インドネシアの貧困状況と対策(地域別の貧困率、教育格差、企業の取り組みなど)

公開
2023/05/30
更新
2026/06/21
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賃金水準の上昇や富裕層の急増などに象徴されるように、経済成長を続けるインドネシア。首都ジャカルタの最低賃金は2010年には月1万円でしたが、2023年には月4.3万円になり、この10年余りで4倍以上の伸びを見せています。

ただ、経済成長が著しい国の1つとして注目を集める一方で、全国民の生活が満遍なく豊かになっているわけではありません。日本よりも激しい貧富の差があり、それを今後どのように解消するのかが課題です。

そこで本記事では、貧困率や地域別貧困状況、教育への影響などを通して、インドネシアにおける貧困状況を詳しく見ていきます。

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インドネシアの貧困率

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インドネシアと日本の貧困率

貧困ラインとは、「生活するのに最低限必要な収入」のこと。この貧困ラインは国によって異なり、インドネシアの場合は「1人あたり2,100キロカロリーの食糧と食糧以外の必需品を得るために必要な収入を得られること」と定義されています。

地域によりますが、2022年9月における貧困ラインのインドネシアの全国平均は1か月あたり535,547ルピアで、日本円に換算すると約4,900円です。

2022年におけるインドネシアで貧困ライン以下にいる人(貧困層)の割合は9.5%で、人口にすると2,610万人。コロナ禍で10.2%と高かった2020年と比べると0.6~0.7ポイント改善しているものの、コロナ禍以前の4.9%にはまだ届いていません。

参考までに、日本の貧困ラインは年間127万円(2019年時点)で、これを単純に12か月で割ると月あたり11万円。貧困率は15.4%で、インドネシアよりも高くなっています。

参考1:BADAN PUSAT STATISTIK PROVINSI SULAWESI UTARA「Garis Kemiskinan Provinsi (Rupiah), 2021-2022」
参考2:WORLD BANK GROUP「Poverty & Equity Brief Indonesia East Asia & Pacific April 2023」
参考3:厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」

世界銀行の国際貧困ライン

上記の国家貧困ラインとは別に、世界銀行が適宜する国際貧困ラインもあります。世界銀行は国際貧困ラインを購買力平価(PPP)と呼ばれる基準で「1日1.9ドル」としています。簡単にいうと「1日1.9ドル(相当)以上の消費をしているか」ということです。

この定義によると、インドネシアの貧困率は2002年から2022年の20年間で、19%から1.5%へと劇的に低下しており、政府は2024年までにこれを0%にすることを目標としています。

一方、世界銀行は2023年5月、インドネシアはこの貧困ラインを3.2ドルに引き上げるべきだと提言を出しました。インドネシアが経済成長の結果、すでに「低所得国」から抜け出しているからです。より適当な基準を設ければ、経済的に困難を抱え弱い立場にある人達に、より確実に支援の手を差し伸べられる可能性があると指摘されています。

しかしこの基準を適用すれば2022年のインドネシアの貧困率は15.8%に上がることもあり、2024年までに0%にするという目標の達成も難しくなります。そのため、今のところ、インドネシア政府は世界銀行の勧告を受け入れていません。

参考:Katadata「Cek Data: Benarkah Garis Kemiskinan Naik, 40% Penduduk Otomatis Miskin」

インドネシア経済の魅力について

インドネシアの平均月収

インドネシアの貧困について考える上で、まず押さえておきたいのが賃金水準です。

インドネシア中央統計庁の調査によると、2022年8月時点のインドネシアの平均月収は2万8千円でした。一方、2021年度における日本の平均年収は443万円で、そこから平均賞与の67万円を差し引くと376万円。これを12か月で割ると、平均月収は31万円です。

経済成長によりインドネシアの賃金水準は上がっているものの、日本の10分の1にも満たないのが現状。また、首都ジャカルタの最低賃金は月4.3万円で、インドネシア全体の平均月収の1.5倍あるなど、都市部とそれ以外の地域では賃金水準に大きな差がある点も見逃せません。

参考1:BADAN PUSAT STATISTIK「 Rata-rata Upah/Gaji Bersih Sebulan Buruh/Karyawan/Pegawai Menurut Provinsi dan Jenis Pekerjaan Utama, 2022」
参考2:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査| P.17 平均給与」

