【インタビュー】インドネシアで26年。KUMONが「人と理念」を育てながら事業を根付かせてきた理由

公開
2026/09/28
更新
2026/10/15
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インドネシア進出を考える日本企業にとって、現地で長く事業を続けてきた企業の経験には多くのヒントがあります。本連載では、インドネシアで実際に事業を展開する経営者や事業責任者に、現地市場との向き合い方や事業づくりの難しさ、そして長く根付くために大切にしてきたことを伺います。

今回お話を伺ったのは、インドネシアでKUMONのフィールド部門の責任者を務める冨川和寛さんです。KUMONは1991年にインドネシアで最初の教室を開設し、2000年に現地法人「PT KIE INDONESIA」を設立。取材時点ではインドネシア国内に894教室を展開しています。

冨川さんは2006年に新卒でKUMONへ入社。日本各地で教室運営のサポートや新規教室開設、新サービスの立ち上げ、マネジメント経験を経て、2024年7月にインドネシアへ赴任しました。

インドネシア事業が30年以上続いてきた背景にある企業理念やローカル人材の育成、短期的な数字に振り回されない経営、そして「日本から来た会社ではなく、インドネシアの教育団体」になるための挑戦について伺っています。

一つのインドネシアとして考えない。894教室に見る「地域ごとの違い」

まず、冨川さんがインドネシアに赴任されたときのことから教えてください。

冨川 初めての海外赴任だったので、いろいろ戸惑いはありました。

ただ、最初に教室へ行ったとき、日本と同じように、生徒が一生懸命プリントに向き合っている姿がインドネシアでも見られたんです。特に算数は、基本的に世界共通の教材を使っているので、それが強く感じられ、安心したのを覚えています。

今はフィールド部門の責任者として、教室運営のサポートや新しい教室の開設に関わっています。現在は894教室で、新規開設は年間40教室程度です。

ジャカルタだけでなく、地方での教室開設も増えているそうですね。

冨川 今はむしろ、カリマンタン、バリ、スマトラ、スラウェシなど、地方の主要都市へ積極的に展開しています。

教室開設のきっかけの一つとして、もともとジャカルタで暮らしていた方が、結婚や出産などでライフステージが変わり、パートナーの地元へ生活を移すケースがあります。そこで「自分が今住んでいるところにはKUMONがなく、わが子にKUMONを習わせたいので、教室を開設したい」と問い合わせてくださり、地方に教室が生まれることがあるんです。

指導者はSNSなどで募集し、説明会、採用面接、研修を経て、半年ほどかけて新しい教室を開設します。教材指導だけでなく、人材採用や教室運営についてもゼロからサポートしています。

教室が各地に広がるほど、同じやり方では難しくなりそうです。

冨川 そうですね。今後は「インドネシア」という一つの市場で戦略を考えるのではなく、エリアごとの特徴や顧客ニーズを見ながら戦略を出し分けていく必要があると思っています。

例えば、観光都市では数学以上に英語へのニーズが高い場合もあります。地域によって産業も所得水準も違いますし、宗教的背景についても、同じムスリムでも保護者のキャリアなどによって考え方は違います。ある程度セグメントに分けながら見ていかないと難しいですね。

これまではオールインドネシアで戦略を考えることが多かったのですが、これからは「このエリアのお客様は何を求めているのか」をより細かく捉えていきたいと思っています。

その地域ごとの違いは、どのように把握しているのでしょうか。

冨川 やっぱり現場ですね。実際に教室へ行って、先生と話して、生徒の様子を見ることを大事にしています。この2年間で出張は150回くらいです。実際に足を運ぶと、地域ごとの文化の違いを肌で感じます。

現場の指導者は、お客様と接するなかで、地域の変化やニーズを日々実感しています。そこから情報をもらいながら、「この地域では何が求められているのか」をアップデートしていく。

エリアごとに戦略を出し分けていくのであれば、こちらだけで考えるのではなく、そういう現場の情報を拾っていくことが欠かせないと思っています。

インドネシアのKUMONの授業風景

「Untuk apa?」を問い続ける。理念を、判断できる人へつなぐ

KUMONが30年以上インドネシアで事業を続けてこられた理由は、どこにあると感じますか。

冨川 企業理念や価値観を共有して、そこに賛同してくれた仲間を増やしてきたことだと思います。

実際、30年以上働いているローカル社員もいます。採用でも、応募のきっかけとして一番多いのは社員からの紹介です。

会社を良いと思ってくれている人が少なからずいるから、身近な人に紹介してくれるのかなと思います。もちろん、それにあぐらをかいてはいけませんが、長く働いてくれている社員がいることは大きな財産ですね。

