農業分野におけるインドネシア人(特定技能・技能実習)の採用方法と受け入れ
- 公開
- 2024/12/12
- 更新
- 2025/01/17
- この記事は約9分44秒で読めます。
農業分野の技能実習生数及び特定技能外国人数は、2021年末の合計3万754人から増加し続けており、2023年末には合計で5万4,032人に達しました。
このうち約1万5,000人が、インドネシア人です。若者人口が多く、国内の失業率の高さや給与水準の低さもあって海外での就労を目指す人が増えているインドネシアからの労働者の受け入れは、ますます増えていくと考えられます。
そこで本記事では、日本の農業分野で働くインドネシア人に焦点を当て、制度の概要や採用の流れ、メリット・デメリットなどを解説します。
参考:農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.1」
【補足】
本記事の円表記は、2024年12月13日のレート(1ルピア=0.0096円)で換算したものです。
日本の農業分野で働くインドネシア人の現状
技能実習「農業関係」
2023年度の技能実習計画認定件数をみると、インドネシア人技能実習生は7万4,879人で、ベトナム人に次いで多くなっています。
7万4,879人のうち農業関係は6,218人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。2022年度と比較すると4,319人から約1.4倍になりました。
参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
特定技能「農業分野」
2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人で、こちらもベトナム人に次いで2番目に多くなっています。
そのうち農業分野は8,514人で、介護分野、飲食料品製造業分野に次いで3番目に多い分野です。2022年6月末と比較すると、人数は2,243人から3.8倍になりました。
参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表」
「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」
技能実習制度による採用
採用の流れ
インドネシア人技能実習生の受け入れには、インドネシア側と日本側でそれぞれ仲介業者を通す必要があります。
インドネシア側の送り出し機関はSOと呼ばれます。SOは職業訓練機関LPKの資格も持つため、LPKの名称の方がよく知られています。日本側には、受け入れ先に対する指導や監査などを行う監理団体という組織があります。
技能実習制度での在留期間は最大で合計5年間ですが、技能実習2号または3号から、特定技能に資格変更することができます。
参考:外国人技能実習機構「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
仕事内容
技能実習「農業関係」には、次の分野が含まれます。
- 耕種農業のうち「施設園芸」「畑作・野菜」「果樹」
- 畜産農業のうち「養豚」「養鶏」「酪農」
農作業以外に、農畜産物を使用した製造・加工の作業の実習も可能です。
なお林業は特別に条件が定められています。条件を満たし、受け入れ可能と判断されれば、技能実習生を育林・素材生産作業に従事させることができます。
参考:
農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.3」
国際人材協力機構「技能実習制度の職種・作業について|移行対象職種の一覧と新規の職種追加」
メリット・デメリット
人材の質
技能実習制度は本国への技術移転を目的に、外国人に日本の技術を習得させることを目指す制度です。そのため制度上は、農業未経験者が派遣される可能性がある点がデメリットです。
また日本語力についても、要件はありません。ただ、インドネシア政府は特定技能と同じ日本語能力試験(JLPT)N4への合格を推奨しており、近年は多くの技能実習候補者が日本語を勉強してから渡航しています。
雇用の安定性
技能実習生の在留期間は、最大で5年間と決まっています。また、実習期間中の各段階で、技能評価試験を受験させる必要もあります。家族の帯同が禁止されているなど、実習生にとっては不自由な点が多い制度なので、受け入れ機関(企業)側の手厚いサポートが求められる点に留意する必要があります。
実習終了後は、本人が希望する場合、特定技能へ資格変更することで働き続けてもらうこともできます。
コスト面
技能実習生の受け入れに当たっては、受け入れ機関はインドネシア側の送り出し機関と日本側の監理団体に対し、各種費用を支払う必要があります。金額は機関によりますが、大まかには以下のとおりです。
実習生配属前の初期費用:60万円~
- 監理団体への入会金 1万円~20万円
- 監理団体への年会費 2万円~15万円※年額
- 公益財団法人国際人材協力機構(JICTO)への年会費(任意) 10万円~30万円※年額
- 技能実習生入国後配属までの費用(研修・講習手当・健康診断費用など) 実習生1人あたり約20万円
※現地で面接などを行う場合はそのための費用が必要です。
※入国準備費用(健康診断費用、教育費、渡航費用など)を一部負担するケースもあります。
実習生配属後の継続的な費用:実習生1人あたり年額40万円~
- 配属後の監理団体への費用 約3万円※月額
- 配属後の送り出し機関への費用 約5,000~1万円※月額
※ほかに、上記年会費関係、寮費用、在留資格更新費用、技能検定費用、帰国渡航費用など
監理団体に支払う金額を実習生の給与から差し引く受け入れ機関もありますが、本来ならやってはいけないことです。
このように規則違反をして低賃金で技能実習生を受け入れる機関が少なくないため、技能実習生の給与は低くなる傾向がありますが、「技能実習生は安く雇える」という認識は誤りです。
