【インタビュー】「リスクがあるからこそ、行く」。バリで25年以上、現場を見ながら事業をつないできた生島尚美氏の商売論

公開
2026/09/17
更新
2026/10/03
この記事は約1分56秒で読めます。

インドネシアで事業を続ける日本人は、現地の市場や人とどのように向き合い、変化に対応しているのでしょうか。本連載では、インドネシアで事業を手がける経営者や事業責任者に、その経験や考え方を伺います。

今回お話を伺ったのは、バリ島でバッグブランド「sisi」や発酵食品ブランド「生島商店」などを手がける生島尚美さんです。

1999年、24歳でバリへ移住。2000年ごろからバッグの販売を始め、現在はバッグの卸・小売だけでなく、カフェ、テナント事業、イベント「caravan」の企画、コンサルティングなど、複数の事業を展開しています。

最初から明確な事業計画があったわけではありません。「バリに住みたい」という思いで渡航し、目の前のお客さんの反応を確かめながら、その時々で必要なものを考えてきました。

偶然訪れた波をつかみ、危機ではむしろ動き、事業を大きくすることより「自分の目で現場を見ること」を選ぶ。生島さんが長く商売を続ける中で培ってきた考え方を伺いました。

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「バリに住みたい」だけで来た。100万円から始まった商売

1999年にバリへ移住されています。最初から何か事業を始めるつもりだったのでしょうか。

生島 全然なかったんです。バリに住みたいという気持ちだけで来ました。

100万円ぐらい持って、「これだけあれば、とりあえずどうにかなるかな」と。当時は日本人観光客がものすごく多かったので、日本人を求めているホテルや旅行会社、レストランで働けるやろうと思っていました。

もともと私は心配性で、計画を結構練るほうなんです。でも考えすぎたら、バリに行くこと自体をやめてしまいそうで。最後は「もう目をつぶって行こう」みたいな感じでした。社会人としての経験もあまりなかったんですよ。

ただ、 19歳から大阪で居酒屋、カフェ、フレンチ、イタリアン、インド料理など、複数店舗を掛け持ちしながらアルバイトをしていました。本当にアルバイト三昧で、店長まで務めた経験もあり、とにかく飲食店が好きでした。10歳頃から実家の食堂を見てきたことも含め、飲食業や商売には長くかかわってきました。

バッグを選んだのは、もともとファッションの経験があったからではないのですか。

生島 ないです、全然(笑)。食べていくために何か自分でやろうとなって、「じゃあ何をやるか」と考えました。

飲食は好きでしたけど、大変さを知っていたからこそ最初は選びませんでした。生ものを扱うし、その場で全部解決しないといけない。後で残業してどうにかします、という仕事じゃないんですよね。

服も考えましたけど、サイズを間違えたら着られないじゃないですか。バッグなら多少サイズが違っても使える。そうやってリスクを削っていった結果が、布のバッグでした。

バリが好きで飛び込んだ一方、商売を選ぶ時は冷静だったのですね。

生島 そうですね。実家の食堂では、材料を仕入れて、工夫して形を変えて、サービスをつけて売るということをずっと見ていました。飲食店で働いた時も「どうやったら売れるか」「お客さんは何を求めているか」を考えていましたし。

バリには勢いで来ちゃったけど、自分のお金で商売をするとなったら、そこはちょっと俯瞰して見られたんだと思います。

「普通にちゃんと作って、ちゃんと届ける」。偶然を商売につなげたsisiの始まり

sisiは、どのように広がっていったのでしょうか。

生島 本当にラッキーが重なったんですよ。

当時、シンガポールでオンラインショップをしていた日本人の方と偶然知り合ったんです。その方はパシュミナを中心に売っていたんですけど、ちょうどほかの雑貨も扱いたいと思っていたみたいで。うちのバッグを見て、「じゃあ買ってみます」と言ってくれたんです。まだオンラインショップ自体が珍しい時代でした。

そのサイトでバッグが売れると、「これはどこで仕入れられるんですか」と問い合わせが来るようになりました。その方が私のメールアドレスを教えてくれたので、「10個からでも買えますか」と知らない人からどんどん連絡が来るようになって。

それから、バリで隣に住んでいた人がウェブデザイナーだったのも大きかったです。私は「ウェブって何ですか」くらいの感じだったんですけど、写真と値段を渡したらウェブサイトを作ってくれた。

