしやすいように思えます。ただ実際は、上述の通り、様々な問題がありました。

例えばインターネットの速度は、固定インターネットの中央値が20.13 MBPS、携帯インターネットでは15.82MBPS。これでは、グループでのオンライン通話や容量の大きなファイルの送受信に支障が出てしまいます。なお、日本のインターネットの速度の中央値は、固定インターネットが93.26MBPS、携帯インターネットが40.86 MBPSとなっています。

出典1:Andi.Link「Hootsuite (We are Social): Indonesian Digital Report 2022」
出典2:We Are Social「SPECIAL REPORT DIGITAL 2022 Your ultimate guide to the evolving digital world」

次に、インターネット通信の地域ごとの普及状況です。2021年、インドネシアの中央統計庁が「Kelurahan(区)」ごとに利用できるインターネット通信を調査したところ、以下のような結果となりました。

  • 4G/LTE:61,926区(全体の78.4%)
  • 3G/H:10,416区(全体の13.2%)
  • 2.5G/E:3,551区(全体の4.5%)
  • なし:3,045区(全体の3.9%)

Kelurahan(区):インドネシアの行政区分の一つ。インドネシアの行政区分の最上位は34の「Propinsi(州)」で、州が416の「Kabupaten(県)」と98の「Kota(市)」に分けられる。県または市はそれぞれ4以上の「Kecamatan(郡)」に分けられ、「郡」をさらに分けたものが「Kelurahan(区)」。

インターネットが届かない区がまだ4%あるということと共に、地域差も問題です。

例えばジャカルタ首都特別州では99.3%の区が4Gを利用できますが、同じジャワ島でも中央ジャワ州は90.1%、東ジャワ州は89.4%と割合が下がります。他の島に目を移すと、首都移転先とされる東カリマンタン州は71.5%、インドネシアの西端アチェ州は77.9%、東端パプア州は37.9%などとなっています。

出典:Badan pusat statistik「Banyaknya Desa/Kelurahan menurut Provinsi dan Penerimaan Sinyal Internet Telepon Seluler, 2021」

教育文化省 によると、2020年10月時点で3T(Terdepan:辺境地域、Tertinggal:未開地域、Terluar:外縁地域)と呼ばれる地域でインターネットが繋がらない学校は12,000校、繋がるものの不十分な学校は48,000校ありました。

出典:CNN Indonesia「Kemendikbud: 12 Ribu Sekolah Tak Punya Akses Internet」

通信料負担の問題と対策

通信料の負担も問題です。インドネシアではまだ固定インターネットを契約していない家庭も多く、多くの人がインターネット通信料をプリペイド式で支払っています。そのため、オンライン授業のための通信料は多くの家の家計を直撃しました。

そこでインドネシア政府は、通信料を支払えない家庭の子どものため、学校やモスクなど地域の拠点となる場所にいち早くネット環境を整備する取り組みを行いました。

また教育文化省は、幼稚園から大学までの生徒と教師に対し、それぞれ決められた容量のパケットインターネットを無料で支給。対象者は、2020年が3,560万人、2021年が2,680万人でした。

出典:Kementerian Komunikasi dan Informatika RI「Pemerintah Lanjutkan Bantuan Kuota Data Internet dan UKT 2021」

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識字率100%の次のステップへ

就学率や識字率が100%に近付いているインドネシアの教育業界の次なる目標は、教育の質の地域間格差の是正と、教育水準の引き上げです。特に地域による様々な領域の格差は、経済格差やインフラの整備状況に起因する部分が大きく、政府の力強いリーダーシップが期待されます。

また、インドネシア政府によるインフラ整備と教育改革に加え、政府や現地の学校が国内外の企業や大学などと協力することで、教育の様々な問題にスピーディーに対しアプローチする試みも行われています。

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インドネシアの学校教育制度はどうなっていますか。

インドネシアの学校教育制度は日本と同じ「6・3・3・4」で、小学校と中学校が義務教育です。

インドネシアの就学率は何パーセントですか。

インドネシアの中央統計庁の調べ(2021年)によると、インドネシアにおける小学校の就学率は99.35%、中学校が93.23%、高校が78.53%です。

インドネシアの識字率は何パーセントですか。

インドネシアの中央統計庁の調査(2021年)では、インドネシアの15歳から44歳の識字率は99.27%でした。識字率は地方の高齢者が低めである一方、中年以下では100%に近づいています。

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