工業製品製造業におけるインドネシア人(特定技能/技能実習)の採用方法と受け入れ
- 公開
- 2024/12/05
- 更新
- 2025/01/17
- この記事は約9分44秒で読めます。
少子高齢化に伴う労働力不足に直面する日本企業にとって、技能実習制度や特定技能制度を活用したインドネシア人材の雇用は、優秀な労働力を確保する有効な手段です。
本記事では、工業製品を中心とする製造業におけるインドネシア人材の採用について、制度の概要や採用プロセス、メリットとデメリットなどを紹介します。
企業の皆様が、インドネシア人材の活用を検討する際の参考になれば幸いです。
【補足】
本記事の円表記は、2024年12月13日のレート(1ルピア=0.0096円)で換算したものです。
日本の機械・金属、工業製品製造業分野で働くインドネシア人の現状
技能実習「機械・金属関係」
2023年度の技能実習計画認定件数をみると、インドネシア人技能実習生は7万4,879人で、ベトナム人に次いで多くなっています。
7万4,879人のうち機械・金属関係は8,897人で、最も多い建設関係に次いで2番目に多く、全体の11.9%を占めます。5,736人だった2022年度と比較すると、約1.6倍になりました。
参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)
特定技能「工業製品製造業分野」
2024年6月末時点のデータによると、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人で、こちらもベトナム人に次いで2番目に多くなっています。
そのうち工業製品製造業分野(※旧称素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業)の従事者は介護分野、飲食料品製造業分野、農業分野に次いで多く、7,028人でした。技能実習「機械・金属関係」と同じく急増しており、2022年6月末の2,060人と比べると約3.4倍です。
参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表」
「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」
技能実習制度による採用
採用の流れ
インドネシア人技能実習生の受け入れは、インドネシア側と日本側でそれぞれ仲介業者を通す必要があります。
インドネシア側の送り出し機関はSOと呼ばれます。SOは職業訓練機関LPKの資格も持つため、LPKの名称の方がよく知られています。日本側には、受け入れ先に対する指導や監査などを行う監理団体という組織があります。
技能実習制度での在留期間は最大5年間ですが、技能実習2号または3号から、特定技能に資格変更することができます。
仕事内容
技能実習「機械・金属関係」に含まれる作業は、以下の通りです。名称は異なりますが、いずれも特定技能1号に資格変更できます。
- 鋳造
- 鍛造
- ダイカスト
- 機械加工
- 金属プレス加工
- 鉄工
- 工場板金
- めっき
- アルミニウム陽極酸化処理
- 仕上げ
- 機械検査
- 機械保全
- 電子機器組立て
- 電気機器組立て
- プリント配線板製造
- アルミニウム圧延・押出製品製造
- 金属熱処理業
参考:外国人技能実習機構「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)
メリット・デメリット
人材の質
技能実習制度は、そもそも、本国への技術移転を目的に、外国人に日本の技術を習得させることを目指す制度です。そのため制度上は、製造業についてほとんど何も知らない人が派遣される可能性があるということが、デメリットです。
また日本語力についても、要件はありません。ただ、インドネシア政府は特定技能と同じ日本語能力試験(JLPT)N4への合格を推奨しており、近年は多くの技能実習候補者が日本語を勉強してから渡航しています。
雇用の安定性
技能実習生の在留期間は、最大で5年間と決まっています。また、実習期間中の各段階で、技能評価試験を受験させる必要もあります。家族の帯同が禁止されているなど、実習生にとっては不自由な点が多い制度なので、受け入れ機関(企業)側の手厚いサポートが求められる点に留意する必要があります。
実習終了後は、本人が希望する場合、特定技能へ資格変更することで働き続けてもらうこともできます。
コスト面
