インフレが続く中、インドネシアの中間層の消費動向は

公開
2025/12/30
更新
2026/06/21
この記事は約7分57秒で読めます。

インドネシアでは、経済発展に伴い、「中間層(中間所得層)」の割合が増えています。中間層の定義は調査機関によって異なるものの、日本の経済産業省の区分に従うと、インドネシアの中間層は総人口の約70%を占めます。

本記事では、インドネシアの経済成長を支えてきた中間層が、インフレに際しどのように消費パターンを変化させるかに関する調査結果を紹介します。また、インドネシアにおける中間層の割合の変化や、経済成長における役割、今後の課題についてもご説明します。

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インドネシア人の70%が「中間層」

以下では、シンガポールのDBS銀行(旧名シンガポール開発銀行)の研究グループDBS Group Researchが実施した調査結果をまとめた記事ICONOMICS「Riset DBS Ungkap 7 Pola Konsumsi Masyarakat Indonesia Menghadapi Ancaman Resesi Global」を元に、インフレと景気後退の脅威が、インドネシアの中間層の消費パターンをどのように変化させるかについて見ていきます。

「インドネシア消費バスケット」と名付けられたこの調査は、2022年11月にインドネシアの中間層700人以上に対して実施されました。同調査では、世帯月収によって中間層を下位から上位までの3つのクラスに区分しています。

  • 下位中間層:世帯月収500万ルピア(約4.4万円)以下
  • 中位中間層:世帯月収510万~3,000万ルピア(約4.4万円~26.1万円)
  • 上位中間層:世帯月収3,010万~1億ルピア(約26.2万円~87万円)

円表記は2023年1月30日現在の交換レート(1ルピア0.0087円/1ドル130円)で換算したものです。以下同じ。

なおこの調査における中間層の定義は、比較的広くなっています。

例えば日本の経済産業省の区分では、世帯月収約5.5万円~38万円が「中間層」という位置づけとなっています。つまり、経済産業省の区分における「中間層」は、DBS Group Researchの区分の中位中間層とほぼ一致します。これについてまとめたのが以下の図です。

画像:経産省「医療国際展開カントリーレポート|P.9 世帯所得分布」およびICONOMICS「Riset DBS Ungkap 7 Pola Konsumsi Masyarakat Indonesia Menghadapi Ancaman Resesi Global」より弊社作成

それでは、今回のDBS Group Researchの調査からわかったインドネシアの中間所得層の消費動向について見ていきましょう。本調査における「中間層」は、言い換えれば「富裕層と貧困層を除くインドネシア人の大部分」だということを念頭に、読み進めてみてください。

インドネシア経済の魅力について

インフレに直面するインドネシアの中間層

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共通のトレンド

インフレは現在最大の懸念事項

調査結果によると、インドネシア人の多くは「パンデミックはほぼ終わった」と見ており、次の課題としてインフレを挙げる人が多くなっています。実際に、回答者の98%が物価上昇の傾向を感じていると回答しました。

インフレの原因については、回答者の55%が主に「燃料価格の上昇とロシアのウクライナ侵攻」の2つだと認識しています。次いで、「コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱」が19%、「FRBの利上げ」が16%などとなっています。

ガソリンと食品が最重要項目

2022年11月、インドネシアのインフレ率は年率換算で5.42%に達しました。回答者の54%が、家計の支出が国のインフレ率を超え、10%以上増加していると感じています。

最も多くの回答者が出費を大きく増やしたと答えたのは、ガソリンと食品でした。この2つは価格上昇が最も激しいカテゴリーに含まれている上、購入頻度や量を減らすにも限界があるため、家計を直撃しているようです。

インフレの長期化予測と消費パターンの急激な変化

インドネシアの消費者は、インフレが長い期間続くことを予想しています。同調査によると、回答者の90%が「インフレは今後6か月以上続く」と予想し、長ければ2024年初頭まで続くことを想定している人もいます。

このような実感と予想を元に、多くの人はインフレに対応するために比較的早く消費パターンを変更する予定です。調査では、回答者の62%が今後のインフレに対応するため、「3~6か月以内に消費行動を変化させるだろう」としています。

下位中間層の対応

下位中間層:世帯月収500万ルピア(約4.4万円)以下

同調査を通し、下位中間層と中位中間層は、上位中間層よりも早く消費パターンを変更する傾向があることがわかりました。特に下位中間層では、回答者の71%が、「今後3~6か月の間インフレ傾向が変わらなければ、消費行動を変化させる予定だ」と答えており、回答者平均よりも高い割合となりました。

下位中間層と中位中間層は、インフレや物価上昇の影響に対処するため、出費を抑え、貯蓄を増やす守りの姿勢を取る傾向があります。具体的な行動として、同調査の回答者は以下のように答えています。

  • より節約する 50%
  • より高いリターンを求めて投資する 20%
  • 安価な代替品を購入する  19%
  • 収入アップと追加収入獲得を目指す  10%

これを見ると、下位中間層と中位中間層の人々は、節約することで支出額を調整する必要を感じていることがわかります。

また、この層では生活必需品(食料品、ホームケア製品、パーソナルケア製品)やガソリン代、交通費について、消費頻度を減らすよりも、より安い代替品を購入することで支出を調整しようとする傾向があります。

一方で、外食、旅行、衣料品などについては「量より質」を好みます。外食、旅行、衣料品購入の回数は減っても、それぞれの機会には満足のいくレベルの消費行動をしたいと考えているようです。

楽しみなことの質を簡単には落とせないという意識と共に、「外に出た時には、自らの経済力が維持されているように見せたい」という思いもあるのかもしれません。

上位中間層の対応

上位中間層:世帯月収3,010万~1億ルピア(約26.2万円~87万円)

