【インタビュー】「インドネシアで働かせてもらっている」という姿勢を忘れない。イカリ消毒インドネシア・森良太氏が、現地の仲間と築いた衛生管理のかたち

公開
2026/08/03
更新
2026/09/18
この記事は約1分52秒で読めます。

人口が多く、今後も市場の成長が期待されるインドネシアには、さまざまな日本企業が事業機会を見いだしています。一方、日本で培った技術やサービスをそのまま持ち込むだけでは、現地に根づく事業にはなりません。

本連載では、インドネシアで実際に事業を展開してきた経営者や事業責任者に、現地市場との向き合い方や事業づくりの難しさを伺います。

今回お話を伺ったのは、PT IKARI SHODOKU INDONESIAの森良太さんです。

同社は、食品工場やホテル、飲食店、オフィスなどを対象に、ペストコントロール(害虫・害獣の発生を予防・管理する衛生管理サービス)を提供しています。インドネシア法人は2017年に設立され、森さんはその準備段階から事業に携わってきました。

現在、現地法人に駐在する日本人は森さん一人です。インドネシア人スタッフとともに技術やサービスをつくり上げ、今では顧客件数の約6割をローカル企業が占めています。

森さんが繰り返し口にしたのは、「日本のやり方を押し付けないこと」と「インドネシアで働かせてもらっているという姿勢を持つこと」でした。

許認可の取得に苦労した立ち上げ期、経験者をあえて採用せずゼロから育てたチームづくり、価格だけに左右されない顧客との関係について伺いました。

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深夜まで一緒に現場へ。経験のないスタッフとゼロから始めた

イカリ消毒インドネシアの立ち上げから携わっていると伺いました。なぜ進出先としてインドネシアが選ばれたのでしょうか。

森 私たちのお客様になり得る、日本の食品関連企業などのインドネシア進出が目立っていたことが大きかったですね。だから、最初に想定していた顧客は日系企業でした。

設立準備には約1年を要したそうですね。

森 まず、事業を行うための登録でかなり苦労しました。当時、この業種は外資100%では進出できなかったため、現地資本との合弁という形を取りました。現在も株式の3分の1をローカルのビジネスパートナーに持ってもらっています。

ただ、ペストコントロールサービスを提供する日本企業としては、初めての進出だったようで、申請がなかなか進みませんでした。複数のコンサルタントに依頼しましたが、会議をしても進捗がなく、「来月には見込みがあります」と言われ続ける状態でした。

日本から来て話をしているのに何も進まないので、恥ずかしながら「私たちも遊びでここにいるわけではありません」と声を荒らげたこともあります。

そんなときに、思いがけない人のつながりが事態の打開につながったと伺いました。

森 会社の準備と並行してスタッフを雇っていたのですが、そのうちの一人が「母親が申請先の役所の前で屋台をやっている」と教えてくれたんです。担当者もその屋台に来るというので、そこからつないでもらったところ、トントン拍子に申請が進みました。

人のつながりが物事を動かす、インドネシアらしいエピソードですね。そもそも、現地スタッフの採用はどのような方針で進められたのでしょうか。

森 ペストコントロールの経験がない人を採用しました。すでに経験がある人には、それまでのやり方があります。それよりも、経験がなくても一緒に新しいやり方をつくっていける人がいいと思いました。

最初は深夜まで一緒に現場に入り、道具の使い方から手取り足取り教えました。本当に後ろから手を添えて、「こうやるんだよ」と教えるような状態です。

ドライバーとして採用したスタッフが、技術者として活躍しているケースもあるそうですね。

森 待っているだけでは暇だから手伝いたいと言って、現場に入るようになりました。実際に作業を任せてみると、技術的な仕事を淡々とこなすことに向いていたので、それなら技術者にしようということになりました。今も古株のメンバーとして頑張ってくれています。

ほかにも、初期からいるメンバーが、現在のスーパーバイザーやリーダーになっています。長くいるから昇格したというより、私が直接教えた経験が彼らの自信になり、後輩に技術を伝えたり、現場を調整したりできるようになった結果です。

Bekasiに位置するイカリ消毒インドネシアの事務所
Bekasiに位置する事務所

「日本ではこうだった」を押し付けず、現地のやり方をつくる

日本品質のサービスを実現するうえで、現地スタッフにはどのような教育をしてきたのでしょうか。

森 日本で研修を受けたわけではなく、基本的には私や現地のメンバーが一緒に仕事をしながら技術をつくってきました。インドネシアの薬剤メーカーが開く講習会にも参加してもらっています。

意識しているのは、「日本のイカリ消毒ではこうだったから」と押し付けないことです。現地には現地のやり方がありますから。

最初は「イカリ消毒はこうだ」「日本品質はこうだ」という意識もあったので、今振り返ると少し恥ずかしい部分もあります。でも、実際には日本と同じようにできないことのほうが多い。現地のメンバーに実際の業務を任せるなかで、日本での経験がヒントになりそうなことがあれば、そこで初めて伝えるようにしています。

