インドネシアのEC物流の概況(市場規模や成長の背景、課題など)と注目の企業
- 公開
- 2024/05/25
- 更新
- 2024/11/27
- この記事は約7分55秒で読めます。
インドネシアではEC市場が伸びており、それと同時にEC商品の出荷や配送、在庫管理などに携わるEC物流企業の需要も高まっています。
ただ、インドネシアならではの地理的要因や交通インフラの問題が、EC物流事業を行う際の障害となっているのも事実です。
そこで本記事では、インドネシアのEC物流の現状についてまとめました。EC物流の市場規模や概況、EC物流が伸びている背景・課題のほか、インドネシアで活躍するEC物流企業を紹介しているので、参考にしてみてください。
円表記は2024年4月24日のレート(1ドル=154.88円)で換算したものです。
参考:Mordor Intelligence「インドネシアのeコマース物流市場規模と市場規模株式分析 – 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029年)」
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インドネシアにおけるEC市場規模とEC物流
EC市場の成長
インドネシアのEC市場の成長を後押しするきっかけとなったのが、コロナ禍です。新型コロナウイルス感染拡大が始まった2020年、インドネシアのEC流通総取引額は320億ドル(4兆9,000億円)で、これは前年の2019年から54%もの伸び率でした。
そして、2022年におけるインドネシアのEC流通総取引額は519億ドル(7兆8,000億円)で、ASEAN諸国で最大規模となりました。コロナ禍の社会的行動制限が緩和されていった時期になお市場が拡大しているのは、人々がコロナ禍で身についたライフスタイルを維持していることの表れだといえます。
上述の通りインドネシアにおいてEC市場は成長が著しく、それに付随するEC物流市場も今後の大きな成長が見込まれています。実際にインドの調査会社Mordor Intelligenceは、2024年から2029年にかけて、インドネシアのEC物流市場の年平均成長率は5%以上に達すると予測しています。
参考:
ジェトロ「新型コロナ禍を奇貨にEC取引が伸長(インドネシア)」
International Trade Administration「Indonesia – Country Commercial Guide」
なお、コロナ禍をきっかけにECを含め急速なデジタル化が進んだインドネシアですが、中小零細企業の中にはいまだにデジタルツールを導入できていない企業が多く残っています。今後はこのような企業がデジタル化を進めECに参入していくことが予想され、インドネシアのECおよびEC物流市場には、まだまだ伸びしろがあると考えられます。
相次ぐEC物流スタートアップの誕生
2015年には宅急便サービスを手がけるJ&T Express、2016年には物流関連のオンラインプラットフォーム事業を手がけるShipper、2018年には貨物輸送サービスのオンラインマーケットプレイスを手がけるKargoがインドネシアで誕生しました。
EC物流の市場規模は堅調に拡大しており、上記の通りスタートアップ企業が続々と誕生しています。どれも数年という短期間で急激な成長を遂げ、インドネシアを代表する物流企業になりました。
EC物流業界の成長の裏には、EC事業を手がける企業が自社で配送スタッフを雇用するのではなく、こういったEC物流企業と提携することが一般的になってきているという背景があります。
インドネシアでEC物流の市場が伸びている背景
インドネシアでEC物流の市場が成長している第一の要因として、EC市場が伸びていることが挙げられます。そのEC市場の成長のきっかけには、コロナ禍や経済的に余裕のある中間所得層以上の増加、インターネット利用率の高まりなどがありますが、そのほかにも次の2点が考えられます。
海外トレンドの流入
インターネットが普及し、SNSを使うことが当たり前になった今、インドネシアの人々が世界中のトレンド情報に触れる機会は以前より格段に増えています。SNSのトレンド情報の影響を受けて購買意欲が高まり、ECで商品購入に至る人は少なくありません。
実際にインドネシアで最も人気のECサイトShopeeの2022年下半期の人気カテゴリーはファッションと美容製品で、どちらもトレンドに左右されやすいジャンルです。国内ブランドのファッションや美容商品だけでなく、海外ブランドの商品もEC上でよく売れています。
参考:katadata「Daftar Produk Terlaris di Shopee, Tokopedia, Blibli hingga Lazada」
ライブコマース人気の高まり
ライブコマースとは、ライブ配信を通した商品の売買のこと。消費者にとっては、配信者とリアルタイムで会話できる、映像を通して商品の使い勝手を確認できるなどのメリットがあることから、インドネシアで今人気を集めています。
このライブコマース機能はShopeeやTokopediaなどの大手ECサイトにも付いています。ライブ配信限定で割引などの優待を受けられることもあり、販売者側にも消費者側にも多くのヘビーユーザーがいるライブコマースも、EC市場やEC物流市場の盛り上がりに貢献していると考えられます。
