なぜスラバヤで美容サロン?グロースから売却までを経験した、元金融ビジネスマンから見るインドネシアの美容業界
- 公開
- 2022/10/29
- 更新
- 2024/09/17
- この記事は約1分45秒で読めます。
人口の増加、それに伴い経済成長も著しいインドネシア。様々な日本企業が好機を見出し、インドネシアに進出しています。一方、習慣や嗜好が異なるため、インドネシアのトレンドやマーケティングについてまだ知られていないことも多いと考えています。本連載は実際にインドネシアに進出している日系企業のマーケティング担当者に戦略や戦術などをお伺いする企画です。
今回お話をお伺いしたのは、美容サロン「TOKYO BELLE」のグロースから売却までを手掛けた田口弘樹さん。現在では、TOKYO BELLE含めたインドネシア法人2社の会社役員をされています。TOKYO BELLEは、ジャカルタ・スラバヤで合計7店舗を展開。日本の美容サロンと同様のクオリティで、脱毛やマツエクなどのメニューを提供しています。
田口さんは、新卒で野村證券に入社、札幌でリテール・法人向けの営業、金融コンサルティングの仕事を経験後にインドネシアへ渡りました。なぜインドネシアへ、そして美容業界やスラバヤに着目したのでしょうか?今後狙っている都市に加えて、効果のあったマーケティング施策、スタッフとの関係構築のために工夫していることについてもお伺いしました。
インドネシアの美容業界が伸びると確信を持っていた理由
もともとは日本の金融業界で働かれていたんですよね。なぜインドネシア、美容業界で働くことにしたのでしょうか?
田口
最初は友人の資源ビジネスを手伝うためにインドネシアで働くことにしたんです。退職する話を進めている間に事業撤退することになったのですが、インドネシアに興味があったので、一旦無職になりました。その後インドネシアに渡り、なんとか生計を立てるために色々な仕事をしていました。2014年末頃に金融の営業をしていたとき、日本の友人のつながりでTOKYO BELLEの創業者である室野さんと知り合い、ジョインすることにしました。
美容業界については、8年前からインドネシアの美容市場はなんとなく伸びると思っていました。先進国の例からも、新興国であれば好況不況を問わず、特に美容に女性はお金を使い続けるだろうなと。実際に2016〜2017年くらいからお金持ちや美容に興味のある方だけではなく、そうではない方の来店数が増え始めて、結果的に店舗数もフランチャイズ含め7店舗まで増えました。
人気のメニューや金額帯について教えてください。
田口 脱毛が圧倒的人気で、次にマツエク、フェイシャルの順です。ノースリーブを着る機会が多いので、脱毛のなかでも一番人気で単価が低いのは脇ですね。両脇の脱毛が一回約25万ルピア、日本円で約2500円、VIO(ブラジリアンライン)で一回約40万ルピアですね。平均客単価は約70万ルピア、ロイヤル顧客であれば年間約30ジュタ(日本円で約30万円)以上使う人もいますね。
人口だけではない。“ブルーオーシャン” な都市の見極め方
ジャカルタの方がマーケットの規模が大きかったり人やお金が集まりやすかったりするので多くの企業は進出先として選びやすいと思います。その中で、なぜスラバヤにも店舗を展開されたんですか?
田口 理由はふたつあります。一つ目はGDP。人口がインドネシア全体では2億8千万くらい、スラバヤは300万人くらいなので、1%程度ですが、スラバヤのGDPは国全体の8%を占めています。特にtoCのビジネスでは重要な観点ですね。二つ目は外国人・日本人であること自体が強みになること。ジャカルタは日本人が多いので、あまり目立たないんです。一方、スラバヤの日本人在住者は500人ぐらいなので、色々な所に顔を出して知り合いをつくったりコミュニティに入ったりしていくと、日本人であること自体が強みになります。
スラバヤのビジネス的な特徴を教えていただけますか?
田口 一般の会社員で給与が高い人はそんなに多くないですね。ジャカルタだとテック系・ユニコーン系の会社が多くて、そこで働く一般的な20・30代の人たちの給料が高いんですが、スラバヤはそういう企業があまりないんです。ただ、なかにはかなり裕福な方もいて、そういう方は非上場でプライベートカンパニーにして分社化して、お金を稼いでますね。家がかなり大きかったり外国に頻繁に行ったり、結婚式などのお祝い事はジャカルタよりも派手にやったりしています。
これから店舗の展開先として狙ってる都市はありますか?