理念を共有するために、冨川さん自身は何を意識していますか。

冨川 いつも「Untuk apa?」と聞いています。「何のためにやるのか」ということです。

指示をすれば、社員は熱心に取り組んではくれます。でも、それだけだとタスクをこなした、作業をしただけになってしまいやすい。何のためにやるのかを理解していなければ工夫も生まれませんし、結果としてローカル社員の成長にもつながらないと思っています。

だから私自身も、「この戦略はなぜやるのか」というところは、本当に時間をかけて説明するようにしています。

答えを教えるのではなく、自分で判断できる状態をつくると。

冨川 そうですね。これまでは日本人駐在員が旗振り役を担ってきましたが、これからは、その旗を振れるローカル社員をもっと活かしていく必要があります。

駐在員として自分がこの会社に残せるものは三つだと思っています。一つ目は、売上や生徒数といった成果。二つ目は、それを再現できる仕組み。そして三つ目は、人を育てることです。

例えば、部下には「どうしましょう?」と私に判断をゆだねるのではなく、プランA、B、Cを持ってきて、「私はAを選びたいです」という形で提案してもらう。そこで私が「それでいいと思う」と部下の判断を支える。

時間はかかりますが、基本的にはローカル社員に、自分で判断する経験を積んでもらいたいと思っています。

判断するときの軸も伝えているのでしょうか。

冨川 「あなたが会社全体の責任者でも同じ判断をしますか」「今その判断をしたら、5年後、10年後にも前例として残るけれど、それでも同じ判断をしますか」と聞きます。ローカル社員にとって厳しく感じられるかもしれませんが。

自分の部署だけを見て判断するのではなく、会社全体や、その先の時間軸まで考えてほしいんです。

私が帰国したあとも、会社の理念に基づいてローカル社員がきちんと判断できる。そこまでいけば、会社として大きく間違うことはないと思っています。

そうした理念や価値観を共有する機会は、日常のマネジメント以外にもありますか。

冨川 年に1回、インドネシア全土から指導者を集めて表彰する場があります。10周年、15周年、20周年と長く教室を続けてくださっている先生を表彰したり、多くの生徒を伸ばした先生をみんなでお祝いしたりしています。

この表彰する場は、普段は違う地域で教室を運営していて、なかなか会えない先生同士が集まって話し、情報交換できる場にもなっています。

地域も宗教も違いますが、同じ教材を使って、同じ企業理念をベースにやり取りをしている。そうやって話していくなかで、共通の価値観がどんどん醸成されている感覚があります。

弊社でも、創業期や成長期には日本人駐在員が旗振り役として大きな役割を担ってきましたが、いずれは日本人、ローカル社員に関係なく、インドネシアの企業としてみんなで盛り上げていく。そこを目指していけたらと思っています。

インドネシアのKUMONの教員カンファレンス

重要なのは中長期のプラン。判断は早く、評価の時間軸は長く

インドネシアで事業を続けるうえでは、計画通りにいかないことも多いと思います。

冨川 考え方として大事なのは、変えられることと変えられないことを分けることですね。自分たちで変えられないことは受け入れる。そのうえで、自分たちに何ができるかを考える。

インドネシアでは、短期の成果だけで比較するのではなく、常に中長期のプランを持って、その時間軸で考えることが特に重要だと思っています。 例えばラマダンやレバランの時期は毎年変わります。単純に前年同月比で計画を立てれば、時期がずれただけで前年より数字が悪くなることも当然あります。

自然災害など、予測できないこともあります。日本とは違う変動要因もいろいろある環境で、短い期間の数字だけで判断すると、どうしても振り回されてしまいます。

計画通りにいかないという点では、制度や行政の運用が変わりやすいことに戸惑うこともありますか。

冨川 ありますね。例えばライセンスの取得一つをとっても、州によってルールが違いますし、大きな意思決定をする際には、複数の専門家や関係機関に確認することが重要です。

政府が決めたことが地方まで十分に伝わっていなかったり、政策や制度の運用が私たちの想像を超えるスピードで展開することもあります。そうすると、事業運営に関わる制度や行政の情報を集めようとしても、十分に揃わないまま判断しなければならない場面が出てきます。

もちろん、なるべく情報は集めます。ただ、全部が揃うまで待つわけにもいかない。不確実な状況の中でも、スピードをもって、ベストの判断をする力が求められます。

そして、一度判断したらきちんとやり通す。マネジメントがぶれると、スタッフが迷ってしまうので、そこはすごく大事だと思っています。

判断は早くする一方で、評価する時間軸は長く持つということですか。

冨川 そうですね。そのときに支えになるのが、中長期のビジョンだと思います。

今年上手くいかなかったとしても、「5年後のゴールはここだから」と考えられれば、来年どう取り戻していくかを考えられる。自分自身もそう考えることで気持ちを落ち着かせています。