次に、比較的裕福な上位中間層の消費行動について見ていきます。この層は区分の基準によっては「高所得層」と呼ばれることもあるグループです。

調査によると、上位中間層で「今後3~6か月以内に消費パターンを変更する」と回答したのは全体平均を下回る56%で、「インフレにも関わらず消費パターンを変えるつもりがまったくない」と答えた人も7%いました。

下位・中位中間層に比べて可処分所得が多い上位中間層は、節約よりも投資など積極的なインフレ対策を取ることを好みます。実際に、上位中間層の半数近くが、インフレ対策として収入増のためのアクションを起こすと答えています。

インフレ対策の具体的な行動として「より高いリターンを求めて投資する」と答えた人は 30%で、下位・中位中間層の20%を大きく上回りました。また、「収入アップと追加収入取得を目指す」とした人は15%で、こちらも下位・中位中間層の10%を上回っています。

生活必需品への出費に対する対応も、下位・中位中間層とは異なります。同調査によると、上位中間層の人々は、安価な代替品を探すより消費頻度を減らすことを選んでいます。

DBS Group Research は、「こ​​の層は質において妥協できない独自の生活水準を持っている」と結論付けています。付け加えれば、消費頻度を減らしても生活に支障が出ない程度には余裕のある暮らしを営んでいる人々だ、ということになります。

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インドネシアの中間所得層の増加と今後の課題

以下では世界銀行がインドネシアの中間層についてまとめたレポートの内容を元に、DBS Group Researchの調査結果を補足していきます。

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インドネシアの中間層は毎年12%増加

世界銀行は2019年に、インドネシアの中間層に着目したレポート「Aspiring Indonesia – Expanding the Middle Class」を発表しました。

世界銀行はインドネシア人を月間支出額によって高所得層・中間層・中間層に向かう層(プレ中間層)・低所得層・貧困層の5つに区分しています。この調査は2016年のもので、中間層(5,360万人)とプレ中間層(1億1,470万人)を合わせると総人口の約64%を占めています。

このレポートによるとインドネシアの中間層の消費額は2002年以来毎年12%ずつ増えており、インドネシアの全世帯の消費額の約半分を占めています。

2002年~2016年の統計を見ると、低所得層や貧困層が徐々に減少し、代わって中得層、プレ中間層が増えています。つまり、かつて低所得層や貧困層に入っていた人たちが、中間層の仲間入りを狙える位置に来たということになります。

国民全体の所得水準が低下し、貧困率が上昇している日本とは対照的な流れと言えます。

一方で、ご紹介したように、プレ中間層(DBS Group Researchの調査における下位中間層)の中には、低所得層や貧困層を脱してきたばかりの人も多くいるため、経済的にはまだまだ不安定です。景気後退の影響も受けやすいので、インフレに際して早めの防御に出ようとするのも当然でしょう。

中間層を増やし経済成長を加速させるには

インドネシアは著しい経済成長を続けており、今や中所得国の地位を確立しています。世界銀行はレポートの中で、インドネシアのポテンシャルを引き出し、高所得国へと押し上げるには、経済成長の重要な原動力となっている中間層の人口拡大が不可欠であるとしています。

また世界銀行は、インドネシアにとっての課題は、中間層を成長させることによって、包括的な経済成長を実現することとしています。

レポートでは、インドネシア政府がより良い仕事を提供することで国民の「上向きの経済的流動性」を確保し、より強力な社会保障と税収の増加によって経済の回復力を蓄えることが重要と指摘しました。

その上で世界銀行は、インドネシアで中間層を増やすために必要なアクションの具体例として、以下の4つを挙げています。

  • 教育の質の向上
  • 誰もがアクセスできるヘルスサービスの確立
  • 中間所得層により多く納税させるための税政策
  • 地域単位の教育、保健、水、衛星サービスの質の向上

国が経済成長を続けていれば、低所得層から下位中間層へのシフトは、ある程度自然に起こるでしょう。地方在住で職業が変わらなくても、最低賃金が毎年上がるので、収入は徐々に増えていくからです。

一方で、下位中間層から中位中間層、そして上位中間層へのシフトは必ずしも自然発生するわけではありません。高賃金の仕事や質の高い教育を求めて、地元から都市部に移住する必要がある場合もあります。その証拠に、世界銀行のデータによると中間層(中位~上位中間層)の76%は都市部に住み、多くは大都市の多いジャワ島在住です。

今後は、どこに住んでいる人でも「上向きの経済的流動性」の流れに乗って収入を増やし、低所得者層から中間層、または下位・中位中間層からその上を目指せるような政策が求められています。

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中間層はインドネシア経済の主役

首都ジャカルタに住んでいると、経済成長をはっきりと実感できます。新しい高速道路や電車の新路線が次々と誕生し、高級マンション群や高価格帯の飲食店、スポーツジムなども増えています。

郊外の街でも、自宅の駐車場が足りず路上駐車された車や道路を走る高級バイクを目にする機会が多くなり、大型ショッピングモールも増えました。「インドネシア人の月収はせいぜい数万円」という認識でいると面食らってしまう状況です。

こうした変化をけん引してきたのが、中間層の人々です。中間層と一口に言っても経済力に大きな差があるのはご紹介した通りですが、全体的に増加傾向で、しかも昇進、転職、副業、投資などによってより高い収入を得ようとする意志を強く持つ人が大勢います。

中間層が昨今のインフレに持ちこたえてさらに伸びていった先のインドネシアは、今とはまた違った風景になっていることでしょう。

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