インドネシア人を技能実習生として日本へ送り出す上での課題

公開
2024/10/22
更新
2024/12/03
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インドネシアには、技能実習生を送り出す専門機関SO(Sending Organization)が設置されています。SOはインドネシア人技能実習生にとってなくてはならないものですが、SOを通した実習生の派遣については、制度そのものや教育内容などについて、いくつかの問題点が指摘されています。

本記事ではインドネシアのSOと関係機関やインドネシア人技能実習生に関する、技能実習制度の課題や問題点を紹介していきます。

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技能実習生を送り出すインドネシアの機関 「SO」とは

SO(Sending Organization)は日本語で「送り出し機関」と呼ばれ、技能実習生として活動したいインドネシア人と日本の企業・団体との橋渡しの役割を果たしています。

SOは、技能実習生の募集や選定のほか、日本の監理団体と連携し、送り出しも行います。2024年5月時点で、SOはインドネシアに435機関あります。

技能実習制度と関わるインドネシアの機関としてはほかに、LPKがあります。LPKとは、インドネシア人登録者が国内外で職に就くためのさまざまなサポートを行う職業訓練機関のことです。

SOになるにはLPKの資格を持っている必要があるため、現在SOとして認められている機関はいずれもLPKです。LPKの資格のみを持ち、SOとしての認定を受けていない機関は、技能実習生候補の教育はできても、送り出しはできません。

技能実習制度は「育成就労制度」への変更が決まっていますが、SOやLPKはこれまでと同様の役割を担っていくことが予想されます。

送り出し機関LPK/SOの教育上の課題

不十分な日本語教育

もともと、介護分野以外の技能実習生は、渡航前には日本語力を問われませんでした。候補者は出発前の数か月間、ゼロから日本語を学びますが、古い教材を使った文法中心の学習を、大学の日本語学科卒業生や元技能実習生など、日本語教育に精通しているとはいえない講師が教えるケースがほとんどでした。

そんななか、2019年、特定技能制度が始まりました。特定技能制度では、参加者には日本語能力試験(JLPT)N4またはJFT-BASIC A2の日本語力が求められます。

インドネシア政府はLPKが十分な日本語教育を行えるよう、2022年12月の労働大臣令で、分野別の職業訓練について定める「インドネシア国家職業能力基準(Standar Kompetensi Kerja Nasional Indonesia・SKKNI)」に、「日本語(2022年第238号)」を追加しました。

この大臣令では、受講者をJLPT N4またはJFT-BASIC A2に合格させるための、統一カリキュラムが策定されています。LPKの指導力強化により、技能実習および育成就労制度で渡日するインドネシア人の日本語力向上が期待されています。

参考:Kementerian Ketenagakerjaan Republik Indonesia「Daftar Dokumen SKKNI | SKKNI Bahasa Jepang」

試験と実践的日本語力への対応

一方で、職業訓練の日本語教育が、テスト対策に偏るという新たな課題も指摘されています。

意識の高いLPK/SOは、技能実習候補者が現地で実習に専念できるよう、より実践的な日本語を身につけさせたいと考え、独自のプログラムを用意しています。

しかしJLPT N4またはJFT-BASIC A2への合格が前提になったことで、テスト対策を優先する必要が生じ、限られた時間や人材のやりくりに苦労している状況です。

教育内容・レベルのばらつき

上記の大臣令により定められたカリキュラムの日本語は一般的なもので、特定の産業分野の専門用語などには対応していません。LPK/SOにおける日本語教育では、その点を講師が補う必要があります。

紹介したとおり、LPK/SOでは、帰国した元技能実習生が日本語教育を担当しているケースが多くなっています。そんな講師たちには自身の体験や知識を後輩に伝えることが求められますが、教育内容やレベルが講師個人の力量に依存しているのが実情です。

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技能実習生の送り出しフロー上の課題

技能実習生への金銭的負担

技能実習制度はその仕組み上、実習生と受け入れ機関の間に、インドネシアのSOと日本の監理団体という、2つの仲介業者を挟みます。そのため技能実習希望者は個人の経験や能力に関わらず、LPKやSOに必要な費用を支払います。

技能実習希望者がSOに支払う費用は、30万円前後といわれます。この費用は研修中に支払うこともできますが、多くの技能実習生がローンを組み、日本で働き始めてから給与の一部を使って返済します。

30万円前後という金額は、ジャカルタなどインドネシアで最も賃金水準の高い地域でも、最低賃金の約6か月分にあたります。地方出身者にとっては、地元で受け取れる給与の10か月分といっても過言ではありません。このような多額の借金を背負って渡日することは、技能実習生にとって非常に負担となります。

またSOを兼ねるLPKが候補者の募集から送り出しまでを自社で完結できない場合、前後で別の仲介業者やブローカーが関与するケースもあります。そうなると、技能実習候補者の費用負担はより増していきます。

監理団体の仲介料の負担

技能実習制度において、日本側には、監理団体と呼ばれる仲介者がいます。受け入れ機関は技能実習生の入国や研修・講習、健康診断など、実習開始前にかかる費用のほかに、この監理団体に対し、入会費や年会費を支払う必要があります。この費用が、中小の受け入れ機関にとっては大きな負担となります。

そのため、監理団体に支払う費用を、技能実習生への賃金から差し引く受け入れ機関もあります。これが低賃金・残業代の未払いに繋がることが指摘されています。

悪徳業者の存在

LPKやSOが技能実習候補者から金を騙し取るなどの被害は、以前から発生しています。

例えば、LPKとしては登録されていてもSOの資格を持たない機関が技能実習候補者を集め、費用の一部または全額を前払いさせながら日本に渡航させなかったケースは、複数報告されています。