この2年間で感じているのは、インドネシアで経営するなかでは、変化に適応しながら、なるべく正しい判断を早くする力がすごく重要だということです。

「日本から来た会社」ではなく、インドネシアの教育団体になる

冨川さんにとって、ローカル市場に「根付く」とはどういう状態でしょうか。

冨川 根付くということは、歴史があるということだと思うんです。

今、現地法人ができて26年ですが、50年、60年と続けられたら、それは一つの「根付いた」成果だと思います。大きく成長しなくても、少しずつでも成長を続けられる企業になれたらいいですね。

成長という点では、教室数が増えているというお話を伺いました。受講規模も伸びているのですか。

冨川 生徒数(教科数)は、約19万教科です。ただ、インドネシア全体の市場規模を考えれば、まだまだ少ない。もちろんこれからも成長していきたいです。

一方で、「次は40万、50万、100万」と数を増やすことだけが大事だとは思っていません。

一人の生徒が1年でも長く続けられる状態をつくることも、根付くための重要な要素だと思っています。そのためには、まず目の前のお客さんに満足してもらうことですね。

この積み重ねが、結果として会社が長く続くことにつながっていくのだと思います。

長くインドネシアに根付いていくための取り組みとして、インドネシア語の教材も作られたそうですね。

冨川 2年前にインドネシア語教材をリリースしました。KUMONとして初めて開発したインドネシア語の教材です。最初に鉛筆を持つ2、3歳の子どもから、高校卒業くらいまで学べる教材を用意しています。

インドネシア語事業は、英語や数学と比較すると現時点では発展途上の分野です。そのため、長期的な視点で取り組みを進める必要があることは理解しています。

インドネシア語がKUMONブランドの一つとして育つことで、「KUMONは日本から来た会社ではなく、インドネシアの教育団体です」ということを形で示していきたい。

インドネシアで長く貢献するなら、母語であるインドネシア語の能力をきちんと伸ばせる団体でありたいと思っています。

子どもたちのインドネシア語を伸ばすために、ほかにはどのような取り組みをされていますか。

冨川 インドネシア語教材を導入している教室には、インドネシア語の絵本や児童書を会社で購入して置いてもらっています。子どもたちが教室に来たときに、本を読む接点を少しでもつくりたいと思っているからです。

実際、小学校3年生くらいの子が少し背伸びをして、中学1年生レベルの本を読んでいることもあります。

教材を提供するだけではなく、そうやって学ぶ環境をつくることも、今チャレンジしていることの一つです。

KUMONは世界各国に教室を展開していますが、インドネシアではインドネシアに特化した取り組みも進んでいるのですね。

冨川 そうですね。「インドネシアならではのことを、インドネシアの人のためにやる」という判断基準を持って、行動し続けることが大事だと思います。

そうすると、徐々にファンが増えていく。その人たちの口コミやSNSを通してKUMONに対する認知が広がって、自分たちが発信し続けなくても伝わる状態になる。

少しずつですが手応えもあるので、ここはぶれずに続けたいですね。

現地を知り、人を信じ、理念に共感する仲間を増やす

最後に、これからインドネシアで長く事業を続けたい日本企業へ、アドバイスをお願いします。

冨川 インドネシアはすごく魅力的な市場です。でも、日本で成功したモデルをそのまま持ってくれば成功するわけではありません。現地をちゃんと知る必要があると思います。

また、インドネシアでの事業は、現地の人材の力なしでは成り立ちません。上手くいかない経験をしても、それでも人を信じること。そして、決して全てを自分でやろうとしないことですね。

インドネシアのKUMONの歴史を振り返ってみると、ここまで続けてこられた背景には、市場そのものだけではなく、理念を共有してきた人たちの存在があると思います。

市場を理解するだけではなく、自分たちの理念に共感してくれる人を少しでも増やしていく。そして、変化を恐れない。

結局、そうした積み重ねが、今の会社の歴史につながっているのだと思います。

インドネシアのKUMON、スマランの教室
スマランの教室の先生や生徒と

企業情報

会社名PT KIE INDONESIA
事業内容教育サービス事業
住所Jln. Ahmad Yani No. 37
Utan Kayu Selatan, Jakarta
設立日2000年

掲載内容は取材時点の情報に基づきます。カケモチは掲載企業のサービス内容・取引結果を保証するものではありません。

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