田口 スマランやマカッサルですね。スマランに関しては人口は100万人くらいしかないんですが、ものすごい大きな可能性を感じます。あとは、ジャカルタとスラバヤの間くらいに位置しているので、市内にお店ができると、そこでお金を使ってもらいやすいかなと。マカッサルも人口はそんなに多くないんですが、漁業で栄えた都市なので、お金持ちはいます。新しいショッピングモールもできているので、それに乗っかりたいと思っていますね。
プロモーション施策はブランドとの親和性が重要
今までで一番効果のあったマーケティング施策を教えてください。
田口 ブランドアンバサダーとしてサンドラ・デヴィ(Sandra Dewi)という女優を起用するのにかなりお金をかけました。一年契約でTokyo Belle全ての広告媒体と彼女自身のメディアで宣伝をしてもらい、結果としてマスにリーチできてその分効果もありましたね。日本のサロンなので、1店舗目のオープン当初は日本人のお客さんが多かったんですが、起用後はインドネシア人の顧客数・割合が圧倒的に増えました。一番のターニングポイントとも言えると思います。
なぜサンドラ・デヴィさんを起用したのでしょうか?
田口 日本との親和性を重視して、彼女が本当に日本が好きだということがSNSの投稿や面接で直接お会いしたときに伝わってきたからですね。日本によく行ってますし、結婚式も東京ディズニーランドでやっていて、アジアのディズニーランドのブランドアンバサダーにもなってるんです。
フォロワーもサンドラさんが日本を好きだということを理解しているので、日本サロンの宣伝も自然に受け入れてもらいやすくなるということですよね。
田口 そうですね、サンドラ・デヴィさんがTOKYO BELLEを発信することに、違和感が全くありませんでした。むしろブランドとの親和性を気にしている人が少なすぎると思っていますね。フォロワー数が100万人いるから、最近バズっているからという理由でお願いして、上手くいかないということも経験してきました。自分たちのブランドとの親和性があるかどうかを判断するために、投稿を自分の目で確認して、どういった層がいいねをしているか、そして一番は実際に会って仕事の依頼をするかどうかを決めることは必ずやったほうがいいと思います。
安心して働ける職場づくりのために。福利厚生だけではない取り組み
美容サロンは集客だけでなく、リピーターをつくることも大切だと思います。お客さんとの関係づくりについて取り組んでいることを教えてください。
田口 サービスの質を担保するために、研修面に力を入れています。日本で脱毛やマツエクを学んだインドネシア人が定期的にチェックをしたり、知り合いをサロンに送り込んで抜き打ち検査したりしています。
新しいスタッフの採用はどうされていますか?
田口 スタッフの親戚とか紹介が多いですね。技術はお店によって異なるので、うちは引き抜きをせずにスタッフを一から育てています。ただ、結構うちからは引き抜きされます。特にジャカルタはひどくて、お客さんとして来店して勧誘している方もいました。
スタッフが辞めないように職場づくりも重要になるんですね。
田口
そうですね、安心して働き続けてもらえるようにしています。給与を高めに設定したり、産休や育休も自由にとれるようにしたりしていますね。1年とか1年半とかとる方もいますし、一回辞めても復帰しやすいようにしています。
僕はお金や家族の問題をスタッフとしっかり話すようにしています。日本でサラリーマンとして働いていたときに、辞めずにきっちり働いてもらうためには、私生活が安定することが大切だということを感じていたので。まずは、生活の不安を解消するようにしています。
プライベートなお話もされるとなると、スタッフの方とは仲が良いんですか?
田口 個人的にめっちゃごはんをご馳走してますね(笑)田口さんって敬称をつけて呼ばれていたんですけど、敬意いらないからって言って、今は田口って呼ばれています。そうすると主従関係がなくなって、話しやすくなるだろうなと。その中でも仕事として厳しくする部分とメリハリをつけて、バランスをうまくとってるかもしれないです。
飽きさせないために商品のアップデートを続けていくことが大切
インドネシア進出を考えている企業の方向けにアドバイスがあればお願いします。
田口
大切なことは、飽きさせないことに尽きると思います。インドネシア人は飽きるのが日本人よりも早い。日系の化粧品は危機感が薄いために、あまりアップデートし続けておらず、実際にブランド力が落ちてきてます。一方、韓国の化粧品系は飽きさせない努力をしていますね。中身は同じでもパッケージを流行ってるK-POPスター、アイドルグループを使うなどして変えることで、売れ続けています。
あと、うちが協力できる所だと、超ニッチな所得層の上の人たちかつロイヤルカスタマー、つまり化粧品の質がわかるインドネシア人に対してのリサーチができます。今までだと、アンチエイジングクリームのサンプル無料配布とアンケートを実施したり、長期で通い続けてくださってる超高所得のお客様に対して化粧品についてのディープなアンケートを取ったりしました。マス向けだと、販売前に2〜3ミリくらいの化粧水とクレンジングのサンプリングを配ってアンケートをとったこともありますね。
そのリサーチ結果を踏まえて、インドネシアに進出するのかしないのかを決めてもらうのが僕らオフラインの店舗を持っている人たちの役割だと思っているので、リサーチして終わりにならないよう丁寧にやってます。
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