
【インタビュー】日本式整体をどう現地に根づかせるか。PT KARADA Indonesia Utama・尾形祐信氏に聞く、インドネシアでの人材育成・教育の難しさ
- 公開
- 2026/09/23
- 更新
- 2026/10/07
- この記事は約1分58秒で読めます。
人口が多く、今後も市場の成長が期待されるインドネシアには、さまざまな日本企業が事業機会を見いだしています。一方、日本で培った技術やサービスをそのまま持ち込むだけでは、現地に根づく事業にはなりません。
本連載では、インドネシアで実際に事業を展開してきた経営者や事業責任者に、現地市場との向き合い方や事業づくりの難しさを伺います。
今回お話を伺ったのは、2014年からインドネシアで日本式の整体サービスを展開するPT KARADA Indonesia Utamaで、現地スタッフへの技術指導・教育を担う尾形祐信さんです。
尾形さんは大学卒業後、銀行に約18年間勤務し、2002年にカラダファクトリーを展開するファクトリージャパングループへ入社。
定年を迎え、嘱託契約で働き始めた直後にインドネシアに赴任し、現在は約100人のセラピストを抱える現場で、技術の再教育や現地トレーナーの育成に取り組んでいます。
そこで直面したのが、施術を決められた「型」として覚えるだけでなく、一人ひとりのお客様の身体に合わせて考えられるセラピストをどう育てるかという課題でした。現地スタッフの特性や店舗の仕組みに合わせて試行錯誤してきた経験、そして尾形さんが教育のなかで繰り返す「なぜ」という問いについて伺っています。
「10人のお客様が来たら、10人全部違う」。現場で見えた最初の課題
尾形さんがインドネシアへ赴任されたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
尾形
もともと海外で働いてみたいという気持ちはずっとありました。
銀行員時代に2年間シンガポールでトレーニーとして働いた経験もあって、会社が台湾に初めて店舗を出したときにも候補には上がっていたんです。ただ、そのときは行けなくて。その後も「行きたい」と言っていたんですが、結局機会がないまま定年になりました。
ところが、嘱託契約を結んで働き始めて2週間くらいしたところで、人事から「来期の体制について相談したい」と連絡があって、海外に行ってもらえないかと。それがインドネシアだったんです。
ジャカルタにもバリにも行ったことがなく、ほとんど知らない国でした。でも、この年齢になって海外で働く機会なんてもうないだろうと思って、来ることにしました。
実際に現場を見て、最初に感じた課題は何でしたか。
尾形
基本的には日本と同じやり方をしていたんですけど、コロナの時期に日本人の前任者が帰国していたこともあって、その間にいろいろな意味でローカライズされていたところがありました。
特に大きかったのが、施術がパターン化されていたことです。
本来のカラダファクトリーでは、お客様のその日の身体の状態を見ながら施術内容を変えていきます。この人は足をやったほうがいい、この人は背中をやったほうがいい、とカスタマイズしていく。それが十分にできていなかったんです。
決められた施術はできても、そこから一人ひとりに合わせて変えるところが難しかったのですね。
尾形
基本の部分はマニュアル化できます。でも、マニュアル化できないところも多いんですよね。
現地のスタッフは全体的な傾向として、臨機応変に対応することが苦手だなという印象があります。もちろん、できる人もいます。ただ、「この場合はこれでいいですか」と聞いて、上司が「いい」と言ったからそれをやる、という形になりやすい。
インドネシア人は、決めたことはやるんですよ。真面目で、積極的に頑張ってくれる人も多い。だからこそ「決めてくれ」と言われることもあります。
でも、お客様の身体について、毎回上司に聞くわけにはいきませんよね。同じ人だって今日と明日で状態が違います。10人のお客様が来たら、10人全部違います。だったら、それぞれやり方を変えなきゃいけないんじゃないの、と。
決められたことをこなす力と、自分で判断する力は別ということですね。
尾形
そうですね。日本でも同じかもしれませんが、臨機応変にやるということは、自分で判断する分、責任も生まれます。
長くやれば、もちろんできるようにはなってきます。ただ、時間はかかります。守破離で言えば、「守」はできるんですけど、「破」がなかなかできないんですよね。
新規出店を止め、100人を再研修。試行錯誤のスタッフ育成
セラピストには、マッサージなどの経験者を採用するのでしょうか。
尾形
