資源大国インドネシアの将来性、今後の可能性について
- 公開
- 2022/08/19
- 更新
- 2025/01/02
- この記事は約7分23秒で読めます。
インドネシアの将来性を語る記事の多くは、経済成長率と人口に偏って語られがちです。将来性を判断する上では大事な指標であることは間違いないのですが、それだけだとバランスを欠いた情報となってしまいます。
以下では、インドネシアの将来性について、経済、資源、環境、そして首都移転プロジェクトという4つの切り口から見ていきます。インドネシアの将来性を明るくポジティブな材料からだけではなく、懸念材料も併せて考えていきます。
インドネシア経済の将来性
2050年までにインドネシアは日本を抜いて世界第4位の経済大国へ
ロンドンを拠点とするコンサルティング会社PwCの2017年の調査レポートによると、2016年現在、インドネシアのGDP(購買力平価ベース)は世界第8位です。
それが2030年までに、ロシア、ドイツ、ブラジルを抜いて世界第5位に、そして2050年までに現在4位の日本を抜き、世界第4位の経済大国になると予測されています。こうして経済の規模と伸びしろを見ると、インドネシアは世界でも有数の「将来性のある国」と言えます。
一方IMFのレポートによると、2022年、インドネシアは名目GDPランキングで世界17位となっています。第3位の日本とは約3.8倍の差があり、そう簡単に逆転しそうにはないように見えます。
その他、人口とGDP成長率に目を向けてみましょう。インドネシアの人口は2億7千万人で、今もなお増加中です。平均年齢32歳の若い国であり、加えて実質GDP成長率は5%前後。一方の日本は超高齢社会で平均年齢は47歳。1億2千万人の人口は減少の一途をたどっています。実質GDP成長率も1%に届きません。
このように簡単に比べてみるだけでも、インドネシアの将来性を実感できます。
画像出典・参考1:経済産業省「医療国際展開カントリーレポート インドネシア編」
参考2:IMF「GDP, current prices」
大きすぎるマクロのデータを見ても実感がわきづらい部分もあるかと思います。例えば、皆さんが所属されている業界に絞って、自社の見込み客になりそうなインドネシア人に限定して簡単なアンケート調査を取ってみると、より解像度高くインドネシアを理解できるかもしれません。
「上位中所得国」となったインドネシアの将来と「中進国の罠」
2020年、世界銀行はインドネシアの格付けを「下位中所得国」から「上位中所得国」に引き上げました。この格付けは一人当たり国民総所得(GNI)が基準で、東南アジアではマレーシアとタイが既に「上位中所得国」となっている一方、ベトナムとフィリピンは「下位中所得国」とされています。
インドネシアはこれから人口ボーナス期のピークに入ります。高齢化が進展する速度がタイ、ベトナム、マレーシアなどに比べて遅いインドネシアでは、若い豊富な労働力を活用できる期間はまだまだ続くでしょう。
その間に、新型コロナウイルス感染拡大によって停滞した経済を立て直し、新しい技術を積極的に取り入れることや人材の質を向上させて、国際的な競争力を高めていくことでしょう。いわゆる「中進国の罠」を回避し、明るい将来を切りひらいていくことを期待しています。
※中進国の罠:発展途上国において、一定の水準まで経済発展したあと、発展パターンや経済政策を状況に合わせて転換できず、成長率が低下したり、低迷したりすること。
参考1:JETRO「インドネシアが上位中所得国入り」
参考2:Mitsubishi Research Institute「新興国経済」
資源大国としての将来性
インドネシアは、鉱山資源やエネルギー資源、植物資源が豊富な国です。ニッケルの生産量は世界第1位、石炭の産出量は世界第5位。環境にやさしい自動車タイヤの素材として需要が伸びる天然ゴムの生産量は世界第2位。
更に、食品や洗剤などに幅広く使用でき、バイオ燃料の原料ともなるパーム油の生産量は世界第1位で、インドネシアのパーム油が世界の生産量の約55%を占めています。
インドネシアは、パーム油を原料とするバイオディーゼルの利用を促進しています。軽油にバイオディーゼルを30%混合した「B30」の使用が既に義務化されており、現在は、バイオディーゼル40%混合の「B40」を用いた自動車の走行試験中。2022年中に試験を終了し、技術的な問題を解決した後の本格的な普及を目指しています。
なお、インドネシアのバイオディーゼル開発は「B40」では終わらず、「B100」まで続くとされています。
