インドネシアの投資家ビザ(ゴールデンビザ)の概要と取得条件
- 公開
- 2024/02/04
- 更新
- 2025/01/01
- この記事は約7分33秒で読めます。
2023年8月、インドネシアで投資家ビザ(ゴールデンビザ)の運用が開始しました。投資家ビザとは、政府が定める基準以上の収入や資産を持つ人、特別なスキルを持つ人を対象に発給されるビザのこと。投資家ビザを持っている人は、ほかのビザに比べてさまざまな面で優遇されます。
そこで本記事では、インドネシアの投資家ビザがどのようなものなのかを紹介するとともに、取得条件や取得方法の詳細をまとめました。
また、記事の最後には、インドネシアよりも早く投資家ビザを導入している国の事例を紹介します。
円表記は2024年1月15日のレート(1ルピア=0.0093円、1ドル=145.11円)で換算したものです。
インドネシアの投資家ビザ(ゴールデンビザ)とは
投資家ビザ(ゴールデンビザ)とは、インドネシアに5~10年間滞在できるビザのこと。一定以上の収入や資産を持つ人のほか、投資家や経営者、アスリートなど、専門的な知識や高い技術、特別な経験などを持つ人材や国際的に活躍する資質を持つ人材を対象に発給しています。
インドネシア政府は、ビザと滞在許可に関する法務・人権大臣規定「2023年第22号」を2023年8月24日に施行。続いて、ゴールデンビザサービスの税外収入に関する財務大臣規定「2023年第82号」を2023年8月30日に施行しました。
インドネシアの多くのビザの滞在日数の上限は30日~1年間のため、5~10年間滞在できる投資家ビザの受給者は、ほかのビザの受給者と比べて優遇されているといえます。
投資家ビザの狙いと背景
先述の通りインドネシアの投資家ビザは、投資家や経営者、アスリートといった、専門的な知識や高い技術、特別な経験、あるいは多額の資産を持つ人材を対象としています。
投資家ビザには、こういった特別な能力を持つ人材を誘致することで、インドネシアの国内経済の成長を促進したいという政府の狙いがあります。
東南アジアの国々は昨今、優秀な外国人の誘致に積極的です。例えばマレーシアでは、収入の高い外国人に20年間の居住を許可するプレミアムビザの提供を2022年から開始。
また、タイでも2022年から富裕層や高度なスキルを持つ人材を対象にしたLTRビザの発行を開始し、受給者に10年間の滞在許可を与えています。
インドネシアが投資家ビザプログラムを始めた背景には、このように、東南アジア各国が国際的な競争力を高めようと外国人の誘致に力を入れているという流れがあります。
参考:Malaysia Premium Visa Programme「Malaysia Premium Visa Programme (PVIP)」
参考:ジェトロ「9月開始の長期滞在者(LTR)ビザの概要、投資委員会が説明」
投資家ビザを取得するメリット
投資家ビザを取得するメリットとして、以下のような点が挙げられます。
- 最大10年間の長期にわたり滞在できる
- 滞在期間の延長や出入国が容易になる
- 一時滞在許可証(ITAS)の申請が不要になる
- 空港でのセキュリティが優先・強化される
特に注目すべき点として、ITASの申請が不要なことが挙げられます。ITASとは一時滞在許可証のことで、インドネシアに長期間滞在する外国人は本来、出入国管理局へ出向いて申請する必要があります。
しかし、投資家ビザで入国する人の場合は、長期間滞在する場合でもこのITASを申請する必要がありません。また、出入国の手続きが簡易化されるとともに、空港でセキュリティチェックを優先して受けられるといった点も投資ビザ取得のメリットです。
インドネシアの投資家ビザの取得条件
投資家ビザの取得条件は、インドネシアで会社を設立するかどうか、個人か法人かによって変わります。また、なかには政府から推薦を受けて投資家ビザを取得するケースもあります。
そこで次に、インドネシアの投資家ビザの取得条件をパターン別に紹介します。
参考:The Embassy of the Republic of Indonesia The Hauge, the Netherlands「Golden Visa」
インドネシアに会社を設立しない個人外国投資家の場合
インドネシアに会社を設立しない個人投資家の取得条件は、以下の通りです。
【発給費用】
- 最長5年間の滞在:1,300万ルピア(12万1,360円)
- 最長10年間の滞在:1,950万ルピア(18万2,000円)
【必要な証明】
- 少なくとも 5,000ドル(72万5,500円)を持っていることの証明、または同等の生活費があることの証明 など
【最低投資額】