経験があるかないかは関係なく採っています。ただ、経験者と未経験者のどちらがいいかと聞かれたら、私は経験がないほうがいいです。
カラダファクトリーのやり方を教えようとしたときに、前の技術に固執されたり、自分が今までやってきたやり方を強く出されたりすると、なかなか新しいものを覚えられませんから。
経験がなければ、真っさらなところから教えられるので、素直に覚えてもらいやすいです。
人材の定着という面ではどうですか。
尾形
この業界は、日本も含めて転職したり辞めたりする人は多いですね。日本では毎年新卒を150人くらい採っていますけど、半年で半分残るかどうかくらいです。
インドネシアでも、5年勤続のスタッフは半分もいないと思います。ただ、日本と比べると、定着率は悪くないのかなと思います。他の企業さんはわからないので比較できませんが、給与も影響しているのかもしれません。
技術面ではどうですか。先ほどの「施術のパターン化」以外にも、課題はあったのでしょうか。
尾形
店舗ごとやセラピストごとの技術レベルの差も課題でした。そのため、去年、いったん新しい店舗の出店を止めて、既存セラピスト全員の再研修をやりました。
約100人のセラピストがいますから、一度に全員の実技を見るわけにもいきません。5人ずつやるような形になり、とても大変でした。
しかも、セラピストを直接教えればそれで済むわけではなかったんです。
普段のトレーニングはインドネシア人のトレーナーがやっているので、最初に変えなきゃいけないのはトレーナーでした。トレーナーが間違ったやり方や、効果の出にくいやり方を覚えていたら、それをそのまま次の人に教えてしまいますから。
技術の差を縮める取り組みをされているということですが、教え方を変えた点はありますか。
尾形
「なぜ」を説明するようにしています。
以前は、やり方だけを教えられている部分が多かったんです。「なぜこれをやるの?」「なぜこのやり方をしちゃだめなの?」と聞いても、理由が出てこない。「わかりません」「そう教わったから」で止まってしまう。
だから今は、なぜこれをやるのか、なぜこれはやってはいけないのかを、理由から説明するようにしています。理論がベースにないと、結局応用ができないですから。

技術を広げるには、まず教える人を育てる
日ごろの技術指導も尾形さんが担当されているのですか。
尾形
普段のトレーニングはインドネシア人のトレーナーがやっています。
再研修でも、最初に変えなきゃいけないのはトレーナーでした。トレーナーが間違ったやり方や、効果の出にくいやり方を覚えていたら、それをそのまま次の人に教えてしまいますから。
トレーナーとのやり取りで気を付けていることはありますか。
尾形
なるべくすぐに答えを出さないようにしています。「ちょっと考えてみて」「仮説を立ててみて」と。例えば新人研修のスケジュールを作るときでも、「こうしたいです」と言われたら、「なんで?」と聞きます。
思いつきを言うのは別にいい。でも、それを実際にやるなら根拠が必要ですよね。私が全部答えを出してしまったら、彼らの成長もありません。
だから「なんで、なんで」と聞きながら、できるだけディスカッションして、考えさせるようにしています。
そうしたやり取りを続けて、変化は感じていますか。
尾形
感じますね。
今のメンバーとは3年目くらいになります。1年目は私もなかなか深く入り込めなかったんですけど、去年の再研修以降は、トレーナーともいろいろ話しながら進めるようになりました。今では私の考えていることもかなり理解してくれるようになってきています。
時間はかかります。言葉の壁も感じます。でも、こちらも誠意と根気を持ってやれば、応えてくれる真面目な人が多いと思います。
トレーナーの採用にも、日本とは違った難しさがありますか。
尾形
今、トレーナーが一人辞めるので、次の候補になっているセラピストと話をしているんです。その人もトレーナーには興味がある。でも、トレーナーになると収入が下がってしまう可能性があるんです。
セラピストなら週6日店舗に出て施術をするので、その分、チップを受け取る機会があります。でもトレーナーになると、施術に入るよりもトレーニングセンターにいる時間が増えます。当然、チップも減りますよね。
だから、こちらがトレーナーになってほしいと思っても、本人にとっては収入面で悩むところがある。チップ文化があるので、そういうところにも難しさを感じます。
「また行きたい」のために、サービス全体をどうつくるか
整体の技術以外では、どのようなことをスタッフに伝えているのでしょうか。
尾形
創業者からずっと言われてきたのが、「お前らはエンターテイナーだ。ここはディズニーランドなんだ」ということです。