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インドネシアの地域別賃金水準

インドネシアは地域ごとの賃金差が大きく、貧困状況も地域によって異なります。

2022年8月時点で、賃金水準が最も高いのは首都ジャカルタの月収4.8万円。以降はジャカルタの西隣に位置するバンテン州の4万円、そしてリアウ諸島の3.8万円と続きます。一方、最も賃金水準が低い地域はコモド島やフローレス島など多くの島から成る東ヌサトゥンガラ州で、平均月収は1.9万円でした。

ジャカルタとバンテン州を含む地域はインドネシア屈指の大都市圏であり、大企業や工場が集まっています。また、リアウ諸島はシンガポールからも近く、輸出加工の拠点として栄えてきた地域です。これらの地域は、都市部や地理的優位性が原因で、賃金水準が高いことがうかがえます。

参考:BADAN PUSAT STATISTIK「 Rata-rata Upah/Gaji Bersih Sebulan Buruh/Karyawan/Pegawai Menurut Provinsi dan Jenis Pekerjaan Utama, 2022」

インドネシアの地域別貧困状況

次に、統計調査プラットフォームのstatistaによる「インドネシアにおける貧困ライン以下で暮らす人(貧困層)の人口の地域別割合」の調査結果を見てみましょう。

この調査によると、貧困層の人口が最も多い地域がパプア州で、以降は西パプア州、東ヌサトゥンガラ州と続きます。これらの地域は、ジャカルタなど大都市があるジャワ島から遠く、国土の東側付近に位置します。

貧困層の割合が最も低いのはバリ州で、その次が南カリマンタン州、そしてジャカルタ首都特別州でした。南カリマンタンは、ジャカルタを含むジャワ島西部に近く、経済活動が活発な地域の1つです。バリ州の貧困率が低い理由としては、観光業が盛んなことや、日常的に行われる宗教儀式の経済効果が高いことなどが挙げられます。

賃金水準が低い農村部は貧困率も高い傾向にあります。実際、農村部に住む人の中には、地元の賃金の安さを理由にジャカルタやバリ島へ出稼ぎに行く人も珍しくありません。豊かな生活を送れるかどうかには、どの地域で仕事をするのかが大きく影響しています。

参考1:statista「Share of the population living below the poverty line in Indonesia as of September 2022, by region」
参考2:KOMPAS「Penduduk Miskin di Bali Berkurang, Kesenjangan Desa-Kota Masih Tinggi」

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インドネシアの貧困と教育・就職への影響

賃金だけでなく、都市部と農村部には教育の格差も存在します。農村部に貧困層が多い理由として、十分な教育を受けられなかったことにより、条件の良い仕事に就けない人が多いことが1つの背景として考えられます。

ここでは就学率と識字率のデータをもとに、都市部と農村部ではどのくらい教育格差があるのか、学歴が低い貧困層の人々はどのような職に就いているのかを見ていきます。

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就学率

インドネシアの義務教育期間は、日本と同じく小学校の6年間と中学校の3年間です。その後、高校や大学、ディプロマという職業訓練に特化した学校へ進学するか選択します。

インドネシア中央統計庁の調査によると、2022年のインドネシアにおける就学率は小学校が99.1%で中学校が95.9%でした。高校になると73.2%にまで下がり、高校就学率が99%の日本と比べると低水準です。

また、都市部と比べて農村部は高校就学率が低く、たとえば首都ジャカルタが83.7%であるのに対して、東ヌサトゥンガラ州は53.2%。さらに東ヌサトゥンガラ州の中でも、都市部が61.4%なのに対して農村部は51.1%と低く、同じ地域内でも都市部と農村部の間に差があることが分かりました。

農村部では中退率の高さも問題視されています。高い中退率の背景には親世代が十分な教育を受けられなかったことによる、経済状況を含めた家庭環境の悪さがあります。親が子どもを学校に行かせることに熱心でなく、送迎や食事、金銭面などで支援を怠ったり、自営の農業などを手伝わせたりする家庭もあります。