インドネシアにおけるEC物流の課題
インドネシアで伸びているEC物流市場ですが、市場の成長を阻害する大きな要因として、物流コストの高さがあります。
インドネシアの近隣諸国を見てみると、マレーシアのGDPに占める物流コストは13%、タイは15%。また日本は8.5%ですが、インドネシアは22%と圧倒的な高さです。
物流コストが高い理由として、大きく以下の3点が挙げられます。
参考:ジェトロ「課題解決型エコシステム、産業の幅も広がる(インドネシア)」
島嶼国ならではの地理的要因
物流コストが高い理由として、インドネシアが数多くの島で構成される島嶼国(とうしょこく)であることが挙げられます。島から島への配送が長距離になるため多くの時間や手間がかかり、結果として物流コストが高くなってしまいます。
インフラの不足
インドネシアの中でも特に首都ジャカルタなどの大都市は渋滞が酷く、渋滞で車の動きが止められ、陸上輸送に予想される以上の時間がかかっています。渋滞が酷く輸送に時間がかかると、人件費や燃料費も上がります。また、湾港の数が足りず設備やシステムの質も低いため、貨物の輸送手続きに時間がかかっているのも問題点の1つです。
アナログなシステムと教育不足
加えて、通関や税関手続きの際には書類の原本(サイン入り)が求められ、さらにこの手続きに関わる人々の連携が上手くいっていないなどの理由から、輸送に遅れが生じています。
また、倉庫で働く人やドライバーなど物流に関わる人材への教育が行き届いていないことも課題。物流業界に従事する人々の意識の低さから時間通りに荷物を届けることができない、荷物の取扱いが雑で内容物が破損してしまうといった問題も起こっています。
前述のようにインドネシアで多くのEC物流スタートアップが誕生している背景には、以上のような物流業界が抱える問題があります。独自の物流エコシステムや優れたデジタル技術で物流業界の問題に立ち向かうこれらの企業の成長が、今後も注目されます。
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EC物流を後押しする政府の取り組み
EC物流市場の成長を阻む問題の解決のため、インドネシア政府も以下のような政策を進めています。
Tol Laut政策
インドネシア政府は2015年、国内の島々の主要港を船舶ルートで結び海上輸送の円滑化を図るTol Laut(海の高速路)政策を開始。船舶ルートができたことで効率的な海上輸送が実現し、生活必需品などの遠隔地への輸送が、以前よりもスムーズになりました。
またTol Lautプロジェクト関連では、物流業界だけでなく、地域の観光産業の活性化や雇用創出といった経済効果も期待されています。
参考:Kompas.com「Tol Laut: Pengertian, Manfaat, dan Contohnya di Indonesia」
NLE (国家物流エコシステム)の導入
インドネシア政府は、建国100周年を迎える2045年までに達成すべき目標として「先進国の仲間入り」を掲げる「Indonesia Emas(インドネシアビジョン)」を発表しており、そのロードマップの中には物流の効率化・コスト削減も含まれています。
現在、物流の効率化・コスト削減を実現するために政府が進めているのが、NLE(国家物流エコシステム)の導入です。NLEとは、官民の物流に関わるあらゆるプラットフォームを統合し、インドネシア政府が物流全体を管理できるシステムのこと。
物流の効率化には税関手続きも含まれ、NLEを導入することで税関に関わる人たち(税関担当者や輸送業者、ライセンス許可に関わる人々など)が統一プラットフォームを通してスムーズに協力できるようになるとされています。
その結果、今まで多大な時間がかかっていた税関手続きの時間が短くなり、結果として輸送時間を短くすることが期待されます。
参考:
KEMENTERIAN KOORDINATOR BIDANG PEREKONOMIAN
REPUBLIK INDONESIA「Capai Pertumbuhan Ekonomi Berkualitas, Menko Airlangga Tegaskan Logistik Menjadi Key Driver Utama」
Voice of Indonesia「Jawab Tantangan Logistik Nasional, Bea Cukai Percepat Penyelesaian NLE」
越境ECに関する新規則と物流企業への影響
インドネシア商業省は2023年9月、SNS上での商品の販売と越境ECに関する新たな規制「商業大臣規則2023年第31号」を公布・施行しました。この規則では、EC事業者に対して以下の内容を定めています。
- SNS上では商品・サービスの宣伝のみ認める(販売などEC機能を持つ活動は認めない)
- 100ドル未満の商品の輸入販売を禁止する
- 輸入商品にSNI(国家規格)の認証やハラル認証の表示を義務化する など
越境ECに関わる厳しい規制が施行されたことで、2023年11月のECにおける輸入品販売件数は大きく落ち込むことに。10月の107万件から66%減り、36万件になりました。