ディズニーランドって、一度行ったらまた行きたいと思いますよね。楽しいから。それと同じで、ただ身体を良くするだけではなくて、「また行きたい」と思ってもらわなきゃいけない。
施術中の会話もそうですし、お客様の悩みを知ることもそうです。ホテル並みのサービスや、キャビンアテンダントのようなホスピタリティが必要だということもずっと言われてきました。
技術だけでなく、お客様との関係づくりも施術者の仕事なんですね。
尾形
そうですね。日本では、受付からカウンセリング、施術、会計、次回予約まで、基本的に施術者が関わります。
特に次回予約は大事です。今日のお客様の身体を見て、「この状態なら次はこのくらいのタイミングで来たほうがいいですよ」と説明する。それを理解してもらったうえで、次の予約につなげていきます。
この商売は、新規のお客様ももちろん必要ですけど、リピーターがいないと成り立たないですから。来てくださった新規のお客様に、また来てもらう。そのためには施術だけではなく、カウンセリングや会話も重要になります。
その仕組みは、インドネシアでも同じなのでしょうか。
尾形
そこが違うんです。
インドネシアでは、会計や次回予約の確認が受付の仕事になっています。日本やほかの海外拠点には、このような受付スタッフは基本的にいないんですけど。
だから、セラピストが施術中にきちんと説明しても、最後に受付でうまくつながらないと予約にならない。
日本ならセラピストに「なぜ予約が重要なのか」を教えればいいんですけど、インドネシアでは受付スタッフにも同じ教育をして、理解してもらわないといけない。さらに、セラピストと受付が情報共有しないといけない。ここが二度手間で、ある意味ネックだと感じています。
施術者と受付が分かれていることで、お客様への対応にも影響が出ることがありますか。
尾形
ありますね。
実際に、受付の対応がクレームにつながったこともあります。逆に言うと、クレームのうち何割かは、受付の段階で防げるものなんじゃないかと感じています。
だから受付スタッフにも研修をしたいとずっと言っているんですが、セラピストとは管轄も違うので、なかなか実現できていないところがあります。
日本の強みを持ち込むだけでは足りない。まず「現地を知る」
インドネシアで日本式のサービスを展開してきて、「日本」というブランドの強さは感じますか。
尾形
インドネシアでは、日本のものが比較的受け入れられやすいですよね。カラダファクトリーの場合も、マッサージとは違う日本式の整体として始めましたけど、わりとすんなり受け入れてもらえたんじゃないかと思います。
今でもおかげさまでお客様の数は保てていますし、「これが日本スタイルなんだ」と受け取ってもらえる。その意味では、日本ブランドの強みはあると思っています。
ブランディングという意味では、日本語のひらがなや漢字を使うだけでも興味を持ってもらいやすいんじゃないかと思います。
一方で、ローカライズが必要な部分もあると思います。
尾形
そうですね。日本式のおもてなしやサービスをそのまま全部持ってくる必要が本当にあるのかというのは、考えたほうがいいと思います。
思い切り高級感を出すことを売りにするなら、それは必要かもしれない。でも、そうでなければ、日本でやっているからという理由だけで同じものを持ってきても、それが現地で求められているとは限りません。「高級なだけ」になってしまう可能性もあります。
これからインドネシアへ進出する日本企業が、まず意識すべきことは何でしょうか。
尾形
やっぱり、現地のニーズや文化を知って、それに合わせることが一番だと思います。
インドネシアなら、まずイスラム教というものを知らなきゃいけない。日本人は宗教に対してあまり意識しないところがありますけど、その国の宗教や文化をしっかり理解することは必要だと思います。
豚肉がだめ、アルコールがだめというところだけではなくて、ラマダンの期間はどうなのか、お祈りはどうなのか。そういう最低限のことを学んでおかないといけない。
日本との差をきちんと理解したうえで、それに合った教育やサービスを考えていく。
結局、まずはその国の宗教や文化をしっかり理解することじゃないですかね。

企業情報
| 会社名 | PT KARADA Indonesia Utama |
| 事業内容 | 整体院の運営・整体サービスの提供 |
| 住所 | Taman Anggrek Mall, Lantai 2 Jl. S. Parman, Kav. 21, Jakarta Barat |
| 設立日 | 2014年 |
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