- 最長5年間の滞在:35万ドル(5,078万7,800円)相当のインドネシア国債、またはインドネシアの上場企業の株式か投資信託の購
- 最長10年間の滞在:以下1~3のいずれか
- 70万ドル(1億157万5,600円)相当のインドネシア国債の購入
- 70万ドル(1億157万5,600円)相当のインドネシアの上場企業の株式または投資信託の購入
- 100万ドル(1億4,510万8,000円)相当のアパートの購入
【このビザでできること】
- インドネシアでの事業や投資活動、家族の同行、仕事関連の活動
インドネシアに会社を設立する個人外国投資家の場合
インドネシアに会社を設立する個人投資家の取得条件は、以下の通りです。
【発給費用】
- 最長5年間の滞在:1,300万ルピア(12万1,360円)
- 最長10年間の滞在:1,950万ルピア(18万2,000円)
【必要な証明】
- 少なくとも 5,000ドル(72万5,500円)を持っていることの証明、または同等の生活費があることの証明
- インドネシア国外の企業の株式の証明
- 上の企業の売上高が以下であることの証明
- 最長5年間の滞在:少なくとも2,500万ドル(36億2,770万円)
- 最長10年間の滞在:少なくとも5,000万ドル(72億5,540万円) など
【最低投資額】
- 最長5年間の滞在:インドネシアに250万ドル(3億6,277万円)以上の資本金または投資額の会社を設立すること
- 最長10年間の滞在:インドネシアに500万ドル(7億2,554万円)以上の資本金または投資額の会社を設立すること
【このビザでできること】
- インドネシアでの事業や投資活動、家族の同行、仕事関連の活動
インドネシアに会社を設立する外国法人の投資家の場合
インドネシアに会社を設立する外国法人の投資家の取得条件は、以下の通りです。
【発給費用】
- 最長5年間の滞在:1,300万ルピア(12万1,360円)
- 最長10年間の滞在:1,950万ルピア(18万2,000円)
【必要な証明】
- 少なくとも5,000ドル(72万5,500円)または同等の生活費があることの証明 など
【最低投資額】
- 最長5年間の滞在:インドネシアに2,500万ドル(36億2,770万円)以上の投資額で会社を設立すること
- 最長10年間の滞在:インドネシアに5,000万ドル(72億5,540万円)以上の投資額で会社を設立すること
【このビザでできること】
- インドネシアでの事業や投資活動、家族の同行、設立した会社の取締役会または委員会として働くこと
政府の推薦を受ける人材なども取得が可能
上記のほか、「政府が招待するグローバル人材」や「政府と協力するグローバル人材」などに該当する人も、投資家ビザを取得できるとされています。
インドネシアの入国管理局長Silmy Karim氏は過去に、「中央政府の推薦を受け、国際的な名声をもち、インドネシアに恩恵をもたらすことができる人物なども発給対象者になる」とコメントしました。
この2つのグローバル人材について、経済力に関しては、現段階では「2,000ドル(29万円)または同等の生活費の証明」という規定のみが設定されています。
一方、例えば「政府と協力するグローバル人材」は「世界大学ランキング100 校のリストの大学をGPA3.5以上の成績で卒業したことの証明」などが指定されており、国に恩恵をもたらす能力が必須であることが分かります。
投資家ビザの取得方法
投資家ビザの取得は、下記のビザ取得専用サイト「The Official e-Visa Website for Indonesia」で行います。
https://molina.imigrasi.go.id/
大まかな申請手順は、以下の通りです。
- サイトにログインしアカウントを作成する
- ビザの種類を選択する
- 個人情報とパスポートの情報を入力する
- サイトからのメールを受け取ったあと、メールに記載されている「Activate」をクリック。アカウントをアクティブ化し、ログインする
- ホームメニューで「Apply」をクリックしビザ申請を開始する
- ビザ申請フォームに必要事項を記入して送信する
- 「Make a payment」をクリックし、ビザの代金を支払う
- 支払いが完了するとビザが発行される
- ビザの用意ができるとメールが届き、メールに記載されるリンクからビザのダウンロードを行う
投資家ビザは、発行されてから90日以内に利用する必要があります。取得した投資家ビザを持って入国をすれば、電子一時滞在許可証(e-ITAS)と再入国許可が自動的に取得されるため、これらの手続きを行うために入国後に出入国管理局へ行く必要はありません。
