
「インドネシアは簡単じゃない」。マットレス卸メーカーPT Japantech Indo Jayaが10年で見た現地事業のリアル
- 公開
- 2026/07/20
- 更新
- 2026/08/07
- この記事は約1分43秒で読めます。
インドネシア進出を考える日本企業にとって、現地で事業を続けてきた経営者の言葉ほど参考になるものはありません。本連載では、インドネシアで実際に事業を展開する企業に、現地市場の見え方、事業づくりの難しさ、そしてこれからの可能性を伺います。
今回お話を伺ったのは、PT Japantech Indo Jayaの森田健一さんです。森田さんは、3年間のインドネシア駐在を経て一度日本へ戻ったあと、40歳の時に再びインドネシアへ。ビジネスパートナーの支援を受け、マットレス事業の立ち上げに携わりました。
同社は、マットレスブランド「YUKATA」を中心に、枕やシーツなど関連商品も扱うメーカーです。現在は、自社で製造したマットレスを家具販売店やホテル、アパートメントなど法人向けに展開しています。10年続けてきたからこそ見える、現地市場の難しさとチャンスについて伺いました。
「インドネシアにいい印象しかなかった」。40歳でマットレス事業に賭けた
まず、森田さんご自身のことから教えてください。
森田
森田健一、51歳です。40歳の時に思い切ってインドネシアに渡り、ビジネスパートナーさんの支援をいただいて、マットレスの会社を起業しました。
起業と言うとかっこいいんですけど、厳密には会社と場所はすでに確保されていて、箱はできていた状態です。ただ、中身は空っぽでした。そこに私が入って、ほぼゼロから立ち上げた、という感じですね。
もともとインドネシアには駐在されていたんですよね。
森田 はい。3年間駐在していました。その時に、インドネシアにハマったというか、インドネシアにはいい印象しかなくて。帰国して4年間日本で頑張ったんですけど、インドネシアが忘れられなくて、戻ってきました。
そこから10年間、同じ会社で事業を続けてこられたと。
森田 そうですね。40歳の時に、ここに賭けてみたいと思いました。
今の事業内容についても教えてください。
森田
基本的にはマットレスに注力しています。関連商品として枕やシーツなどは多少ありますけど、基本的にはマットレスのみです。
昔は大きな代理店、ディストリビューター向けに販売しているイメージでした。今は、自分たちで作って、自分たちで家具屋さんや販売店に売る形です。グループとしてはジャカルタとバンドンにも会社があり、私は中部ジャワから東側を主に担当しています。2023年にはバリにもデポを出し、倉庫と営業機能を持たせました。
日本と違うのは、売り方よりも「資金回収」。信頼できる相手をどう見極めるか
日本とインドネシアのマットレス市場には、どのような違いがありますか。
森田
日本はもう市場がある程度でき上がっています。大型店舗向けの取り組みが多いですよね。私も日本では、大手さんとの共同開発のような仕事が多かったです。
一方でインドネシアは、まだ家具屋さん、日本で言う布団屋さんのようなお店が主力です。小さな個人商店への販売が多い。その中で一番苦労したのは、やっぱり資金回収ですね。
資金回収ですか。
森田 日本だったら、2ヶ月の支払いサイトでも、2ヶ月後には間違いなく支払われるじゃないですか。インドネシアの場合は、いろいろ理由をつけて2ヶ月経っても払わないとか、2ヶ月経ってからやっと分割し始めるとか、そういうことがあります。
その中で、どうやってリスクを抑えているのでしょうか。
森田 信用できる先を、口コミも含めて、いかに探すかですね。あとは私自身が会って、信用できる人かどうかを確認しています。経験年数とか、お店の場所を自分で持っているのか借りているのかとか、基本的なことも見ます。お金を持っていない人に売るのは、やっぱりリスクが高いです。
最初から大きく取引するのではなく、様子を見ると。
森田 そうです。最初から2ヶ月のサイトをくださいと言われても、あえて最初は1ヶ月で、と言います。枚数も数枚から始めて、様子を見ながら徐々に増やしていく感じです。
営業先はどのように見つけているのですか。
森田
営業マンが持っているリストが多いですね。中途の経験者を採用して、その人の人脈や経験を活かして広げていく。営業は、もう1週間ずっと回るような感じです。1店舗が何百枚、何千枚も買ってくれるわけではないので、顧客をいかに増やすかが大事です。
最近はSNSやGoogleマップで探せるようにもなってきました。ただ、もともと付き合いがある顧客の方が、やっぱり信頼性は高いですね。
日本品質は「日本から持ってくる」ことではない。現地で探し、触り、開発する

インドネシアの競合環境については、どのように見ていますか。
森田
やっぱりブランド認知力のある、歴史のある会社が市場では強いです。あとは資金力のある会社ですね。ブランドや広告にお金を使える会社が生き残っています。
私たちのブランドは、事業を始めてから8年ほど経ちますけど、歴史のあるブランドさんには認知度ではなかなか勝てません。だからこそ、私たちの強みは品質です。「日本の品質をインドネシアで供給します」というコンセプトですね。
マットレスは、外から見ても中身がわかりにくい商品ですよね。
森田