技能実習生の受け入れに当たっては、受け入れ機関はインドネシア側の送り出し機関と日本側の監理団体に対し、各種費用を支払う必要があります。金額は機関によりますが、大まかには以下の通りです。
実習生配属前の初期費用:60万円~
- 監理団体への入会金 1万円~20万円
- 監理団体への年会費 2万円~15万円※年額
- JICTO(公益財団法人 国際人材協力機構)への年会費(任意) 10万円~30万円※年額
- 技能実習生入国後配属までの費用(研修・講習手当・健康診断費用など) 実習生1人あたり約20万円
※現地で面接などを行う場合はその費用が必要です。
※入国準備費用(健康診断費用、教育費、渡航費用など)を一部負担するケースもあります。
実習生配属後の継続的な費用:実習生1人あたり年額40万円~
- 配属後の監理団体への費用 約3万円※月額
- 配属後の送り出し機関への費用 約5,000~1万円※月額
※ほかに、上記年会費関係、寮費用、在留資格更新費用、技能検定費用、帰国渡航費用など
参考:厚生労働省「外国人介護人材に係る人員配置基準上の取扱いについて|P.24」
監理団体に支払う金額を実習生の給与から差し引く受け入れ機関もありますが、本来ならやってはいけないことです。
このように規則違反をして低賃金で技能実習生を受け入れる機関が少なくないため、技能実習生の給与は低くなる傾向がありますが、「技能実習生は安く雇える」という認識は誤りです。
在留資格に関わらず、技能実習生を含む外国人の給料は、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と規定されています。
特定技能制度による採用
採用の流れ
受け入れ機関になる条件
受け入れ機関は、全産業分野に適用される基準を満たしている必要があります。例えば、「1年以内に解雇者がいない」「1年以内に行方不明者がいない」「5年間出入国・労働法違反がない」などです。
工業製品製造業分野においては、後述する特定技能外国人が従事できる仕事内容(業務区分)が、企業が行っている産業の日本標準産業分類(業種)に当てはまっている必要があります。2024年3月の閣議決定以降、業種は4種類から15種類に、業務区分は3種類から10種類に拡大しました。
経済産業省によると、「企業が対象となる産業を行っている」とは、特定技能外国人が業務に従事する事業場において、直近1年間で、対象となる産業について製造品出荷額等が発生していることを指します。
なお、2024年3月の閣議決定以降、業種は4種類から15種類に、業務区分は3種類から10種類に拡大しました。
参考:経済産業省「特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)|特定技能制度(工業製品製造業分野)の概要説明資料」
製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会への入会
工業製品製造業分野では、経済産業省が「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」を設置しています。工業製品製造業分野において特定技能外国人を受け入れる全ての受入れ機関は、出入国在留管理庁への在留諸申請の前に、協議会の構成員になる必要があります。
入会申請は、特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)ポータルサイトから行います。入会届出は、事業所(工場など)1か所につき1件です。同一法人内の複数の事業所で届け出る場合、それぞれの事業所ごとに届出を行います。2024年時点では、入会費や年会費はかかりません。
なお、中分類11 繊維工業、中分類15 印刷・同関連業、小分類484 こん包業については、受入れ協議・連絡会の構成員になる前に満たすべき上乗せ要件があります。例えば、別団体への加入や、追加の書類が必要になっています。
参考:特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)ポータルサイト「特定技能外国人材(工業製品製造業分野)概要資料」「製造業における特定技能外国人材受け入れに関するFAQ」
原則1対1で直接採用可能
特定技能制度で外国人を雇用する方法として、まずは技能実習からの資格変更があります。技能実習からの資格変更の場合、試験は免除されます。ほかに、既に日本に在留している留学生も、試験に合格すれば特定技能人材として採用できます。
技能実習を経ていないインドネシア人が、一から特定技能での渡日を目指す場合、原則、候補者と受け入れ機関は1対1のやりとりで採用を決定できます。