また、「正式な就労ビザなしで日本に送ることができ、技能の証明や面接も必要ない」「渡航までの期間はわずか90日」といった謳い文句で登録者を募る、偽のLPKやSOが関与する事件も起きています。このような団体は登録者に費用を前払いさせ、実際にはほとんど何のサポートも提供せず、費用の返金にも応じないことがあります。

参考:
NasionalNews.id「Puluhan Calon Peserta Program Magang ke Jepang, Merasa Ditipu LPK Fujiwara」
Kenal Bali「Kisah Calon Pekerja Migran Bali: Batal ke Jepang Malah Dikejar Penagih Utang」

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技能実習生が日本で働く上での課題

労働倫理、社会通念などのギャップ

上述の通り、LPK/SOにおける教育の質には、かなりのばらつきがあります。特に、日本語や特定の産業分野に関する知識の習得以外の内容を扱うかどうかは、機関により差があります。

出発前に日本の労働倫理、社会通念、マナーや、公共の場所の利用方法、役所での手続き方法、労働法などの知識を与えられなかった実習生は、日本で自分の認識と日本での暮らしのギャップに苦しみ、悪気はなくても非難の対象になるなどして辛い思いをすることになります。

また、インドネシア人実習生は、ジョブ型雇用が一般的なインドネシアの労働文化に慣れているため、日本での働き方に戸惑うケースもあります。インドネシア人が戸惑うポイントとしては、自分が職場で「これから学び育っていく存在」として扱われることや、本来は自分の担当ではないと思われる仕事を任されることが挙げられます。

ストレスや精神的不調

技能実習生の多くは、日本に行くのが初めてです。それどころか、海外に行ったことがない人も多いでしょう。家族と離れる寂しさ、言葉が通じないことや借金、将来に対する不安を抱え、さらに職場での待遇や仕事のでき、人間関係に悩むなどして、精神的に疲弊する実習生もいます。

そのため、技能実習生からの苦情や相談を電話などで受け付けたり、現地の支店や駐在員事務所のスタッフが必要に応じて直接訪問したりといったサポート体制を整えているSOもあります。

労働者としての保護の弱さ

技能実習生は日本の監理団体から受ける入国後講習のなかで、技能実習制度や法律についての説明を受けます。また実習開始後は監理団体が、実習生の監理や扱いが適切であるかどうかを、受け入れ機関を訪問して確認する必要があります。

このように、一応は技能実習生を保護する仕組みがあるものの、十分に機能しているとはいえず、長時間労働や低賃金、パワハラ、セクハラなどの問題が後を絶ちません。

技能実習生の多くは、もともと生活に困っていたり、インドネシアのSOへの支払いのため借金を抱えていたりします。雇用主に対し問題を訴えたことが原因で実習が中断したら困るという弱い立場にあるため、問題が表面化しづらいのです。

技能実習生の帰国後の課題

技能実習生の帰国後の課題としては、就職サポートが挙げられます。送り出しから帰国後のサポートまでを一貫して行うSOもありますが、そのようなサポートから零れ落ちてしまう人もいます。

SOは遠方からも技能実習希望者を集め、寮に住まわせて勉強や準備を進めることが多いため、元実習生がUターンを望む場合、それぞれの地元でサポートをするのが難しいという事情もあります。

帰国した技能実習生の進路

上掲の表は、法務省が2022年9月~12月に帰国した技能実習生の進路を、2023年2月までに調査したものです。これを見ると、インドネシアの元技能実習生について、以下のような特徴がわかります。

  • 雇用されて働いている、またはその予定がある人の割合が他国に比べて低い(10.9%)
  • 起業している人の割合が他国に比べて高い(21.9%)
  • 何もしていない人の割合が他国に比べて低い(2.5%)
  • 実習と異なる仕事をしている人の割合が他国に比べて高い(48.6%)

全体的に、「実習の内容とは関係なく」「起業している」という人が多くなっています。

元実習生が、実習の内容と関係なく就く仕事の1つが、日本語教育分野です。例えば、紹介したとおり、所属する送り出し機関や関連会社での日本語講師職に就いたり、自らが塾を開いたりするケースがあります。また、日本にいる間に実習内容とは別のアイデアを得て、起業を志す人が多いのも特徴です。

インドネシア人実習生の中には、技能実習を「自分と家族の経済的安定のため」と割り切り、出稼ぎ感覚で渡日する人も大勢います。そのため、帰国後に実習内容を活かせる職に就けるかどうかを、そもそもあまり重要視していない人も、一定数いると考えられます。

参考:法務省「令和4年度「帰国後技能実習生フォローアップ調査」」

シンプルで安心な制度とサポートが必要

本記事では、特にインドネシアからの技能実習生の送り出しに関して、問題点や課題、その対応などを紹介しました。

技能実習制度に関しては、長年に渡り、色々な問題点が指摘されてきました。

そこには、安く長時間労働させられる労働力を確保したい一部の受け入れ機関と、稼ぎたいLPKやSO(一部の悪徳業者)が、経済的に困窮している技能実習希望者を利用してきたという背景があります。

技能実習制度は廃止となりますが、今後も特定技能制度や育成就労制度を使って日本へ渡るインドネシア人は増えていくことが予想されます。どの段階でも、立場の弱い者に対する搾取が起こらない、シンプルで安心な制度設計と、関連機関の取り組みが、いっそう求められていくでしょう。

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