インドネシアの高齢化率と高齢者の介護状況や経済状況など
- 公開
- 2024/11/06
- 更新
- 2025/01/01
- この記事は約7分37秒で読めます。
平均年齢32.1歳(2019年)のインドネシアは、「若い国」というイメージがあります。一方で、経済発展が進むにつれ、平均寿命が延び、出生率が下がって、総人口に占める高齢者の割合が、徐々に高まってきています。
そこで今回はまず、インドネシアの高齢化率の予測や平均寿命の推移をみていきます。記事の後半では、現在のインドネシアの高齢者に関するさまざまなデータや、高齢者福祉にまつわる課題などを紹介し、インドネシアの高齢化について考えていきます。
【補足】
円表記は2024年11月5日時点のレート(1ルピア=0.096円)で換算したものです。
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インドネシアの高齢化率
インドネシアにおける高齢者の定義
インドネシアでは「高齢者福祉に関する1998年法第13号」に従い、60歳以上の人が「高齢者」と呼ばれます。
平均寿命が延び、健康でアクティブな高齢者が増える中、高齢者の定義を国連が定める65歳以上とすべきという意見も以前から出ていますが、現時点では法改正には至っていません。
現在の高齢化率の現状と予測
2023年のインドネシア国勢調査によると、インドネシアの人口の約12%にあたる約2,900万人が高齢者(60歳以上)です。
高齢者人口についてインドネシア保健省は、2045年には全人口の20%にあたる約5,000万人に達すると予測しています。2020年時点の人口ピラミッドはまだピラミッド型の名残を残していますが、予測に基づくと、2045年にはつりがね型に変化しています。
参考:
Kementerian Kesehatan「Indonesia Siapkan Lansia Aktif dan Produktif」
PopulationPyramid.net「インドネシアの人口ピラミッド2020年/2045年」
平均寿命の推移
インドネシアの平均寿命は延び続けています。2014年から2023年の10年間を見てみると、男性は68.9歳から70.2歳に、女性は72.6歳から74.2歳になりました。男女平均は70.6歳から73.9歳に上がっています。
平均寿命が延びている要因としては、医療の質の向上やアクセスの改善、国民健康保険プログラム(BPJS)の浸透、衛生環境の改善、国民の健康に対する意識の向上、そして経済力の向上などが考えられます。
一方、WHOの2023年の報告によると、インドネシアの健康寿命は62.8歳で、平均寿命と比べて約10歳の開きがあります。
参考:Indonesiabaik「Angka Harapan Hidup Naik Orang Indonesia Makin Panjang Umur」
インドネシアの高齢者と家庭
インドネシアの中央統計庁(BPS)による高齢者に関する調査レポート「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023」から、インドネシアの高齢者とその家庭に関するデータを紹介します。
【補足】
少数第2位を四捨五入しているため、合計が100%にならないものもあります。
性別と年齢層
インドネシアの高齢者のうち、男性は47.7%、女性は53.3%です。年齢別では、60代が高齢者全体の63.6%を占め、続いて70代が27.8%、80代以上が8.7%です。
居住地、居住形態、家族構成
インドネシアの高齢者のうち、55.4%が都市部に住み、44.6%が農村部に住んでいます。2020年のBPSのデータによると、インドネシア国民の56.4%が都市部に住んでいるので、高齢者の居住地域もこれに近いものとなっています。
高齢者を含む世帯は全世帯の33.2%で、高齢者のうち33.7%が子世代と同居、34.7%が三世代同居、22.1%が夫婦二人暮らし、7.1%が一人暮らしです。また、高齢者の92.5%が、高齢者本人または同居する家族が所有する家に住んでいます。
参考:BPS「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023|P.17-21、168」
インドネシアの高齢者の経済力
就労状況
2014年からの10年間で、高齢者の就労率は47.5%から53.9%へと上昇しました。就労している人以外では、30.1%が家事に従事、0.7%が休職中、15.3%がその他となっています。
働いている高齢者の内訳をみると、男性が67.9%と女性よりも多く、年代別では60代が全体の61.9%を占め、70代は43.9%です。また、居住地では農村部が63.3%で都市部よりも多くなっています。
最終学歴と就労率の相関関係は顕著で、働く高齢者のうち40.7%が小学校を卒業しておらず、38%が小学校卒業です。8.6%が中学校卒業、8.5%が高校卒業、それ以上の学歴の人は4.3%でした。働く高齢者の85.3%が無給を含む自営業などのインフォーマルセクターに従事し、インフォーマルセクター従事者の割合は、低学歴層ほど高い傾向があります。
収入
調査によると、働く高齢者の76.3%が経済的リスクが高い労働環境に置かれており、その割合は男性より女性が高く、また年代が上がるほど高くなっています。
2023年、高齢者の平均月収は全労働者平均の約60%にあたる171万ルピア(1万6,490円)でした。
産業分野別にみると、農業分野で働く高齢者の収入は他の分野に比べて最も低く、月123万ルピア(1万1,830円)でした。男性は205万ルピア(1万9,710円)、女性は118万ルピア(1万1,390円)で、男女の賃金格差が依然として重要な問題であることがわかります。
全労働者の賃金中央値の3分の2未満と定義される「低賃金」で働く人は働く高齢者の32.2%で、都市部より農村部の住民、男性より女性の割合が高くなっています。
参考:BPS「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023|P.113-159」
家計
高齢者の家庭は、家族の働くメンバーに依存して生計を立てています。
高齢者のいる世帯の主な収入源が働いている家族だという家庭は82.6%に上ります。12%が他者からの送金、5%が年金、0.4%が資産収入などです。
このことは、高齢者単独の世帯や、家族が他にいても十分な収入がない世帯では、その状況が直ちに高齢者を経済的困窮に陥らせることを示唆しています。金融機関に預金口座を持つ高齢者はわずか33.5%で、多くの人が老後のための貯金を一切持っていません。
参考:BPS「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023|P.163-168」
