【インタビュー】「だったら自分で作るしかない」。現地製造まで踏み込んだ兼松インドネシアが、日本の食品をそのまま持ち込まない理由

公開
2026/08/18
更新
2026/09/18
この記事は約1分6秒で読めます。

人口が多く、所得水準も上がりつつあるインドネシアでは、日本企業の進出が続いています。一方、輸入規制、ハラル(ハラール)対応、物流、価格帯など、日本とは異なる条件に悩むケースも少なくありません。

本連載では、実際にインドネシアで事業を展開する日系企業に、現地での経験や事業への考え方を伺います。

今回お話を伺ったのは、PT KANEMATSU TRADING INDONESIAのプレジデント・ディレクターを務める西村浩一さんと、加工食品の国内販売を担当するマーケティング・マネージャーの田野直仁さんです。

西村さんは1989年に兼松株式会社へ入社し、食品部門で約37年間勤務。インドネシアとの食品ビジネスにも長く携わり、2025年8月に初めて現地へ赴任しました。

田野さんは中途採用で兼松に入社し、日本では加工食品の輸入販売を担当。2024年9月からインドネシアに駐在し、現地で製造する加工食品の国内販売を担っています。

兼松がインドネシアで選んだのは、日本の商品をただ輸入するだけではなく、現地に製造機能を持つことでした。

なぜ、そこまで踏み込んだのか。現地で求められる「日本クオリティ」とは何なのか。そして、日本企業がインドネシアの食品市場に挑戦するうえで何を考えておくべきなのか。お二人に伺いました。

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「供給するメーカーがないなら、自分で作る」。現地製造まで踏み込んだ理由

まず、お二人のこれまでのご経歴と、インドネシア事業に携わるようになった経緯を教えてください。

西村 私は大学を卒業して1989年に兼松株式会社へ入社し、それからずっと食品部門です。37年ほど食品に携わってきました。

インドネシアに赴任したのは2025年8月が初めてですが、インドネシアとの食品ビジネス自体には以前から長く関わっていました。現在は兼松トレーディングインドネシアの代表を務めています。

田野 私は中途採用で、7年前に兼松へ入りました。日本では主に加工食品の輸入販売を担当していました。2024年9月にインドネシアへの駐在が決まり、現在は基本的にカネモリフード(インドネシアのCIMORYグループとの合弁会社であるPT Kanemory Food Service)で製造した加工食品をインドネシア国内で販売する仕事をしています。

兼松がインドネシアで、食品の販売だけでなく製造まで手がけるようになった背景は何だったのでしょうか。

西村 もともと兼松には、中国などで調理食品の合弁会社を設立し、日本向けの商品を製造してきた経験があり、食品製造のノウハウを持っていました。

一方、日系のコンビニエンスストアなどが海外へ進出すると、現地で食材の調達に困ることがあります。求める品質基準を満たす商品を供給できるメーカーがない。それなら「自分で作るしかないかな」ということで、専門のスタッフを連れて始めたのが背景です。

10年ほど経った今では、販売先はコンビニだけではありません。スーパーや外食企業などにも広がっています。

求められていたのは、特殊な食品というより、日本では当たり前にある商品だった、ということでしょうか。

西村 本当に基本的なものです。唐揚げやソーセージ、ジャンボフランクのような商品ですね。

ただ、日本のブランドが求めるとなると、単に商品があればいいわけではありません。安心・安全であること、味の細かな部分までこだわること、安定して供給できること。さらに、新しいメニューを開発するときに、要望をすぐ理解して対応できることも求められます。

そう考えると、「日本人がやるしかないかな」というところだったと思います。

一方で、日本の商品をそのままインドネシアで再現すればよい、という話でもない。

西村 そうですね。大きな違いの一つはハラルです。食品に関するルールが厳しいので、他国から輸入するにも限界があります。そういう意味でも、現地で製造する必要性を強く感じました。

それから所得水準が違うので、当然、求められる価格帯も違います。味の好みもそうですね。甘いものはかなり甘かったり、油で揚げたものが好まれたりする。日本とはまったく違う市場です。

田野 カネモリフードの工場はハラルなので、アルコールを使えません。そのため、日本と同じ味を作れないこともあります。

そこで、どう工夫して近づけるかを考えながら作っています。「日本の商品をインドネシアで作る」と言っても、日本のレシピをそのまま持ってくればいいという話ではないんです。