当時はウェブサイトを持っている店がほとんどなかったので、それも一気に広がるきっかけになりました。

人にも、時流にも恵まれていたのですね。長く続いている理由は、ほかにもありますか。

生島 うちは普通に、お客さんが好きそうなものを作って、妥当な金額でちゃんと売ってきただけです。

最初に出会った職人さんが、以前日本人と仕事をしていた革職人さんで、縫製が上手くて、期日もきちんと守る人でした。その人とは今も一緒にやっています。

当時のバリは、個人で商売を始める日本人も多かったんです。でも、お金をもらったのに送らないとか、値段の付け方がわからないとか、そういう人もいました。

その中で、店をちゃんと開ける、商品を作る、約束した期日に送る。うちは本当に普通のことをやっていただけなんですよ。

そんなsisiが、最近またローカルの若い世代から注目され始めているそうですね。

生島 そうなんですよ。sisiは2003、4年から2008年ぐらいがピークだったと思います。その後、日本人観光客が減って、もともと日本人がターゲットだったうちも売上が落ちていきました。

それが最近、ローカルの女の子で、ちょっとインフルエンサーみたいな子がうちのバッグを「かわいい」と言って買って、SNSに出してくれたんです。そしたら若い子たちからバーッと注文が入り始めて。「何で今?」って(笑)。

娘に聞いたら、「Y2Kだよ。2000年からやってたんでしょ。一周したんじゃない?平成っぽいじゃん」って言うんですよ。「これ、平成っぽいの?」って聞いたら、「そうそう、平成、平成」って。

ローカルのお客さんに見てもらおうと思ってずっとやってきたけど、なかなか動かなかったんです。それが一人の女の子をきっかけに、急に波が来た。今はまだ小さな波ですけど、これを逃さずに頑張りたいと思っています。

そうした「波」が来ているかどうか、普段はお客さんのどんな反応を見て判断しているのでしょうか?

生島 自然な声を聞くことが大事だと思っています。

これはバッグだけじゃなくて、そのあとにやったカフェでも同じです。例えば、お客さん一人から「このお茶、ポットで出したらいいのに」と言われて、すぐポットに変えたことがあるんです。でも、量を増やして少しだけ値段も上げたら、全然出なくなって。言ってくれた本人も注文しない(笑)。

だから一人の声だったら、「そういう意見もあるんや」と思う。二人目に同じことを言われたら「あれ?」と思う。三人目まで来たら、これはある程度トレンドかもしれないと考えます。

集まってもらって「意見を聞かせてください」と聞くのも大事ですけど、そうするとみんな気を使うんですよね。それより、商品を見ながら友達同士で話している声とか、手に取って戻したとか、次の日にまた来て買ったとか。そういう自然な行動を私はすごく見ています。

大きくしすぎない。「自分の目で現場を見たい」から選んだ多角経営

生島さんは一貫して、現場を見ることを大切にされていますよね。

生島 私は自分で見たいんですよ。

一度、店舗を6店ぐらいまで増やしたことがあるんです。でも、自分のわからないところで問題が起きるのがすごく嫌で。「私がおったらどうにかなったのに、私がおらんから起きてる」と思うのも嫌だし、現場にいないから本当は誰が悪いのか、何が問題なのかもわからない。

それで目が届かない店は閉めていきました。

フランチャイズにしたらどうかとか、店を大きくして売ったらどうかと言われたこともありますけど、全然興味が湧かないんです。私は自分でやりたい。自分の手の届く範囲で、汗をかいて、焦って、どうにかするのが好きなんでしょうね。

それでも、バッグだけでなくカフェやイベントなど、事業そのものは増えています。

生島 心配性だからいろいろやっているところもあります。一つの軸だけに依存しないようにしているんです。

バッグのあとにベジタリアンカフェをやって、場所が大きくなったら一部をテナントとして貸すようになりました。ジャカルタでは13、14年ぐらい前から「caravan」というイベントをやっています。2020年には生島商店も始まりました。

こっちがあかん時に、こっちが助ける。逆に一つがうまくいったら、ほかを引っ張ることもある。長く続けて何個かやっていると、ここが次につながった、ということがあるんですよね。

事業を大きくしたいというより、変化があるほうが私には面白いんです。ずっと置いておけばずっと売れる、権利を売ればお金が入ってくる、みたいな商売だけやったら、たぶん「つまらん」と思ってしまいます。

