インドネシアのノミニー(名義人)制度のメリットとデメリット

公開
2024/01/07
更新
2024/09/16
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インドネシアで外資法人を設立しようとすると、資本金だけで約1億円が必要になります。資本金準備に余裕がない企業の場合、外資での設立を避けて、ノミニー(名義人)制度を活用して内資法人を設立したいと考えるかもしれません。

ただ、ノミニー制度にはいくつかの問題点があることも理解しなければいけません。

そこで本記事では、ノミニー制度について説明するとともに、インドネシアでノミニー制度が検討される理由や現状などをまとめました。これからインドネシアで会社設立を考えている方は、本格的な設立手続きに入る前に本記事を参考にしてください。

円表記は2023年12月21日のレート(1ルピア=0.0092円)で換算したものです。

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駐在員事務所や内資法人もそうですし、そもそもインドネシアに法人を設立せずに雇用代行という形で進出(営業)できます。

ノミニー(名義人)制度とは

ノミニー制度とは、インドネシア人個人またはインドネシア企業の名義で株式を所有する手法のこと。インドネシア人の名義(ノミニー)を借りることで、たとえ内資法人であっても間接的に日本人が株を所有したり、経営の決定権を持てたりします。

厳密には株式の所有だけではなく、不動産の所有など幅広く名義を貸し出して間接的に資産を所有することに利用されています。

間接的にと書いたのは、実態として株を所有しているのは当然ながらインドネシア人(企業)のためです。そのインドネシア人パートナーに対して貸付けを行い、その担保に事業を抑えて、間接的に法人を設立するという建前になっています。

ただし、この名義貸し(ノミニー)制度はインドネシアでは明示的に禁止されています。また、ノミニーで会社を設立できたとしても、ノミニーに裏切られる可能性もあり、相応のリスクがあるということは理解しておいてください。

それを踏まえた上で弊社までお問い合わせをいただければ、インドネシア進出において貴社が望む形での会社設立を支援することが可能です。

インドネシアでノミニー制度が検討される理由

インドネシアでノミニーを使った会社設立が検討されやすい理由として、先述の通り外資法人を設立しようとすると、資本金だけで約1億円が必要になるからです。また、お金の問題だけではなく、事業ライセンスの課題なども関連してきます。

そこで以下では、インドネシアでなぜノミニーによる会社設立が検討されやすいのか、外資法人設立のハードルの高さという点から説明します。

外資法人設立の際の費用の問題

外資法人と内資法人とでは、設立の際にかかる費用が大きく変わります。まず外資法人の場合、最低払込資本金と最低投資金額はそれぞれ100億ルピア(約9,200万円)以上です。

もともと外資法人の最低払込資本金は25億ルピア(約2,300万円)でしたが、2021年3月にインドネシア投資調整庁(BKPM)が発表したBKPM規則2021年4号で、100億ルピア(約9,200万円)への増額が決定されました。

さらに、外資法人の場合は会社ごとではなく、事業ライセンスごとに資本金を支払う必要があります。複数の事業を行う場合は必要な資本金が億単位で増えることも、外資法人設立のハードルとなっています。

一方、内資法人の最低払込資本は1,250万ルピア(約11万5,000円)、最低投資金額は5,000万ルピア(約45万9,000円)で済みます。外資法人と比べて資本金が大幅に安く、多くの企業にとっては内資法人での会社設立を選びたくなるのはここに理由があります。

外資法人に課せられる規制の問題

資本金だけでなく、外資法人にだけ課せられる規制も外資法人設立の際のハードルです。インドネシアには、インドネシア国内の中小企業の保護を目的として、外資法人の参入が禁止または制限されている分野があります。

禁止されている分野としては、バティックや木製建築資材、伝統的な化粧品関連の事業、メッカ巡礼旅行代理店などが挙げられます。禁止はされていなくても、中小・零細事業者や協同組合とのパートナーシップが必要な分野、外資比率が制限される分野も多くあります。

インドネシアの外資規制とネガティブリスト/プライオリティリスト

インドネシアの外資規制やネガティブリストについて理解することは、日本企業が外資企業としてインドネシアに参入する上で欠かせません。

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プライバシー保護の観点

ノミニー制度とはもともと、株主のプライバシーを保護するために始まった制度です。ノミニー制度を使うと自分が会社の実質的な所有者にならず、貸付けされたインドネシア人の名前が公的な記録に残ります。

そのため、何らかの理由で個人情報を厳格に保護したい方の中には、ノミニーの活用を検討する人もいます。

インドネシアにおけるノミニー制度の現状

実際にノミニー制度が法律で認められている国もありますが、インドネシアはどうでしょうか。

以下では、インドネシアでノミニー制度がどのように扱われているのか、現状と最近の流れを紹介します。

ノミニーは原則禁止

インドネシアでは現在、原則としてノミニーによる会社設立は禁止されています。ノミニーの禁止については、2007年第25号規則に「ある人又は会社が他の人に代わってPMA企業(外資法人)及びPMDN企業(内資法人)の株式を保有する手法である名義貸しを、明示的に禁止する」と記載があります。