カネモリフードの製造製品
カネモリフードの製造製品例

「味」だけではない、400人の工場で支える品質と安定供給

現在、現地ではどのような体制で食品を製造しているのでしょうか。

西村 事業会社であるカネモリフードは2015年に稼働を開始しました。兼松と現地パートナーのCIMORY(チモリ―)との共同出資です。

ジャカルタから西へ70キロほどのセランに工場があり、冷凍調理食品、冷凍スイーツ、ソース類などを製造しています。従業員は約400人で、日本人の常駐者は社長を含めて5人です。商品開発や製造管理、品質管理には、日本で経験を持った人間が携わっています。

日系・現地系・外資系の外食・小売企業などに食材を供給していて、アメリカ系のファストフードチェーン、北欧系家具メーカーのフードコートのメニューも手掛けています。

スーパーで一般消費者が購入できる商品もあるそうですね。

田野 市販品は今9アイテムあります。半分くらいがうどんで、それ以外に唐揚げやたこ焼きなどを販売しています。そのなかでは肉うどんが一番売れています。

ほかにも鶏餃子、肉まん、ミートボール、アメリカンドッグなどがあります。パパイヤさん(インドネシアで日本食材を多く扱うスーパーマーケット「Papaya Fresh Gallery」)の商品も製造していますね。

西村 豆腐もあります。パパイヤさんでは、木綿豆腐は毎週火曜日に販売しているんですが、だいたいその日のうちに売り切れています。品切れにならないよう、今いろいろ対応しているところです。

BtoB向けになると、味だけでなく品質管理や安定供給も重要になります。

西村 そうですね。カネモリフードでは食品安全に関する国際認証「FSSC 22000」を取得していて、それによって世界的な大手チェーンとの取引もできるようになりました。

製造しているものも、炊飯して冷凍した味付きのご飯、鶏肉や魚の加工品、コロッケ、味付けしたひき肉など、いろいろあります。

製造だけでなく、外食事業にも関わっているそうですね。

西村 はい。日本の外食企業がこちらで法人を立ち上げる際に共同出資し、一部のブランドでは事業パートナーとして運営会社にも入っています。製造機能に加えて、10年以上食品事業を続けるなかで築いてきた顧客層やネットワークも、私たちの特徴だと思います。

カネモリフード(Kanemory)の工場
カネモリフード(Kanemory)の工場

「輸入できる」と「売れる」は別の話。規制・競合・価格まで見て判断する

日本企業から「この商品をインドネシアで売りたい」という相談が来た場合、まず何を見るのでしょうか。

田野 基本的には輸入規制を確認します。商品によって条件はかなり違っていて、肉や水産品には輸入枠がありますし、小麦粉などでも登録が必要な場合があります。ですので、商品の企画書やHSコードをいただいて、そこから進めていくイメージです。

規制は急に変わることがありますし、枠がある商品では、その枠自体が変わることもあるので、気をつけなければいけません。

インドネシアでは、制度変更を読み切ること自体が難しい。

田野 そうですね。実際に始まってみないとわからない部分もあります。そこはインドネシアで事業をするリスクの一つだと思います。

その意味では、国内に工場を持っているので、国内生産に寄せられるものは寄せながら、チャンスがあるものに関しては規制を確認しながら輸入にも取り組んでいく、という考え方です。

規制をクリアできるかだけではなく、「その商品が実際に売れるか」というところも確認するのでしょうか。

田野 はい。よく聞かれるのが、「今インドネシアのマーケットでどのくらい商品が流通しているのか」ということです。

日本食材を扱っているスーパーや問屋がありますので、そこで実際に何が輸入されているのかを見ることはできます。店頭にも商品が並んでいますから、価格も確認してお伝えします。

輸入品だと、どうしても価格が合わない場合があるので、そのあたりも事前にある程度お伝えするようにしています。

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インドネシアは「勢いがある市場」。本物を知る消費者にどう応えるか

実際に現地で仕事をされていて、インドネシアの食品市場をどのように見ていますか。

田野 すごく勢いがある市場だと感じています。日系のチェーンもどんどん進出していますし、インドネシアのオーナーや大きなフードグループも店舗を増やしています。

所得の高い方も多く、高級パン屋さんができたりしています。一方で、所得水準が上がることで、これまでレストランを利用する機会が少なかった所得層にも外食が広がってきています。