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インドネシアの高齢者の健康
病気の人の割合
高齢者の健康状態は、改善してきています。
過去5年間のデータをみると、2019年には26.2%であった病気をもつ人の割合が、2023年には19.7%に低下しました。
ただし、高齢者の多くが、適切な医療を受けていません。実際に、体調不良を訴えた高齢者のうち、52.9%が医療機関を受診しませんでした。主な理由は「自分で治療した」「必要ないと思った」などです。
高齢者の経済状況別に見ると、経済的地位が上がるにつれて自己治療を行う高齢者の割合は減少し、医療機関で治療を受ける割合は増加します。高齢者が適切な医療を受けているかどうかには、経済力のほか、本人や家族の健康に対する意識の高さや医療機関へのアクセスの良さなども関係します。
健康保険
2023年には、入院した高齢者の78.6%が何らかの健康保険を利用しました。一方、外来診療の場合、その割合は53.5%に留まります。
健康保険の利用者は、農村部よりも都市部で、低所得者層よりも高所得者層で、そしてより若い世代ほど多くなっています。
一方、高齢者が利用する健康保険の61.4%が、貧困層向けのBPJS PBIだというデータからは、高齢者の多くが自ら保険料を支払う経済的余裕がないことが伺えます。
参考:BPS「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023|P.71-81」
インドネシアの国民皆保険制度は「BPJS」と呼ばれ、医療保険と労働者社会保障に分かれています。6か月以上就業する外国人も加入義務があります。
インドネシアの高齢者福祉に関する課題と政府の取り組み
伝統的な家族観
紹介した通り、インドネシアでは都市部であっても、二世代、三世代同居が一般的で、多くの高齢者が同居または近くに住む子どもや親戚に頼って生活しています。
実際に、介護が必要な高齢者のうち約80%が家族に介護されています。高齢者を施設に預けることは非常に稀で、預けることは家族としての責務を放棄していると認識されることもあり、悩む家族も少なくありません。
戦後間もない時期に生まれた現代の高齢世代は低学歴の人、貯金の習慣がなかった人や貯金できなかった人が多く、家族の経済力や介護に対する理解度に高齢者の生活が依存してしまう危うさが指摘されています。
介護の人材不足
家族による介護が大多数を占めるものの、介護施設のニーズは高まっています。しかし、インドネシアの介護人材の多くが海外で働く道を選んでいるため、国内は人手不足に陥っています。
介護人材が国内に定着しない主な要因の1つは、給与の低さです。インドネシアの介護職員を含む看護師の月給は250万から600万ルピア(2万4,090円から5万7,820円)で、初任給は経済協力開発機構(OECD)の調査によると「アジアの中で最低」と指摘されています。
インドネシア政府は、介護人材の日本などへの派遣に積極的ですが、国内の人材確保も急務といえます。
参考:Tempo.co「Perawat Lansia: Banyak Dibutuhkan, Tapi Kurang Diapresiasi」
インドネシア政府の取り組み
高齢化が進む中、インドネシア政府は2021年に大統領令第88号「高齢者国家戦略(Stranas Kelanjutusiaan)」を発表しました。この高齢者国家戦略は、以下の5つの方針に則り、「自立し、豊かで尊厳のあるインドネシアの高齢者社会の実現」を目指しています。
- 高齢者に対する支援制度の強化
- 高齢者の権利を守るための制度の強化
- 高齢者の生活環境を改善する制度の強化
- 高齢者の健康を促進する制度の強化
- 高齢者が参加できる社会環境の整備
現在、インドネシア政府は、貧困者への現金および非現金(米など)の支援、高齢者が学ぶ高齢者学校の設置、高齢者健康センターによる病気の予防および早期発見プログラム、包括的な高齢者医療サービスを提供する病院の開発、在宅ケアサービスの強化などを進めています。
今後は国民に対し、高齢者のケアをすべて家族が担うという習慣や価値観の変化を促しながら、宗教関係者、民間企業、NGOなどを巻き込んだ高齢者福祉の改善と拡充が求められます。
参考:
BPS「Statistik Penduduk Lanjut Usia 2023|P.207-220」
Databoks「Mayoritas “Caregiver” Lansia di RI Adalah Keluarga Sendiri」
まとめ
紹介したとおり、若者の多いインドネシアも、確実に高齢化してきています。長生きする人が増えることは喜ばしいことですが、一方で課題も山積しています。
高齢者の家庭、仕事、健康など、それぞれの項目のデータはいずれも、高齢者福祉の課題を浮き彫りにしています。現在の高齢者が生きてきた時代を考えると、老後の生活を家族に依存しなければならない事態は、ある程度仕方がないのでしょう。
重要なポイントの1つは、経済力をつけている子ども世代、孫世代が、高齢者をどのように支えていくかではないでしょうか。現状で生活が困窮している層へのケアを厚くするとともに、高齢者が医療や介護サービスを利用することがより一般的になることで、解決への糸口が見えてくる問題もありそうです。
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インドネシアでは何歳からが高齢者ですか。
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インドネシアでは「高齢者福祉に関する1998年法第13号」に従い、60歳以上の人が「高齢者」と呼ばれます。
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インドネシアの高齢化率は何パーセントですか。
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2023年のインドネシア国勢調査によると、インドネシアの人口の約12%にあたる約2,900万人が高齢者(60歳以上)です。
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インドネシアの高齢者の就労率は何パーセントですか。
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インドネシアの高齢者の就労率は、2014年からの10年間で、47.5%から53.9%へと上昇しました。
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