【インタビュー】「お客さんの中に答えはある」。無添加ソーセージから農場、調味料まで、バリで事業を育ててきたPT. Bali Bukit Alam・今井愛氏の経営

公開
2026/09/11
更新
2026/09/19
この記事は約1分2秒で読めます。

インドネシアでは、地域や文化、暮らしのあり方が多様で、事業を取り巻く環境も一様ではありません。現地で事業を始めると、外からは見えにくかった課題や、地域に根ざして取り組むからこそ生まれる可能性に気づくことがあります。

本連載では、インドネシアで事業を展開する日本人経営者や日系企業の担当者に、現地での挑戦や試行錯誤、事業を続けるなかで培ってきた考え方を伺います。

今回お話を伺ったのは、バリを拠点に食品製造や農場運営を手がけるPT. Bali Bukit Alamのダイレクター、今井愛さんです。

北海道出身の今井さんは2007年にバリへ移住。村の子どもたちの食生活を目にした経験から食育への思いを抱き、自身の子どもに安心して食べさせられる加工肉が見つからなかったことをきっかけに、2015年頃から無添加ソーセージを作り始めました。

2018年に会社を設立し、2020年にはクラウドファンディングで約400万円を集めて農場を開設。原材料の調達や許認可、販路開拓、人材育成を手探りで進め、コロナ禍には顧客層の転換にも挑みました。現在はハラルの和食調味料にも事業を広げています。 何を変え、何を変えずにここまで事業を続けてきたのか。その根底にある経営の考え方を伺いました。

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「子どもに食べさせられるものがない」。ペットボトルから始まったソーセージ作り

今井さんがバリで食品を作るようになったきっかけは何だったのでしょうか。

今井 バリの北西部にある小さな村で働いていた時期がありました。日本人はほとんどいなくて、インターネットもないような場所です。仕事が終わると暇だったので村の子どもたちと遊んでいたら、毎日20人くらいが私を待ってくれるようになったんです。

その頃、子どもたちが食べていたのが、白米にインスタントラーメンをかけたような食事でした。大人は野菜や魚を食べているのに、子どもたちは毎日のようにそういうものを食べている。

不思議に思って親に尋ねたら、「この子は野菜も嫌いだし魚も食べない。でもラーメンをかけると、ご飯をたくさん食べるのよ」と言われたんです。そういう現実を見て、「いつかこのバリで、子どもたちの食育をやりたい」と思いました。

ただ、当時はまだ若かったし、お金もありませんでした。よそ者の自分が親に偉そうなことを言うのも違うと思って、結局何もできなかったんです。

その気持ちが、ご自身のお子さんが生まれたことで戻ってきたそうですね。

今井 はい。子どもが1歳くらいになって、いろいろなものを食べ始めたときです。インドネシアで安心して食べさせられるソーセージやハム、ベーコンが見つからなかったんですよね。

加工品があれば食事も楽になるし、子どもも好きです。でも、売られているものを見ていると、「何が入っているんだろう」と気になってしまう。それなら自分で作ろうと思いました。

最初はレシピを調べながら肉に塩、こしょう、砂糖、ナツメグなどを混ぜました。でも、今度は「これをどうやって腸に詰めるんだろう」と(笑)。

それで地元のお店に行って聞いたら、小さなペットボトルの上を切って、そこに腸をセットして、親指で肉を押し込めばいいと教えてくれたんです。本当にそのとおりに作りました。

最初は、ご家族のために作っていたものだったのですね。

今井 そうです。それを子どもに食べさせていたら、友達から「私もほしい」と言われるようになりました。以前働いていた学校でも「売ったらいいよ」と言ってもらって、少しずつ販売するようになったんです。

そこから、だんだん「ちゃんと仕事にしないと」と考えるようになりました。会社にしてからは、いろいろなところへ営業しました。流通番号を取ってスーパーへ行ったり、レストランへ営業したり、人に紹介してもらったり。ハムやベーコン、チキンソーセージなど、商品も増やしました。

原材料も許認可も、自分で確かめながら積み上げる

無添加の食品を作るうえで、特に大切にしていることは何ですか。

今井 肉ですね。最初はいろいろありました。肉を頼んでも古いものが来たり、中にタバコの吸い殻が入っていたこともありました。

だから、サプライヤーを探すときには一件ずつ確認して、できればその先の豚の農場まで見に行きました。同じようにおろしたばかりの豚でも、腸が真っ黒ですごく臭うものもあれば、ピンク色でほとんど臭わないものもあるんです。

農場へ行ってみると、食べさせているものも飼育環境も全然違いました。残飯のようなものを食べている豚もいれば、きれいな環境で育てられている豚もいる。その中から、本当に信頼できるところとだけ取引するようになりました。

うちの肉は臭みがないと言ってもらうことがありますが、私は豚が食べているものが大きいと思っています。

肉の選び方が、そのままソーセージの品質につながるのですね。

今井 うちのソーセージは95%が肉なので、そのまま味に出ます。

それに、無添加のソーセージでプリッとした食感を出すには、新しい肉でないとうまく結着しないんです。一度凍らせてしまうと難しくなる。だから、毎朝新しい肉を持ってきてもらって使っています。