現状では候補者個人と企業が直接つながるのは難しく、インドネシアの場合は政府から認可を得た移民労働者紹介会社(P3MI)を通すのが一般的です。他に、政府が運用するオンライン求人・求職マッチングシステム「IPKOL」を通す方法もあります。また日本側も、各産業分野の管轄省庁や業界団体が、交流会の開催やマッチング支援などを行っています。
インドネシア政府は特定技能制度を活用した人材派遣に力を入れる方針で、マッチングシステムの強化を目指しています。現状ではP3MIやIPKOLの利用は候補者にとっても受け入れ機関にとっても任意ですが、今後、制度の変更がある可能性もあります。
仕事内容
特定技能「工業製品製造業分野」の業務区分は2024年に7つ追加され、合計10区分になっています。
- 機械金属加工区分
- 電気電子機器組立て区分
- 金属表面処理区分
- 紙器・段ボール箱製造区分
- コンクリート製品製造区分
- RPF製造区分
- 陶磁器製品製造区分
- 印刷・製本区分
- 紡織製品製造区分
- 縫製区分
このうち、新しく追加された4~10の区分では、2024年時点では特定技能2号での受け入れは認められていません。最新情報を確認してください。
参考:特定技能外国人材制度(工業製品製造業分野)ポータルサイト「特定技能 外国人材(工業製品製造業分野)概要資料」
メリット・デメリット
人材の質
特定技能制度で就労する外国人は、日本語試験と技能試験に合格してから日本に来ます。ある程度の知識や技能が身についているため、即戦力になるというメリットがあります。一方で、試験に合格するための詰め込み学習で条件をクリアしてくる人が多いことは考慮する必要があります。
雇用の安定性
特定技能には1号と2号があり、最初は1号からスタートします。特定技能1号の在留期間は最大5年で、2号になると無期限になります。
ただし、特定技能「工業製品製造業分野」に含まれる10の区分のうち、2024年時点で特定技能2号でも受け入れが可能なのは上述の3区分のみとなっています。そのため他の区分の仕事に従事する人の場合は、せっかく教育して現場になじんだ人材を、5年で手放さなければいけないリスクがあります。
コスト面
特定技能制度の場合、技能実習制度で義務となっているような監理団体との契約は不要です。
採用前については、人材派遣会社を利用する場合は、紹介料などの費用がかかります。一方で採用後は、別の機関への月ごと、年度ごとの支払いは発生せず、継続的な費用は在留期間更新申請費用などに限られるため、コストを抑えられます。
ただし、特定技能1号外国人の場合、受け入れ機関には定められたさまざまな支援を行う義務があります。例えば、事前ガイダンス、出入国時の送迎、公的手続きへの同行などです。
受け入れ機関としての基準を満たしてはいるものの、定められたすべての支援を自ら実施するのが難しい受け入れ機関は、この業務を登録支援機関に委託することができます。
費用は機関や支援内容により、外国人1人あたり、初期費用30~40万円、継続的な支援費としては月額2~4万円程度となっています。
必要な支援をすべて受け入れ機関が行う場合も、特に初期には準備や人材育成にそれなりの時間とコストがかかります。そのため、特に外国人材を初めて受け入れる企業の場合、登録支援機関の利用も選択肢の1つになります。
設立してみませんか
インドネシアにおける工業製品製造業分野の現状
インドネシアで工業製品製造業に従事するには
まず前提として、インドネシアでは新卒一括採用は行われず、企業は必要な時期に必要な人数を募集します。
製造業に限らず、最も一般的なのが、親戚や大学、高校の先輩などからの紹介、つまりコネ入社です。加えて、大学や高校のキャリアセンターや特定の学部に届いた求人に応募する人や、職業訓練機関(LPK)などの斡旋で就職する人もいます。
他には企業のWebサイトやSNS、求人情報サイトなどに掲載される求人に応募する方法もあります。
インドネシアの工業製品製造業従事者の給与
インドネシアの中央統計庁(BPS)の2024年8月のデータによると、全産業分野の平均給与は1か月あたり326万7,618ルピア(3万1,000円)でした。産業分野別でみると製造業は324万6,220ルピア(3万円)で、平均に近い額でした。
機械のオペレーターなど直接製造にかかわるスタッフの月収は、地域によって250~400万ルピア(約2.3万円〜3.7万円)くらいからスタートし、経験を積んだりポストが変わったりすることで昇給していきます。
参考:BPS「Rata-Rata Upah/Gaji (Rupiah), 2024」