日本のやり方を再現するのではなく、インドネシアで機能するやり方を一緒につくると。

森 そうですね。薬剤も、基本的にはインドネシアで登録され、現地で試験や認証を受けているものを使います。世界的な薬剤メーカーの商品もありますから、無理に日本から持ってくる必要はありません。

粘着板なども、日本の商品は品質が良いですが、輸送コストがかかり、納期も安定しません。現地でも、価格だけを優先しなければ品質の良い商品を見つけられます。だから、現地で調達できるものは現地で探し、どうしても必要なものだけを日本から持ってくるという考え方でやっています。

薬剤の使い方も、チームで試行錯誤しています。濃度や使用量の基準は決まっていますが、床面を中心に薬剤を散布していた方法を、壁面中心に変えてみたり、施工の間隔を変えてみたりする。そうして結果を見ながら、「これは使える」と判断します。

スタッフが自分たちで施工方法を工夫できるようになるまで、数年はかかりました。今は、それぞれが自分の役割を理解して動いてくれているので、安心しています。

現在は、さらにスタッフの強みを可視化する取り組みも始めているそうですね。

森 はい、スキルマップを作ろうとしています。自己評価と周囲からの評価を使って、それぞれがどのようなスキルを持っているかを一覧にするものです。

まずはスーパーバイザーと、「お前の強みは何だ」「私はこう思っている」という擦り合わせをしています。今後、リーダーや技術者にも広げていけば、次に誰をリーダーにするかという判断材料にもできます。

給与や評価は、スタッフ同士でも話題になります。誰の給与が高い、あるいは低いという話から、誤解が生じることもあります。立ち上げ時には給与体系が十分に固まっていなかった部分もあるので、現在は少しずつ整備しています。

年数だけではなく、できることを見える形にすると、スタッフにとっても、次に何を身につければよいかがわかりやすくなりますね。

森 まだ手探りですけどね。ただ、長く働いているという理由だけではなく、能力の高い人がいれば昇格させていきたいと思っています。

虫を駆除するだけではない。お客様と一緒に改善する

ペストコントロールというと、害虫が出たときに駆除する仕事というイメージがあります。

森 実際はそれだけではなく、お客様から要望を受けたら、まずはそれがどういうことなのかを整理して、「では、こうしましょう」「こちらのほうがいいのではないですか」と提案します。

言われるがままに作業するのではなく、お客様と一緒に仕事をするという意識です。問題が起きた場所に行って、薬剤を散布して終わり、という仕事にはしたくありません。

捕まった虫についても、種類や数を細かく分析し、グラフを使ったレポートを作成していると伺いました。

森 私たちは、かなり「オタク的」にやっています。すべてを理解してもらえなくても、細かく分析した報告書があることで、「ここまで調べているんだ」と感じてもらえる。それはスタッフにとっても、自分たちの仕事をお客様に説明する材料になります。

日本的な細かさが、現地でも評価されているのですね。

森 日本のやり方は通用しないと言われることもありますが、すべてが通用しないわけではありません。

例えば、継続して改善するという考え方です。その場の問題が収まればいいと考えるスタッフやお客様もいるなかで、改善を継続して促していく姿勢は、日本で培ったものとして活かせると思っています。

ただし、私たちだけで改善できるわけではありません。

害虫が減ったとしても、お客様側で建物の隙間をふさいだり、衛生状態を改善したりしてもらわなければ、問題は根本的に解決しません。お互いが取り組み、その結果を私たちが確認して、「これだけ虫が減りました」「まだここに隙間があります」とフォローする。そうした双方向の関係が理想です。

価格だけで判断するお客様とは、難しい場合もありそうです。

森 ありますね。営業スタッフは契約を取りたいので、安くても受けたいと考えます。でも、安く受けると十分なリソースを割けず、結果としてクレームになることがあります。それでは、最終的に営業スタッフ自身の首を絞めてしまいます。

「イカリ消毒は高い。でも使いたいので、もう少し頑張れませんか」と言っていただいたときは、期待されていると感じます。その場合は仕様を調整したり、価格を再検討したりします。ただ、契約が価格次第になると、なかなか難しい面もあるんですよね。

多少価格が高くても、改善に向けて一緒に取り組むことを評価してくれるお客様と仕事をしたいと。

森 そうしたいですね。私たちの仕事を認めてもらい、お客様にも改善活動をしていただく。私たちも結果を確認して、さらに提案する。その関係性があるからこそ、現場が良くなるし、ビジネスが安定するんだと思います。

提案をする会社ではなく、言われたことをすぐにやる業者を求める方からすると、私たちは「言ったことをやらず、言い訳をしている」と見えるかもしれません。そうした考え方の違いから契約が切れてしまったときには、残念ですがご縁がなかったということで、「仕方ないよ」とスタッフに伝えています。