肉選びだけではなく、サプライヤーとの関係もすごく大事です。定期的にまとまった量を買っていれば、向こうも信頼してくれて、いいものを出してくれるようになります。インドネシアの人たちは情が深くて、私は本当にいろいろな人に助けてもらいながら仕事をしてきました。

会社設立や食品関連の許認可の取得は苦労されましたか。

今井 会社設立については、信頼できる日本人のエージェントさんがジャカルタにいて、その方にお願いしたのでトラブルはありませんでした。

一方、流通番号を取るときは、バリのエージェントに頼むと高いことがわかって、自分でやってみようと思ったんです。インドネシア語もできたので、役所に何度も足を運びましたが、結局取得まで2年くらいかかりました。

検査も厳しかったです。工場の天井に使っていた一部の素材を全部取り替えるように言われたこともありますし、抜き打ち検査もありました。スタッフがマスクや手袋をしているかといったこともチェックされます。

食品業界の経験があったわけではないので、設備や真空パックの機械、包材についても、日本で食品製造をしている知り合いやシェフなど専門家に聞きながら、一つずつ覚えていきました。

日々の衛生管理は、どのように徹底しているのでしょうか。

今井 一番怖いのは食中毒なので、仕事を始める前と終わったあとにそれぞれ1時間掃除します。機材をきれいにするのはもちろん、帽子、マスク、手袋も必ず着ける。作ったものはマイナス30度くらいの冷凍庫ですぐ冷やして、加工時にはしっかり火が通っているかも確認します。BPOM(食品医薬品監督庁)の基準がかなり厳しいので、それに即して衛生管理をしています。

実は、うちの旦那がものすごく潔癖で(笑)。汚い状態を許さないので、衛生管理に関しては、最初の頃からずっと厳しく見てくれているんです。

PT. Bali Bukit Alamの工場
PT. Bali Bukit Alamの工場

日本人市場からローカル市場へ。コロナを機に顧客層を切り替えた

事業を続けるなかで、最も大きな転機はやはりコロナでしたか。

今井 そうですね。2018年に会社を立ち上げて、当時はレストランへの卸がかなりありました。ジャカルタにも卸していましたが、日本人シェフがいるレストランが多かったんです。

それがコロナになって、日本人がほとんど帰ってしまった。もう本当に売上が立たなくなりました。

そこで、「日本人のマーケットではなく、中華系の人たちや豚を食べられる人たちのマーケットに集中しないといけない」と思ったんです。内需を絶対に目指さないといけないと思って、営業先もインドネシア人のお客さんへ変えていきました。

それまで築いてきた顧客層を大きく変える決断ですね。

今井 やるしかなかったですよね(笑)。

配達もかなり頑張りましたし、クッキングクラスも始めて、少しずつ新しいお客さんや取引先との接点が増えていきました。

そうしているうちに、Green School(バリ島の私立インターナショナルスクール)から「うちのソーセージを使いたい」と連絡をもらったのは、特に大きな出来事でした。食にとてもこだわっている学校なので、「わかってくれる人がいた」と感じて、すごくうれしかったですね。

市場側にも変化を感じていますか。

今井 買い手側の意識は、大きく変わったと思います。

うちの商品は無添加なので、賞味期限は冷凍で5〜6か月程度のものがほとんどです。2018年頃にスーパーへ営業したときは、それを見て「こんなに賞味期限が短いものは扱えない」「2年以上ないと難しい」と言われたんです。

でも今は逆に、「こういうものがほしかった」と言ってくれる人もいます。オーガニックショップも増えていますし、オーガニックの商品を扱うスーパーや、食材にこだわるレストランもあります。

クッキングクラスで中華系の奥さんたちと話していても、休憩時間にずっと食べ物の話をしているんですよ。体にいいとか、美容にいいとか。そういうところを見ても、「変わってきたな」と感じます。

そうした変化のなかで、商品の幅を広げているそうですね。

今井 はい。照り焼きソースや焼き鳥ソース、すき焼きソースといった和食用の調味料を作り始めました。クッキングクラスでも実際に使いながら紹介しています。オーガニックでハラルの、日本人が作る調味料という形で、こちらも今展開しています。

ほかに、さまざまな植物を使ったお茶の販売も始めています。薬膳の考え方を取り入れ、女性の不調に特化したお茶で、こちらはどんどん輸出していきたいと思っています。

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「仕事がない子たちを何とかしたい」。事業を広げながら、人も育ててきた

コロナの時期には、新たに農場も始められています。

今井 うちのスタッフや、スタッフの友達で仕事がなくて困っている子たちがいて、「何とかしてあげたい」と思ったのがきっかけです。農場を作れば雇用を増やせるんじゃないかと思いましたし、需要もあると思いました。