在留資格に関わらず、技能実習生を含む外国人の給料は、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と規定されています。
特定技能制度による採用
採用の流れ
原則1対1で直接採用可能
受け入れ機関は、全産業分野に適用される基準を満たしている必要があります。例えば、「1年以内に解雇者がいない」「1年以内に行方不明者がいない」「5年間出入国・労働法違反がない」などです。
特定技能制度で外国人を雇用する方法として、まずは技能実習からの資格変更があります。技能実習からの資格変更の場合、試験は免除されます。ほかに、既に日本に在留している留学生も、試験に合格すれば特定技能人材として採用できます。
技能実習を経ていないインドネシア人が、一から特定技能での渡日を目指す場合、原則、候補者と受け入れ機関は1対1のやりとりで採用を決定できます。
現状では候補者個人と企業が直接つながるのは難しく、インドネシアの場合は政府から認可を得た移民労働者紹介会社(P3MI)を通すのが一般的です。他に、政府が運用するオンライン求人・求職マッチングシステム「IPKOL」を通す方法もあります。また日本側も、各産業分野の管轄省庁や業界団体が、交流会の開催やマッチング支援などを行っています。
インドネシア政府は特定技能制度を活用した人材派遣に力を入れる方針で、マッチングシステムの強化を目指しています。現状ではP3MIやIPKOLの利用は候補者にとっても受け入れ機関にとっても任意ですが、今後、制度の変更がある可能性もあります。
農業特定技能協議会への加入
特定技能「農業分野」の人材を受け入れる受け入れ機関は、地方出入国在留管理局に対する申請の前に、農業特定技能協議会に加入する義務があります。また、加入後は協議会が実施するアンケートに回答するなど、必要な協力を行う必要があります。
加入申請は、農林水産省ホームページの専用フォームから行います。入会金などの費用はかかりません。
- 「農業特定技能協議会」WEB申請:https://www.contactus.maff.go.jp/j/form/keiei/fukyu/kanyuu.html
農業・漁業分野限定「派遣形態での受け入れ」
農業・漁業分野では季節により作業の繁閑の差が大きいため、特別に、派遣形態での受け入れが可能です。派遣事業者は、法務大臣が農林水産大臣と協議の上で要件を満たしたと認定した者で、2024年8月末で27社が該当します。
このケースでは外国人材と雇用契約を結ぶのは派遣会社で、派遣会社が「受け入れ機関」となります。外国人材を受け入れる事業者は派遣会社と労働者派遣契約を結び、繁忙期で入手が必要なときに派遣を受けます。
参考:農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.15」
海外説明・相談会
全国農業会議所はインドネシアを含む農業分野の特定技能試験実施国において、2023年度から現地での説明会や相談会を実施しています。
2024年1月にはインドネシアのバンテン州タンゲランにあるインドネシア農業工学ポリテックにて、相談会が行われました。
外国人材の雇用に関心のある日本の農業経営体も参加し、実際に日本での就労を希望する人と話したり、日本の農業の魅力を伝える講演を行ったりしました。現地の人材派遣会社や学生、就労希望者とのつながりができるよい機会です。興味をお持ちの事業者様は、全国農業会議所のWebサイトで最新情報をご確認ください。
参考:
農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.12」
全国農業会議所「令和6年度 海外説明・相談会の参加募集」
仕事内容
特定技能1号「農業分野」の仕事内容は、次のとおりです。
- 耕種農業全般:栽培管理、農産物の集出荷・選別等の農作業
- 畜産農業全般:飼養管理、畜産物の集出荷・選別等の農作業
特定技能2号の仕事内容は、1号で従事可能な業務及び当該管理業務です。
参考:
出入国在留管理庁「特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description)」
農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.3」
メリット・デメリット
人材の質
特定技能制度で就労する外国人は、日本語試験と技能試験に合格してから日本に来ます。ある程度の知識や技能が身についているため、即戦力になるというメリットがあります。一方で、試験に合格するための詰め込み学習で条件をクリアしてくる人が多いことは考慮する必要があります。
雇用の安定性
特定技能には1号と2号があり、最初は1号からスタートします。特定技能1号の在留期間は最大5年で、2号になると無期限になります。
技能実習「農業関係」と特定技能1号・2号「農業分野」は接続しており、従事する内容が変わらなければ資格変更をしながら長期的に雇用することができます。ただし、将来的には対象分野が変更される可能性もあるので、最新情報を確認することが大切です。
コスト面
特定技能制度の場合、技能実習制度で義務となっているような監理団体との契約は不要です。
採用前については、人材派遣会社を利用する場合、紹介料などの費用がかかります。一方で採用後は、別の機関への月ごと、年度ごとの支払いは発生せず、継続的な費用は在留期間更新申請などに限られるため、コストを抑えられます。
ただし、特定技能1号外国人の場合、受け入れ機関には定められたさまざまな支援を行う義務があります。例えば、事前ガイダンス、出入国時の送迎、公的手続きへの同行などです。
受け入れ機関としての基準を満たしてはいるものの、定められたすべての支援を自ら実施するのが難しい受け入れ機関は、この業務を登録支援機関に委託することができます。
費用は機関や支援内容により、外国人1人あたり、初期費用30~40万円、継続的な支援費としては月額2~4万円程度となっています。