なお、2024年1月14日時点で、投資家ビザの支払いには、VisaとMastercard、JCBのクレジットカードを使用できます。
参考:The Embassy of the Republic of Indonesia The Hauge, the Netherlands「Golden Visa」
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OpenAI社のCEOが投資家ビザの受給者第一号に
インドネシアの投資家ビザの運用開始後、OpenAI社のCEOであるSamuel Harris Altman(サム・アルトマン)氏が1人目のビザ取得者になったことが話題となりました。
同社は対話型のAIツール「ChatGPT」サービスを提供していることで有名で、同サービスはリリース後2か月で世界のユーザー数が1億人を超えています。
実際に同氏は投資家ビザを取得する前にインドネシアへ訪れ、人工知能に関する講演を行っていたとのこと。今後、同氏がインドネシアでどのような投資を行うのかは明らかにされていませんが、インドネシアの人工知能技術の発展への貢献に期待が寄せられています。
投資家ビザを廃止した国と投資家ビザの懸念点
投資家ビザによって優秀な外国人の誘致が進み、国の発展が見込まれる一方、投資家ビザがもたらすデメリットが目立ったことで運用を廃止した国もあります。
例えばポルトガルは2023年2月、投資家ビザの新規受付を停止することを発表しました。廃止の大きな理由は、住宅価格の高騰です。
投資家ビザを取得した外国人富裕層がポルトガルで住宅を多数購入し、都市部で手ごろな費用で住める住宅が不足するようになったことが問題視されました。
ポルトガルのAntónio Costa(アントニオ・コスタ)首相は投資家ビザについて、「かつては意味があった」と述べていることから、インドネシアの投資家ビザに関しても、今後の影響については長い目で見ていく必要がありそうです。
参考:Bloomberg「ポルトガル、移住者対象の税優遇制度を廃止へ-コスタ首相」
投資家ビザはインドネシアの経済強化政策の1つ
今回は投資家ビザについて紹介しましたが、インドネシアは国の経済成長を促進するための外国人誘致を目的に、ほかの施策も講じています。
例えば2022年に発表された「セカンドホームビザ」もその1つです。セカンドホームビザは銀行口座に20億ルピア(1,870万円)以上の預金がある外国人を対象としており、富裕層がインドネシア国内で活発に投資や消費を行うことが期待されています。
これからも、投資家ビザだけでなくさまざま制度が開始されたり変更されたりする可能性があり、今後の動向が見逃せません。
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最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
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インドネシアの投資家ビザ(ゴールデンビザ)について教えてください。
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インドネシアに5~10年間滞在できるビザのことを指します。一定以上の収入や資産を持つ人のほか、投資家や経営者、アスリートなど、専門的な知識や高い技術、特別な経験などを持つ人材や国際的に活躍する資質を持つ人材を対象に発給しています。
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インドネシアの投資家ビザ(ゴールデンビザ)を取得するメリットは何ですか?
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インドネシアの投資家ビザを取得するメリットとして、最大10年間の長期にわたり滞在できる、滞在期間の延長や出入国が容易になる、一時滞在許可証(ITAS)の申請が不要になる、空港でのセキュリティが優先・強化されるなどが挙げられます。
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インドネシアですでに投資家ビザ(ゴールデンビザ)を取得した著名人はいますか?
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penAI社のCEOであるSamuel Harris Altman(サム・アルトマン)氏が1人目のビザ取得者になりました。
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