インドネシアの資源大国としての強みの一つは、生産・採掘される資源のバランスの良さです。特に、いつかは底をつく化石燃料に過度に依存せず、継続的な生産が可能な植物資源が豊富なことは特筆に値します。
また、経済成長を資源の輸出に依存しすぎていないという点もポイントです。天然資源の輸出に関しても、原料を国内で加工し、付加価値を付けて輸出する取り組みを進めています。このような将来を見据えたバランス感覚は、インドネシアの将来性を語る上で見逃せません。
参考1:CNN Indonesia「Fakta Biodiesel B40 yang Mulai Uji Jalan di Indonesia」
参考2:WWF JAPAN「パーム油 私たちの暮らしと熱帯林の破壊をつなぐもの」
インドネシアの環境問題
今、インドネシアを始めとする多くの新興国や発展途上国が、経済を発展させながらいかに環境を保護していくかという課題に直面しています。以下では、インドネシアにおける環境問題とその対策を簡単にご紹介します。
インドネシアにおける環境問題
経済成長という点では順調に見えるインドネシアですが、度重なる自然災害が、その将来性に暗い影を落としています。特に気候変動の影響による災害への対策は、重要な課題です。
例えば首都ジャカルタでは、住民が大量の地下水をくみ上げすぎた結果、世界一と言われるスピードで地盤沈下が進んでいます。そのペースは、毎年約10㎝とも20㎝とも言われます。
そこに海面上昇が追い打ちをかけ、2050年までに全体の3分の1の面積が水没すると予想されています。将来的には、首都がまるごと沈没しかねません。その他、毎年雨季に入ると多発する洪水や、アジアでもワーストレベルと言われる大気汚染も深刻です。
こういった災害の適切な予測や備え、および対処は、インドネシアの将来性を担保するために欠かせません。自然災害が繰り返され、その度に生活インフラが破壊され、人々の暮らしが脅かされている状況は、経済成長のブレーキとなる恐れがあるからです。
そこでインドネシア政府は2024年までの国家中期開発計画で、優先事項の一つとして環境問題への対策を挙げ、低酸素化に取り組んでいます。例えば太陽光発電、地熱発電などの再生可能エネルギーの活用や、既にご紹介したような、バイオディーゼルの導入などです。
参考:JETRO「2024年までの低炭素化目標を設定、再エネ導入などが進む(インドネシア)」
インドネシアの環境問題対策
インドネシアの環境問題対策は、3つの柱から構成されています。
- 自然環境の改善
- 災害と気候変動に対する回復力を高めてGDPに与えるマイナスの影響を引き下げること
- 低酸素化
例えば、家庭ごみの適切な処理方法の確立、森林や泥炭地の修復・保護、農業の持続可能性の向上、太陽光発電所の建設、地熱発電事業の国営持ち株会社設立まで、さまざまな取り組みを進めています。
こうした取り組みは、地球の気候変動対策であることはもちろん、自国の環境保護という目的もあります。森林や泥炭地を守ることは、持続可能な天然資源の生産、そして経済成長にもつながります。
また、2021年に発表されたインドネシアの長期気候戦略では、2030年までに温室効果ガス排出量を従来の29%削減することが盛り込まれています。この目標については、「十分な国際的支援が受けられれば41%削減」という補足も付いており、インドネシア政府としてはこれまでの取り組みの成果と自国の将来性をアピールし、海外からの支援を得たい考えです。
参考:環境展望台「インドネシア政府、新たな2030年気候目標および初となる長期気候戦略を提出」
2050年、すべての新車が電気自動車に
インドネシアは電気自動車の開発と普及に積極的で、エネルギー鉱物資源省は「2040年以降に販売される二輪車はすべて電動二輪車、2050年以降に販売される新車はすべて電気自動車とする」と発表しています。
実際に、インドネシアの電気自動車市場は注目されつつあります。
2022年4月のインドネシア国際モーターショーでは、韓国の現代自動車が手掛けるインドネシア初の国産BEV「Ioniq 5」が展示されました。また、インドネシア現地メーカーのスムート(Smoot)とグシッツ(Gesits)が、国産としては初めての電動二輪車を出展しました。
参考:JETRO「インドネシア国際モーターショーで初の国産EVも展示」
更に、8月に開催された国内最大の自動車展示会「ガイキンド・インドネシア国際オートショー2022」では、前年まではなかった電気自動車の試乗コーナーが設けられ、11のメーカーの電気自動車が試乗用に用意されました。