イカリ消毒インドネシア従業員の作業場面
害虫の種類や数などを報告書にまとめる

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ローカル企業との取引を広げたのは、パートナーと現地営業の力

立ち上げ当初は日系企業を主な顧客として想定していたものの、現在はローカル企業が約6割を占めています。どのように顧客を広げていったのでしょうか。

森 最初は、「日本から来たペストコントロール会社」ということで珍しがられた部分がありました。現地のペストコントロール会社に不安を感じていたお客様が、一度使ってみようと思ってくれたということもあるでしょう。

その後、本格的にローカル企業との取引が広がった大きな要因の一つは、株式の3分の1を保有しているビジネスパートナーです。その会社は清掃機器のディストリビューターで、現地に幅広い人脈を持っています。そちらからの「友達が飲食店をやっている」「知り合いがモールを運営している」といった紹介で、少しずつ広がっていきました。

現地の営業スタッフも、ローカル企業の開拓に力を入れています。彼らの頑張りは大きいですね。

森さん自身が商談に同行することもあるのでしょうか。

森 あります。お客様から「日本人の目でも見てほしい」「本当に日本人がいるのか。こちらもボスを出すから連れてきてほしい」と言われることがあります。それで時々、営業スタッフに呼ばれるんです。

ただ、同行しても、私は前に出ません。あまりしゃべらずに座っている。いわば「客寄せパンダ」ですね。それでお客様が「本当に日本人がいるんだ」と思ってくれればいい。一言、二言だけそれらしいことを言って、「日本人の目でも確認してもらっている」と感じてもらえれば、役割は果たせています。

ローカルスタッフが主体となって動いているのですね。

森 現地の営業スタッフは、私よりもローカル企業への営業に慣れています。現場を確認して、サービスの設計をし、プロポーザルと見積もりを出す。そこは彼らに任せています。

日本人がいることが商談の入り口になることはありますが、実際に関係をつくっているのは、現地のスタッフです。

「インドネシアで働かせてもらっている」。現地へのリスペクトがすべての原点

今後、イカリ消毒インドネシアとして強化したいことを教えてください。

森 私たちがやっていることを、他社もやるようになったり、追いついてきたりすることはあります。だからこそ、基本を徹底しながら、常に新しいことへ挑戦する姿勢は忘れたくありません。

お客様から意見をいただければ、一つひとつ改善していきたいですね。ただ、サービスを並べて「これができます」と言うよりも、一番大切にしたいのは、お客様に寄り添う姿勢です。

先日、厨房を管理している日本人のお客様から、「いろいろな相談に乗ってほしい」と言われました。愚痴のような話を聞くこともあります。

そういう話もできる相手でよかったと言ってもらえるのは、ありがたいですね。

作業をするだけでなく、衛生管理全般の相談相手になると。

森 作業だけではなく、衛生管理全般の悩みに対して、できる範囲できめ細かく対応したいと思っています。「イカリ消毒でよかった」と言われるように頑張りたいですね。

現地の作業スタッフも、真面目な人が多いです。お客様から「あのスタッフはよかった。ずっとうちに来させてほしい」と言われることがあります。スタッフの名前を覚えて、名前で呼んでくれる日本人のお客様もいます。

それは、必ず本人に伝えます。「あの日本人はお前に厳しく言うけど、名前も覚えているし、結構お前のことが好きらしいぞ」と。そうすると、本人のモチベーションが上がり、さらに良い仕事をしてくれます。

単なる作業員としてではなく、一人の人として名前で呼ばれると、信頼されていると感じますよね。

森 そうですね。うちのスタッフを見かけたら、ぜひ名前で呼んであげてください。もっと頑張って働きますので。

お客様やスタッフとの関係を大切にされていることが伝わります。最後に、インドネシア進出を検討している日本企業へ伝えたいことはありますか。

森 もう、インドネシアに寄り添うという姿勢に尽きます。

日系企業のなかには忘れている方もいるかもしれませんが、私たちはインドネシアで働かせてもらっています。そういう考えがなければ、うまくいかないのではないでしょうか。人間関係でも、ビジネスでも同じです。

「日本ではこうだった」を押し付けないという話とも通じますね。

森 はい。とにかく、相手の宗教や文化をリスペクトすることが大事です。日本人だからといって、特別に偉いわけではありません。もちろん、日本人としてのアイデンティティは持っていていい。ただ、それと現地の人に寄り添うことは両立します。

インドネシアで働くのであれば、現地スタッフと触れ合い、現地のことを知ることです。嫌でもそうせざるを得ない面はありますが、積極的に触れ合っていったほうが、後々の仕事につながると思います。

PT IKARI SHODOKU INDONESIA(イカリ消毒インドネシア)の従業員

掲載内容は取材時点の情報に基づきます。カケモチは掲載企業のサービス内容・取引結果を保証するものではありません。

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