そうなんです。側生地にくるまってしまうと、中身は分かりにくい。同じ形に見えてしまいます。だから、私も前線に出ながら製品の説明をして、信頼関係をいかに築くかを大事にしています。
買っていただけるのは、YUKATAを扱うことでお店の差別化を図りたい、特徴を出したいというお客様ですね。比較的若いオーナーさんは受け入れてくれやすいです。一方で、昔からのブランドを扱ってきた方々に入っていくのは、やっぱりハードルが高いです。
「日本品質」は、どのように作っているのでしょうか。
森田
一部は日本から輸入しています。ただ、インドネシアは価格にもすごくシビアです。いいものでも、高くしてしまうとなかなか売れません。そのジレンマはあります。
だから、日本から持ってきていたものでも、インドネシアで代替が効くものは、私が仕入れ先まで確認に行って、開発から一緒にやるケースもあります。できるだけ現地化を進めています。
仕入れ先探しも、簡単ではなさそうです。
森田
足を使って、いろいろな人に聞きながら探します。外れも多いです。最初は本当に苦労しました。
ただ、少しずつ「マットレスを作っている工場だ」という認知が上がってくるにつれて、サプライヤーさんの方から私たちにアプローチしてくるようになりました。開発が絡むような大事なところは、今も私が一緒に入っています。
「売上がないのが一番苦しい」。工場を任せ、営業の前線に立ち続ける
工場のマネジメントでは、どのような苦労がありましたか。
森田 人を集めること自体には、あまり苦労したことがありません。田舎に工場があるからかもしれませんけど、求人がない時でも「仕事はありませんか」と問い合わせが来ます。求人を出すと、ざっくり20倍ぐらい来るイメージです。ただ、いい人材を揃えるのは、今でも苦労しています。
採用よりも、見極めや育成の方が難しいと。
森田
そうですね。工場の方は、信頼できる工場長が1人いますので、基本的には彼に任せています。採用や育成、品質管理なども、今は任せている部分が大きいです。
もちろん最初は私も一緒に考えましたし、仕組みづくりには携わりました。ISO9001も取得していますが、そういうところは私も一緒にやらないと難しい部分がありました。
森田さんご自身は、営業を見る割合が大きいのでしょうか。
森田 はい。最近は、ホテルやアパートメントなどのBtoBプロジェクトにも力を入れています。デベロッパーさんやホテル、アパートメントを作る方とは、ぜひ一緒に取り組みたいですね。予算に合わせてカスタマイズしたり、オリジナルのものを一緒に開発したりできますので。
今後は、事業を広げるというより、マットレス事業を深めていくイメージですか。
森田
そのつもりです。品質の良いマットレスを作るための努力と合理化を続けていきます。バリにも進出しましたけど、今後もNTB(西ヌサ・トゥンガラ州)など、ジャワ島以外への進出を進めていこうと考えています。
YUKATAブランドも、寝具業界では少しずつ認知度が上がってきました。これからはデジタルブランディングにも力を入れて、みんなが知っているブランドにしたいですね。
「インドネシアは簡単じゃない」。それでも品質で勝負する企業にはチャンスがある

この10年を振り返ると、インドネシアでの事業はどのようなものでしたか。
森田
正直な感想としては、インドネシアは簡単じゃないな、ということです。
最初はビギナーズラックみたいな感じで、5年目ぐらいまではトントン拍子に上がっていきました。当時は、日本品質のマットレスを日本人が直接売っているというのが、すごい強みになりました。目新しさもあって、キャパを超えるぐらい注文をいただき、土地も建物も購入するところまで成長しました。
ただ、コロナ禍に入ってから世の中の仕組みが変わり、競合も増えました。コロナ前には、もう戻らないですね。だからこそ今は、BtoBのプロジェクト、ホテルやアパートメントの物件に力を入れています。
それでも、インドネシアにはチャンスがあると感じますか。
森田
ありますね。インドネシアも、もともとは安いものを探す人が多かったんです。マットレスでも当初は苦労しました。
でも生活水準が上がるにつれて、健康志向も時代とともに上がってきています。街中にもフィットネスセンターがどんどんできていますし、睡眠に良いマットレスという考え方も、徐々に広がっていくと思います。時代が、やっと私たちの本領発揮ができるところに追いついてきた感じですかね。
製造拠点として見た時に、おすすめのエリアはありますか。
森田
私が10年間住んでいる愛着もありますけど、中部ジャワはまだまだ製造拠点としていいと思います。人件費も安いし、土地も安いです。高速道路もジャカルタから直通になってきています。
この辺りの人件費は、日本円で約2万円ぐらいです。ジャカルタは今、5万円近いですから、2倍以上ですよね。メーカーにとっては、価格競争力をどう出すかが大事なので、人件費や土地の費用を抑えられるのは大きいと思います。
最後に、これから進出を考える日本企業に伝えたいことをお願いします。
森田 インドネシアは簡単ではありません。でも、品質で勝負する日系企業にとっては、まだまだチャンスは大きいと思います。大事なのは、差別化できるものを、いかにインドネシアで作れるかです。そこがキーだと思います。
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