モーターショーに限らず、展示会では国内外の様々な企業が集まって自社商品をPRする場であるため、インドネシアのトレンドを肌で感じることができる貴重な機会です。定期的にいろんな展示会が開催されているので、是非こちらから確認をしてみてください。
2021年現在、インドネシアの自動車販売台数に占める電気自動車の割合はわずか0.35%です。それでも前年比2.2倍に伸びているところを見ると、インドネシアの電気自動車産業の将来性に期待したいです。
インドネシアは、電動二輪車や電気自動車の普及で環境問題に対応することはもちろん、自国で産出される石油の温存や燃料輸入費の節約を図っています。またインドネシアは、リチウムバッテリーに利用されるニッケルラテライト鉱石の処理能力を向上させ、電気自動車の世界的な生産拠点となることを目指しています。
政府のもくろみ通りに電気自動車産業が発展していけば、インドネシアが「経済と環境の両立」という難題に立ち向かうビジョンと実行力を持つ国であることを、世界に向かって示せるかもしれません。
参考1:REUTERS「インドネシア、2050年以降はEV・電動二輪車のみ販売へ」
参考2:KOMPAS.com「Daftar Mobil Listrik yang Bisa Dites di Dalam Ruang Pameran GIIAS 2022」
参考3:JETRO「インドネシアの自動車販売台数、前年比66.8%増の88万台」
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インドネシアの首都移転からみる将来性
インドネシアの国会は、2022年1月、首都移転法案を可決しました。移転開始は2024年で、移転先は現在の首都ジャカルタから1300キロ離れたカリマンタン島東部。2045年の完成を目指します。新しい首都の名称は、ジャワ語で「群島」を意味する「ヌサンタラ」に決定しました。
移転の理由として、ジャカルタが過密であることや交通渋滞が深刻であること、そして既に触れたような地盤沈下や大気汚染の問題があります。加えて、国内の富がジャカルタを中心とするジャワ島に集中し、他の島との経済格差が大きくなっていることも理由の一つ。
インドネシア政府としては、新首都を政治の中心とし、ジャカルタは経済の中心として引き続き機能させる計画です。これまでインドネシア経済を引っ張ってきたジャカルタを変革することは、インドネシアの将来性にどのような影響を与えるのでしょうか。
首都移転にかかる費用は、インドネシア政府が実施するインフラ計画としては過去最大規模の約3兆7千億円と試算されています。政府関連施設、オフィス街、住宅地、交通網などの開発が必要であり、当然、海外からの投資を呼び込まなければいけません。現地の環境を守りながらの開発には資金と共に知識や技術も必要ですから、日本を始めとする海外の政府や企業が持つノウハウにも頼りたいところです。
とはいえ、新首都建設予定地はまだジャングルで、詳細はほとんど決まっていない状況です。政府の決定がコロコロ変わるのも心配の種。新旧首都に暮らす住民にとっても、投資家にとっても、インドネシア進出を目指す日本企業にとっても、期待と不安が入り混じる時期がしばらく続くでしょう。いずれにせよ首都移転が、インドネシアの将来性を占う一大イベントとなることは確実です。
参考:BBC NEWS JAPAN「インドネシア国会、首都移転を承認 ジャカルタからカリマンタン島東部へ」
インドネシアの将来性
ここまで、インドネシアの経済を中心に、その将来性といくつかの懸念材料について見てきました。
インドネシア経済というと、「規模の発展」や「成長の速度」ばかりが注目されがちです。しかし将来性に目を向けると、発展を目指しながら、地球環境、自国の自然環境、国民の生活環境と生活水準を改善・向上させていくバランス感覚が大切なのだと気づきます。そういった点でも、インドネシアは「将来性のある国」と言えるのではないでしょうか。
ただし、実際にインドネシア進出を計画する際は、産業分野や地域など各々の事情を把握した上で、個別にその将来性を判断する必要があります。また、本記事のような情報に興味がある方は、ニュースレターにご登録いただくと毎日インドネシアの最新ビジネス情報が手に入ります。
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