インドネシアの工業製品製造業のイメージ
インドネシアにおいて製造業は、経済を成長させる重要な役割を担っていると認識されています。
一般の国民にとっては、国の経済成長以上に意識するのが雇用の問題で、国内外の企業がインドネシアに新しい工場を建設するという話がよくニュースになります。ニュースでは「この工場では地元の人材を何百人雇用する予定」というように、地元の労働力を吸収することが強調され、また、地元住民もそれを期待します。
工業地帯周辺の地域では、工場従業員は地域の産業エコシステムや経済成長の貢献者とみなされます。
一方で、インドネシアでは職業や収入による階層意識を持つ人も多く、肉体労働者のことを、社会的地位が低いとみなす人もいます。
工場従業員など製造業従事者は長時間労働や低賃金といった問題にさらされやすく、搾取されやすい存在であるという問題意識も広まっています。
インドネシア人従業員にとっての日本の製造業の現場
日本の製造業分野で働くインドネシア人の多くが、品質について細かな決まりがあることや、納期が厳格に決まっていることなどに驚きます。
インドネシアと日本では多くの人が持つ衛生観念や、良いとされる就業態度が異なるため、最初は従業員も受け入れ企業側も戸惑うことがありますが、徐々に慣れてきて、気にならなくなっていくケースがほとんどです。
製造業分野では繁忙期に残業が増えることもありますが、インドネシア人は残業に抵抗をもたない人も多いので、順応しやすいようです。技能実習制度や特定技能制度を使って日本で働く人の多くは本国の家族に仕送りをしており、少しでも多く稼ぎたいと思っているため、残業したがる人もいます。
インドネシア人材が日本の製造業に欠かせない存在に
インドネシア人材はいまや、日本の製造業にとって欠かせない存在です。ただし、コストや労働環境、文化的な違いへの対応など、受け入れ側の配慮や対応が求められる点も少なくありません。
インドネシア人材の雇用においては、制度のメリットを最大限活かしながら、企業側と労働者側が、長期的な信頼関係を築いていくことが重要です。このことは企業の人材不足解消や生産性の向上だけでなく、日本人を含むすべての職員の多文化や多様性への理解を深め、職場のムードを良くすることにも繋がります。
インドネシア人材の派遣や受け入れに興味をお持ちの企業様は、ぜひお気軽に、弊社カケモチまでお問い合わせください。
段階的なインドネシアへの進出支援
インドネシア人の紹介ビジネスに関わる方へ
最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
もし宜しければ、現在抱えているお悩みを弊社に壁打ち的に相談してみませんか。何かしらお役に立てる情報を共有できる自信があります。
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技能実習「機械・金属関係」に従事するインドネシア人は何人いますか。
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2023年度、インドネシア人技能実習生7万4,879人のうち機械・金属関係は8,897人で、最も多い建設関係に次いで2番目に多く、全体の11.9%を占めます。
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特定技能「工業製品製造業分野」に従事するインドネシア人は何人いますか。
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2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人4万4,298人のうち、工業製品製造業分野の従事者は介護分野、飲食料品製造業分野、農業分野に次いで多く、7,028人でした。
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技能実習「機械・金属関係」から特定技能「工業製品製造業分野」への資格変更はできますか。
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技能実習「機械・金属関係」から特定技能「工業製品製造業分野」への資格変更は可能です。ただし、2024年に新しく追加された作業区分については、2024年時点では特定技能2号での受け入れは認められていません。
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