生島商店caravanの様子
caravanの様子

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観光客が消えたコロナ禍、生島商店が始まった

生島商店が生まれた2020年は、ちょうどコロナ禍でしたよね。

生島 はい。生島商店は完全に「コロナのおかげ」で立ち上がりました。

味噌や塩麹は、生島商店を始める17年ぐらい前から趣味で作っていたんです。自宅用だったり、カフェ用だったり。caravanの小さいイベントで味噌を並べたり、ワークショップをしたりもしていました。

そこにコロナが来ました。バリは観光業なので、本当に水道の元栓を閉められたみたいな状態でした。多くのお店が閉まりましたけど、私は「閉めない」と決めて、どうやったら開け続けられるかを考えました。

そのころ、私の味噌のことを知っていた人から「日本に帰れないので味噌がほしい」と問い合わせが入り始めたんです。最初は「え、味噌?」ですよ(笑)。

でも何件か続いて、「これ、味噌ちゃう?」となって。一気にスタッフに「豆を茹でろ、米を蒸せ」と言って、作り始めました。

そこでも、お客さんの「自然な声」を逃さなかったということですね。

生島 そうです。それで、Tokopediaも立ち上げたら、今度はローカルのお客さんから注文が入ってきました。

当時、日本旅行や和食が好きでも旅行も外食できなくて、家で料理する人が増えていたんです。ジャカルタのお客さんからは、「給料は入るけど、使うところがない。だからお金を使いたい」と言われて、私にはすごく衝撃でした。

先が見えないコロナ禍に、どう判断して動いていったのでしょうか。

生島 バリにずっといたら、違ったかもしれません。でもその前からジャカルタでイベントやワークショップをやって、お客さんを知っていた。だから動けたんですよね。

リスクはもちろん考えています。でも私は、最初にゴールを決めるんです。「やる」と決めてから、じゃあこっちから行くのか、あっちから行くのかと考える。

リスクがあるからやめよう、というより、「ここにリスクがあるから人は行かないだろう。じゃあ行こうか」と考えることもあります。

もちろん、競合がいないと思って行ったら、単に売れない市場だったという失敗もあります(笑)。でも基本的には、規制とか難しいことがあると、ちょっと燃えるんですよ。「どうしてやろう」って。

マーケティングも同じです。「これでどうだ」と出して、全然違う時もある。「これでどうだ」「それ!」となったら、「よっしゃ」と思う。そのトライアンドエラーを毎日やるのが好きなんです。

生島商店の塩こうじや味噌
生島商店の塩麹や味噌

「インドネシアはこうだ」と決めつけない。違いを面白がれる人にはチャンスがある

インドネシアで暮らす中で、今でも面白いと感じるのはどんなところですか。

生島 インドネシアって、場所が変わるだけで本当に常識が違うんですよ。最初にジャカルタに行った時はびっくりしました。ほかにも、ジョグジャカルタとかスマラン、スラバヤとかを見てバリに戻った時に、「あ、バリのほうが特殊なんや。バリがディズニーランドなんや」と思ったんです。

同じインドネシアでも全然違う。だから、どこか一つを見て「インドネシアはこうだ」とは言えないですよね。

インドネシア国内でも場所によって常識が違うなら、日本の感覚をそのまま当てはめるのは難しそうですね。

生島 そうですね。実際に見たら、「え、そこ?」ということがいっぱいあります。

ローカルのお客さん向けに味噌のワークショップをした時も、みんな楽しそうに作って、写真も撮って、最後に「ところで、これ何ですか?」って(笑)。「味噌って何?」というところからなんですよ。

私たちは「インドネシアの人は多分こうだよね」と一生懸命考えるけど、根本的に違うことがある。だから、日本で売れているものがインドネシアでも売れるかというと、それもわからないと思います。

生島さんが25年以上インドネシアで商売をしてきた経験から、これから進出する日本企業に伝えたいことはありますか?

生島 技術だったり、細かいサービスだったり、きちっと期日を守ることだったり、そういう日本クオリティへの信頼感は、まだまだあると思います。

ただ、彼らの国で、彼らの力を借りてやらせてもらうわけですから、日本が一番だという感覚で持ってくるんじゃだめですよね。

日本の良さは保ちながら、固定観念を捨てて、フレキシブルに彼らと一緒に面白がれる人なら、やれることはいっぱいあると思います。

インドネシアは、面白いですよ。

企業情報

会社名PT sisi BALI
事業内容バッグ・食品・飲食を中心としたライフスタイル事業
住所Jl Nyuh kuning No.2, Pengosekan,Mas,Ubud,Gianyar 
設立日2008年

掲載内容は取材時点の情報に基づきます。カケモチは掲載企業のサービス内容・取引結果を保証するものではありません。

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