ノミニーを利用して会社を設立したことが知られた場合、大きな問題となる可能性があります。とはいえ、政府や警察がノミニーによる会社設立すべてを完璧に取り締まるのは難しいため、ノミニーを活用した会社設立はいまだ一般的に行われています。

また、現実的に定款(AKTA)を見た際に、株主が出資した本人なのか、ノミニーによる株主なのかは見分けることができないという点も、ノミニー制度自体が続いている理由の1つでもあります。

参考:Nusantara Legal Partnership「Doing Business in Indonesia 2021|P16. 名義貸しの禁止」

ノミニーの取り締まりが強化

上記の状況があるとは言え、ノミニー行為は法的に許されていないのに加えて、脱税やマネーロンダリング、そのほかさまざまな犯罪の可能性を孕んでいると考えられ、インドネシアでは基本的には規制が強化される方向に進んでいます。

上記で紹介した2007年法律第25号規則では、ノミニー行為を禁止することを記載してはいるものの、実際はノミニーで会社を設立する外国企業が多くありました。

しかし、その後に発令された2017年第13号規則では、BKPM(インドネシア投資調整庁)から求められた場合、名義だけの株主ではないことを証明する陳述書の作成・提出が義務付けられるようになりました。

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ノミニーが問題になった企業の事例

ここでは、ノミニーによる会社設立が疑われ、問題となったPT Global Jet Express(J&T Express)の事例を紹介します。同社は、2015年にインドネシアで設立された、国際物流サービスの会社です。

法務人権省によると、同社はPMDN(内資法人)として登録されていますが、実際はWinner Star Holding Ltd社に所有された後、Onwing Global Ltd社に所有されています。この2つはどちらも香港の企業。つまり、PT Global Jet Expressの実質的な所有者(筆頭株主)はインドネシア人ではありませんでした。

このことが、PT Global Jet Expressが香港で上場するため作成した目論見書からわかり、上場できないか、罰則が科される可能性があると話題になりました。

その後の投資調整庁の調べで「事業ライセンスに問題はない」とされていますが、ではそもそもなぜノミニーによる会社設立が疑われたのか、本当にまったく問題ないのかなどについて、不明な点も残っています。

参考1:CNBC Indonesia「BKPM Selidiki Modus Nominee J&T Express Pinjam Nama Warga RI」
参考2:CNBC Indonesia「BKPM Bilang J&T Express Full RI, Prospektus Sebut Milik Asing」

ノミニー制度の問題点

ノミニーを使い会社を設立した場合、法律的な問題以外にも多くのリスクがあります。以下にはもしノミニーを使って内資系企業を設立した場合にどのような問題点があるのかを紹介します。

会社の乗っ取り

ノミニー制度最大のリスクとして、会社を乗っ取られるリスクが挙げられます。ノミニー制度では、ノミニー(代理人)に株をはじめとした会社の決定権すべてを渡すことになるためです。

たとえ会社設立前にノミニーと話をつけていたとしても、会社設立後にノミニーによって会社を追い出されてしまう可能性はゼロではありません。

また、ノミニー制度自体がインドネシアでは法的に認められていないため、何か問題が起きたときに外部の機関に助けを求められないのも大きなリスクです。

貸付金のトラブル

貸付金のトラブルが起こったという事例もあります。ノミニーへ貸付けを行ったところ、返済を拒否されたという事例です。

内資法人の設立は外資法人と比べて安価ですが、会社の手続きをノミニーに任せる中で金銭の受け渡しが発生するため、トラブルになりやすいといえます。

また、創業当初はノミニーとの関係が良好だったものの、事業が上手くいかなくなったことをきっかけに金銭トラブルが起こる可能性もあります。

会社設立の際はあらゆる制度やリスクを理解すること

上記のようなトラブルの可能性はあるものの、やはり外資法人として資本金を1億円用意するよりは設立時のリスクが低いことは間違いありません。

とは言え、ノミニーによる内資法人設立以外にも選択肢はあるので、少ない情報でインドネシア進出を決定してしまう前に、まずは弊社までお問い合わせをください。貴社の状況をお伺いしながら、最適だと思われる選択肢を一緒に考えさせていただきます。

インドネシアでのビジネスにお悩みの方へ

最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
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ノミニー制度とは何ですか?

インドネシアにおけるノミニー制度とは、インドネシア人個人またはインドネシア企業の名義で株式を保有することを指します。個人や企業に貸し付けし、間接的に会社を設立するという方法です。

インドネシアでノミニー制度はどのような扱いをされていますか?

インドネシアでは現在、原則としてノミニー行為が禁止されています。実際にノミニー行為で会社を設立・運営していることが知られ、大きな問題となった企業の例もあります。

ノミニー制度にはどのようなリスクがありますか?

ノミニー制度には、会社が乗っ取られたり、貸付金のトラブルが起きたりする可能性があります。

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