EC物流業者協会(APLE)のSonny Harsono(ソニー・ハルソノ)会長は「空港や宅配業、倉庫業など物流業で働く約5,000人が解雇された」と述べ、規制の取り消しを求めています。
インドネシアでは国内企業を保護するため、外国企業や外国製品の参入・流入を制限することが多く、今回の「商業大臣規定2023年第31号」もその1つとされています。
参考:ジェトロ「11月の越境EC取引件数、前月比66%減、新商業大臣規定が影響か」
インドネシアのEC物流を牽引する企業
最後に、インドネシアのEC物流を牽引する企業として、J&T Expressを紹介します。同社は2015年の設立からわずか4年で業界最大手となった、物流スタートアップの筆頭的な存在です。
創業者は中国の大手電子機器メーカーOPPOの元CEOであるJet Lee(ジェット・リー)氏と現CEOのTony Chen(トニー・チェン)氏。同社がインドネシアで成功できたのは、OPPOの持つ広範なネットワークを活用したからだとされています。
J&T ExpressはECに特化した物流サービスを手がけており、顧客がリアルタイムで荷物の所在を確認できるアプリ、在庫の状況がリアルタイムで分かる管理システムなど便利なシステムを提供し、高い顧客満足度を獲得しています。
将来性に期待できるインドネシアのEC物流市場
本記事で述べた通り、インドネシアのEC市場には伸びしろがあり、それに付随するEC物流市場にも将来性があります。日本などの先進国と比べてインドネシアはまだデジタル化が進んでおらず、本記事で紹介したJ&T Expressのようなデジタルの力で物流の課題を解決する企業の需要は、今後も高まっていくことが予測されます。
また、国内の物流網を整備する政府の後押しによって、インドネシアの物流の課題が解決されていけば、市場が急拡大する可能性もあるでしょう。
その一方でインドネシアの市場の動向や政府の取り組みには先が読めない部分も多く、前述の越境ECに関する規則のように、市場の成長に悪影響をもたらす恐れのある規制が、急に現れる可能性もあります。
インドネシアでは新しい規則があっという間に撤回されたり、既存の制度が急に変わったりすることも珍しくないため、どんな業界であっても政府の最新の政策をチェックすることが欠かせません。少しでも関心のある企業さまは、インドネシア市場を専門としたビジネスをサポートしている弊社カケモチまで、ぜひお問い合わせください。
インドネシアでのビジネスにお悩みの方へ
最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
もし宜しければ、現在抱えているお悩みを弊社に壁打ち的に相談してみませんか。何かしらお役に立てる情報を共有できる自信があります。
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インドネシアのEC物流市場の現況について教えてください。
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インドネシアではEC市場が成長しており、その影響でEC物流市場も伸びています。2024年から2029年にかけて、インドネシアのEC物流市場は年平均成長率5%以上を記録するという予測もあります。
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インドネシアのEC物流にはどのような課題がありますか?
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インドネシアのEC物流の大きな課題として、物流コストの高さが挙げられます。インドネシアのGDPに占める物流コストはは22%で、マレーシアやタイなどの近隣諸国と比べると圧倒的な高さです。
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インドネシアで活躍するEC物流企業を教えてください。
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インドネシアで活躍するEC物流企業の代表例には、顧客がリアルタイムで荷物の所在を確認できるアプリなどを手がけるJ&T Expressが挙げられます。
読後のお願い
弊社で公開している記事の1つ1つは、日本人とインドネシア人のライター、日本人とインドネシア人の編集者がそれぞれ協力しながら丁寧に1記事ずつ公開しています。
記事の内容にも自信がありますし、新しい情報が入り次第適宜アップデートもしています。これだけ手間ひまかけて生み出した記事はできれば一人でも多くのインドネシアのビジネス関係者に読んでもらいたいです。
そこで、弊社からの不躾なお願いになってしまうのですが、是非SNSでこちらの記事をご紹介いただけないでしょうか。一言コメントを添えてシェアしていただけると本当に嬉しいです。そうやってご紹介いただくことで関係者全員の励みにもなりますので、どうか応援宜しくお願いします!
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