我々としては、その中でも中所得者層くらいの方に合う価格帯をメインに考えています。人口も多い国ですし、これから日本から来る企業にとっても機会はあると思います。

日本食についても、求められるものが少しずつ変わってきていますか。

田野 日本食ブームに加えて円安もあり、実際に日本へ行って本当の日本食を食べるインドネシアの方が増えています。

例えば、こちらでは以前から、とびこなど別の食材を使用したものが「明太子」として提供されていることがあります。でも最近は、日本の味を知った人が、うちの「ハラル明太子」を求めてくれるようになってきました。

質の良いものに、きちんとお金を払ってくれる人が増えてきていると思います。

そうした市場の変化を見て、現地での製造を検討する企業も増えているのでしょうか。実際、どのような企業からOEMの相談が来ていますか。

田野 はい。カネモリフードの工場で作れるものであれば、「OEMはどうですか」という提案もできます。できるだけ現地で原材料を調達しながら、味を合わせて同じようなものを作っていく形です。

うちにOEMの話をいただく企業は、すでにほかでも売れていて、別の委託先を探しているケースが多いです。あるいは、日本から輸出してある程度売れているけれども、「日本から輸出するより、こちらで作った方が安いのではないか」と考えて、インドネシアでの生産への切り替えを検討されるケースですね。

逆に、全く新しい商品を「日本で売れないからインドネシアで」というのは、結構難しい面があると思います。ハラルも皆さん気にされますし、日本食もすでにかなり入ってきています。そこで競争しなければいけませんから。

「最終的には現地で製造して販売」。変化する市場で、腰を据えて挑戦する

今後、カネモリフードや兼松インドネシアとして、さらに力を入れていきたいことはありますか。

西村 カネモリフードの製造機能には、まだ拡大の余地があります。市場のニーズに合った新しい商品カテゴリーを開発したり、現在は外食が中心ですが、ほかの市場へも展開したりしたいと考えています。

ただ、基本となる日本クオリティの商品開発や品質については、コアコンピタンスとしてしっかり持っていたいと思っています。

販売先も、外食チェーン以外へ広げていくのでしょうか。

西村 日系外食チェーン向けなどのプレミアムラインは引き続きやっていきます。一方で、食品市場の大きな部分を占める伝統マーケットにも、一部アクセスしようとしています。

例えば、冷凍食品をお店で揚げて提供してもらう。肉関係の商品や、たこ焼きもあるかもしれません。食材だけではなく、それに合わせたソース類にもニーズがあります。食材とソースをセットで考えていくこともできます。

そうして販売先やエリアを広げていくうえでは、物流も重要になりますね。

西村 そうですね。ジャカルタだけではなく、地方都市にも店舗展開が広がってきていますので、それに合わせて、きめ細かいコールドチェーンでの配送をより広い範囲へ広げていきたいと思っています。

実際に地方へ販売を広げる中で、物流面の難しさを感じますか。

田野 はい。インドネシアは島が多いので、島と島の間を移動するだけでも大変です。物流をどう組むか、どこまで配送できるかというのは、実際にこちらに来てみると難しいと感じることが多いです。

西村 とはいえ、最近は日系企業をはじめ、冷凍倉庫も増えてきています。保管や配送をいろいろな会社にお願いできるようになってきましたので、10年前よりはだいぶインフラが整ったと思っています。

最後に、これからインドネシアへの進出を検討する日本企業へメッセージをお願いします。

田野 インドネシアでレストラン、食品の輸出、あるいはOEMを考えているのであれば、ぜひ兼松に声をかけていただきたいです。何かしらお手伝いできると思います。

西村 インドネシアは人口ボーナスがまだ数十年続き、平均年齢も30歳と若い。消費レベルも所得レベルも上がっているので、非常に期待できる市場だと思っています。

一方で、インドネシアという国は、食品の供給をなるべく自国で行うという基本的な方針を強化しています。輸入に頼っていると、制度の変更によって困難が生じる可能性もあります。

ですから、もしできるのであれば、最終的には現地で製造して販売することを想定したうえで、事業を始められるのがいいのではないかと思います。我々と一緒にいろいろやらせていただけたら嬉しいですね。

企業情報

会社名PT. Kanematsu Trading Indonesia
事業内容総合商社
住所ATRIA@Sudirman 15th Floor
Jl. Jend. Sudirman Kav. 33A, Jakarta 10220
設立日1992年

掲載内容は取材時点の情報に基づきます。カケモチは掲載企業のサービス内容・取引結果を保証するものではありません。

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