そのために日本でクラウドファンディングをして、400万円くらい集まりました。農園を始めたのは、2020年です。

今は野菜や果物が30種類くらいあります。最初の2年くらいはいろいろ試しましたけど、ちゃんと知識があれば、残飯やそこにある葉っぱなど、身近にあるものでも土を作れることがわかりました。

ちゃんと土を作っていけば、ずっといい野菜を作れるようになる。それを知って、私自身が植物や畑にどっぷりはまりました。

そもそも、事業を始めた頃の採用はどうされていたのですか。

今井 ソーセージ事業を始めた当初は、孤児院からスタッフを採用しました。本当に何もできない状態から始まった子たちです。

すごく痩せていて、よく体調を崩す子もいたので、まずお昼ご飯をみんなで作ることにしました。ご飯があって、野菜があって、メインのおかずとスープがある。そういう食事を毎日作るようにしたら、本当にみんな風邪をひかなくなったんです。

2015年から一緒にいるスタッフもいます。その子は当時18歳で、すごく痩せていて、目も合わせられないような感じでした。でも英語の先生を呼んで、毎日1時間英語を勉強してもらったりして、今では英語もできますし、堂々とお客さんと話せます。

2年前には一人で日本へ行かせて、友達のレストランで2週間働いてもらいました。飛行機にもほとんど乗ったことがないような子でしたけど、いろいろな経験をしてほしかったんです。

「できる人を採る」というより、「できるようになるまで育てる」という考え方ですね。

今井 もちろん、こっちもビジネスなので、できる人を育てていかないといけません。でも、できるだけ一人ひとりに可能性を持たせてあげたいと思っています。

生まれる環境は自分では選べない。でも、その後の努力や、出会う大人によって人生は変わっていくんじゃないかなと思うんです。

「インドネシア人はすぐ辞める」とか、「手をかけても裏切る」と言う人もいますけど、うちは本当に辞めないんですよね。こちらがちゃんと教えたり、真剣に向き合ったりすることが大事なんじゃないかなと思います。

オーガニック農園「Bukit Farm」
オーガニック農園「Bukit Farm」

「お客さんの中に答えはある」。人に会い、現地に入っていくことから始める

ここまで事業を続けるうえで、経営者として大切にしていることは何でしょうか。

今井 それは難しいですね。キャッシュフローも、売上をちゃんと伸ばして確保していくことも、本当にずっと勉強中です。何とかここまで続けてきたという感じです。

でも、一つ大事だと思うのは、お客さんとの約束を破らないことです。

うちは無添加でやっています。それなのに、売れなくなったから、利益が薄くなったからと添加物を入れてしまったら、お客さんを裏切ることになるじゃないですか。

「ここで買ったら間違いない」と思ってもらいたい。だから、約束を守り続けることは大事だと思っています。

ほかに、経営をするうえで心がけていることはありますか。

今井 人に会うのはすごく大事だと思っています。

クッキングクラスで実際に話したり、そこから別のスタジオを紹介してもらったり、生徒さんから仕事をもらったり。人に会うことで、どんどん広がっていきます。

経営をしていると、売上が落ちたときに「私はこれを売りたい」「利益が出やすいから、これを宣伝したい」と考えてしまいます。でも、そういう時期は全然うまくいきませんでした。

だから迷ったら、お客さんに会いに行くことにしています。試食会をしたり、直接意見を聞いたりする。そうすると、「あ、これがほしいんだ」とわかるんです。

お客さんの中に絶対答えはあると思っています。

作り手の都合ではなく、必要とされているものを見るということですね。

今井 お客さんの意見を聞くと、「ああ、そういうことだったんだ」と目から鱗みたいな感じになるんですよね。

レストラン向けの商品も、うちは小さい会社だからこそ、大きさや味を店ごとにカスタムしています。脂肪を増やしてほしい、もっと辛くしてほしい、辛くしないでほしいといった要望も聞きます。そうすると、少し高くても頼んでくれるところがあるんです。

最後に、これからインドネシアで事業を始めようとしている日本企業へ、今井さんの経験から伝えたいことはありますか。

今井 私は本当に素人からやってきただけなので、アドバイスできる立場ではないんですけど……やっぱり「人」だと思います。インドネシアで何かやるなら、本当に人です。

日本だったらこうなのに、と思うこともあるかもしれない。でも、ここは日本じゃないですから。

インドネシアの人に興味を持って、そこに入っていく。何がほしいのか、何を必要としているのか。たぶん日本とは違うと思うんです。

だから、インドネシアの人に興味を持って、そこに入っていくと、ヒントがたくさんあると思います。

バリの食品製造会社PT. Bali Bukit Alam

企業情報

会社名PT. Bali Bukit Alam
事業内容食品製造・販売および農業事業
住所Jl.Uluwatu BR tenger Desa Pecatu
Kec. Kuta Selatan Kab. Badung, BALI
設立日2018年

掲載内容は取材時点の情報に基づきます。カケモチは掲載企業のサービス内容・取引結果を保証するものではありません。

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