また、家庭環境が良くないことで子どもが通学のモチベーションを維持できなかったり、家計が厳しく制服代などの諸経費を支払えなかったりして、義務教育である中学校でさえ中退に至るケースもあります。

参考1:文部科学省「高等学校教育の現状について|P2. 高等学校等への進学率[推移]」
参考2:BADAN PUSAT STATISTIK「STATISTIK PENDIDIKAN 2022 | P.109 Tabel 3.3 Angka Partisipasi Sekolah (APS), 2022」
参考3:BADAN PUSAT STATISTIK「STATISTIK PENDIDIKAN 2022 | P.113 Tabel 3.7 Angka Kesiapan Sekolah Menurut Provinsi, Klasifikasi Desa, dan Jenis Kelamin, 2022」
参考4:BADAN PUSAT STATISTIK「STATISTIK PENDIDIKAN 2022 | P.210 Tabel 5.9 Angka Putus Sekolah Menurut Provinsi dan Jenjang Pendidikan, 2022」
参考5:siedoo「Angka Putus Sekolah Dominan di Pedesaan, Pemda Harus Beri Perhatian Khusus」

識字率

インドネシアの識字率は、ほとんどの地域において98%を超えています。高齢になるほど識字率は下がる傾向にあり、例えば東ヌサトゥンガラ州における15~24歳の識字率はほぼ100%ですが、若者に限らず15歳以上の全年齢に範囲を広げると、98%にまで下がります。

また、賃金水準や就学率と同様に、識字率にも地域間格差は存在します。農村部ほど識字率が低い傾向にあり、たとえば2017年の調査によると、識字率が最も低かったパプアでは15~59歳の28.8%の人が文字を読むことができませんでした。

インドネシアの貧困状況は地域によるところが大きく、それには地域間に存在する賃金水準や教育格差が関係しています。人口や経済活動が集中するジャカルタからカリマンタン島への首都移転計画が始まった一因には、このような地域間の経済格差があります。

参考1:BADAN PUSAT STATISTIK「STATISTIK PENDIDIKAN 2022 | P.201 Tabel 5.5.1 Angka Melek Huruf Menurut Provinsi dan Kelompok Umur, 2022 Perkotaan」
参考2:LIPUTAN6「3,4 Juta Warga Indonesia Belum Bisa Baca Tulis」

インドネシアの貧困層はどのような職に就いているのか

学歴が低く、条件の良い職に就けなかった貧困層の人々は、一体どのような仕事をしているのでしょうか。下記には、パジャジャラン大学図書館の研究結果をもとに、地方に住む貧困層が就く職業の例をまとめました。

  • 森での焚き木探し
  • バナナの葉探し
  • ごみ収集
  • 屋台(おもちゃ屋や駄菓子屋、八百屋など)
  • 農業従事者
  • べチャック運転手
  • バイクタクシー運転手
  • シャーマン
  • 職人(竹やレンガ)

焚き木やバナナの葉を探して売る、屋台でおもちゃを売る、バイクタクシーやべチャック(人力車のような乗り物)を運転するなど、特別な知識が不要な仕事が多い傾向にあります。 ただ、このような特別な知識や経験が不要な仕事だけでなく、精霊と交信する宗教的役割を担うシャーマンや、竹を編んで容器を作る職人などの専門的な仕事に就く人もいます。

また、ジャワ島の貧困層の職業調査によると、島内のどの地域を見ても貧困者の35~50%は失業状態です。また、ジャカルタ首都特別州と隣接するバンテン州、西ジャワ州以外では農業従事者の割合が30%前後と高くなっていることが分かりました。

参考1:Perpustakaan Universitas Padjadjaran「PEMETAAN JENIS DAN RUANG LINGKUP PENCARIAN INFORMASI PEKERJAAN PENDUDUK MISKIN PEDESAAN|P.4~14 HASIL DAN PEMBAHASAN」
参考2:BADAN PUSAT STATISTIK「Data dan Informasi Kemiskinan Kabupaten/Kota Tahun 2022|P. 94~110 Tabel 3.2. Persentase Penduduk Miskin Usia 15 Tahun ke Atas Menurut
Kabupaten/Kota dan Sektor Bekerja, Tahun 2022」