必要な支援をすべて受け入れ機関が行う場合も、特に初期には準備や人材育成にそれなりの時間とコストがかかります。そのため、特に外国人材を初めて受け入れる企業の場合、登録支援機関の利用も選択肢の1つになります。
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インドネシアにおける農業の現状
インドネシアで農業分野に従事するには
農業はインドネシアの主要な産業の1つであり、多くの人にとって身近な存在です。主要な農産品としては、オイルパーム(アブラヤシの実)、コメ、サトウキビ、トウモロコシ、キャッサバなどがあります。
インドネシアの農家の多くが、家族経営の小規模農家で、多くの地域で農業従事者は代々農業を営んできました。しかし近年では知識や技術、インフラ不足、生産効率の悪さなどによる収入の低さなどが影響し、後継者不足の問題が深刻になっています。
このような状況を打破するため、近年はアグリテック企業が次々と登場し、農家のデジタル化や生産力向上、サプライチェーンの整備などに乗り出しています。またインドネシア政府も、農業従事者向けのトレーニングプログラムを実施するなど、農家の収入増加や人手の確保に努めています。
インドネシアの農業従事者の収入
インドネシアの中央統計庁(BPS)によると、2024年8月の平均月収は326万7,618ルピアでした(約3万1,000円)。一方で農業・林業・水産業の平均月収は240万7,712ルピア(約2万2,000円)と、平均値の74%に留まっています。
産業分野別の平均月収を比較すると、農業・林業・水産業の平均月収は、「その他のサービス業」を除けば一番低くなっています。
参考:BPS「Rata-Rata Upah/Gaji (Rupiah), 2024」
インドネシアの農業のイメージ
インドネシアの農家の多くはまだ機械化されておらず、昔ながらの方法で生産・販売を続けています。収入も低く、また、天候などの影響を受けやすいため不安定で、国民の多くが厳しい産業であると認識しています。
一方で、国産品を消費しようという政府を挙げたキャンペーンが実施されるインドネシアでは、値段が高くても質が高い国産品を購入しようという人も増えています。
そのため、改良された品種を生産したり、最新の技術を取り入れたりすることで、質の高い農産物を安定的に供給できる、意欲の高い農家も増えてきています。農業系スタートアップ企業が出てきていることからも、農業の革新と成長が期待されていることがわかります。
インドネシア人従業員にとっての日本の農業の現場
インドネシアでは、農業に関して学んだ経験がほとんどないが、代々農家であるためにそのやり方を踏襲しているという生産者も多くいます。また、日々の生活が苦しいため、農産物の質や生産性の改善は後回しになりがちです。費用がかかることから、機械や肥料を十分に用意できない農家もあります。
このような農家のイメージを持つ多くのインドネシア人の目に、日本の農家は新鮮に映ります。機械化や自動化の進み具合はもちろんのこと、知識に裏打ちされた生産方法や品質管理方法を目の当たりにし、「農業のイメージが変わった」「農業の可能性を感じた」というインドネシア人もいます。
また、農家であっても就業規則があり、労働時間や残業についてしっかりと決まっている点に驚く人もいます。
人手不足ならインドネシア人材の活用も視野に
日本の農業分野で活躍するインドネシア人労働者は、技能実習制度や特定技能制度を通じて、両国間の経済的・技術的な連携を強化する重要な役割を果たしています。制度の利用により、受け入れ機関は必要な人材を確保することができ、インドネシア人労働者にとっては技能習得や収入向上の機会となっています。
日本での就労を希望するインドネシア人の多くはとてもまじめで、家族への仕送りや自らの将来のために一生懸命働きます。外国人材の採用・雇用にはそれなりのコストがかりますが、制度と人材を上手に活用できれば、コスト以上のものが得られるでしょう。
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段階的なインドネシアへの進出支援
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最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
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農業分野で働くインドネシア人技能実習生は何人いますか。
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2023年度のインドネシア人技能実習生7万4,879人のうち、農業関係は6,218人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。
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特定技能1号「農業分野」に従事するインドネシア人は何人いますか。
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2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人4万4,298人のうち、農業分野は8,514人で、介護分野、飲食料品製造業分野に次いで3番目に多くなっています。
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技能実習「農業関係」から特定技能「農業分野」に資格変更できますか。
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技能実習「農業関係」から特定技能「農業分野」への資格変更は、従事する仕事の区分(耕農または畜産)が同じであれば可能です。
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