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インドネシア政府が過去に行った貧困対策

インドネシアでは2014年に国民皆保険制度を開始しましたが、それまでは貧困層の人々向けに「Kartu Keluarga Miskin(貧困家族カード)」を発行し、医療サービスの無償化などを図っていました。

現在はPBI(Penerima Bantuan Iuran:社会扶助)という制度に切り替わり、収入減を一切持たない人や、収入はあるものの健康保険料を支払えない人には、政府が医療費を代わりに支払うことになっています。

日本でいう生活保護に似た制度ですが、この制度が必要な人へ行き届いていないことや、データ照合に必要な銀行口座を貧困層の人々が持っていないことなど、制度を運用する上で課題はまだ多く残されています。

参考1:ジェトロ「インドネシア BOP層実態調査レポート」
参考2:BPJS Kesehatan「Pesrta」
参考3:KOMPAS.COM「Kenali Apa Itu Bansos PBI Jaminan Kesehatan, Syarat, Cara Cek Penerima」

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インドネシアの貧困解決に向けて取り組む企業

それでは最後に、インドネシアの貧困解決に向けて取り組む企業の事例を見ていきます。

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Garuda Indonesia(ガルーダ・インドネシア)

Garuda Indonesiaはインドネシア国営の航空会社で、1949年に設立されました。2022年定時運航率は95.6%で世界一となるなど、国内の航空会社の中でも信頼が厚い航空会社です。

そんなGaruda Indonesiaはインドネシアの貧困対策にも力を入れており、その1つが零細企業の支援です。2022年時点では556社の零細企業パートナーを持っており、機内販売カタログを通してパートナー企業の製品の宣伝を行っています。

国内外の展示会やイベントでのプロモーション活動にも力を入れています。例えば、伝統工芸の職人に貧困層の人が多いことを踏まえ、カリマンタン、ロンボク、バリの伝統の布を使った製品をジャカルタで開催されるインドネシア最大規模のファッションフェスティバル「Fashion Show JF3」や、「ガルーダインドネシア・トラベルフェア(GATF )」で紹介していいます。

参考:Garuda Indonesia「GARUDA INDONESIA PEDULI PEREKONOMIAN」

Allianz Indonesia

ドイツのAllianz(アリアンツ)は世界最大級の保険グループで、インドネシアを含め世界各国に拠点があります。CSR活動にも注力しており、その1つが教育を通じて農家をサポートする団体「Yayasan Edu Farmers International(エデュ・ファーマーズ国際財団)」とAllianz Indonesiaによるオーガニック農家の製品マーケティング支援です。

このプログラムでは生産物や製品の保管、マーケティング、財務管理などに関するトレーニングが実施されています。また、コーヒーやパームシュガーの農家が生産するオーガニック製品のECプラットフォーム tanihood.comをも立ち上げられています。

そのほかにもAllianzは、失業率の高い東ジャワ州モジョケルトのグレオル村に資金を直接提供し、「オーガニック養殖法を用いたナマズ養殖プロジェクト」を実施するなど、インドネシアの貧困対策解決に向けた活動を行っています。

参考1:Allianz「ProgramCSR」
参考2:Allianz「STRENGTHENING THE FUTUR|P.22 Organic Aquaculture」

このようにCSR活動としての農家支援だけでなく、デジタルを含む最新技術を活用して農家を支援することをビジネスにする企業も増えています。

企業が農家の業務を効率化したり農業従事者にマーケティングや財務管理の知識を広めたりすることは、農家や農村の地域経済を支えることに繋がります。また、農家の経済状況が改善されることは、農業従事者が全労働人口の約30%を占めるインドネシア全体の経済にも良い影響を与えると期待されています。

インドネシアの貧困と経済成長

インドネシアは地域によって貧困状況に大きな違いがあるため、どの地域でどの所得層をターゲットにビジネスをするのかよく考える必要があります。また、企業のCSR活動だけでなく、カリマンタン島への首都移転、医療補助など、インドネシアの経済格差を是正しようと政府もさまざまな対策を打ち出しています。

富める者だけがますます富むのではなく、貧しいも者を含めた国民の所得を全体的に底上げできるのか。中間所得層が今後さらに増加すると予想されるインドネシアで、所得層のバランスがどのように変化していくのかにも注目したいところです。

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