インドネシアの農業で働く人たちの特徴や現場風景
- 公開
- 2025/02/23
- 更新
- 2026/06/20
- この記事は約10分40秒で読めます。
日本の農業分野では、大勢のインドネシア人が働いています。技能実習制度や特定技能制度を利用して訪日する彼ら、彼女らなしでは、日本の農業は成り立たなくなりつつあります。
一方のインドネシアも農業が盛んな国で、農業従事者は全労働者の3割近くを占めます。
そこで本記事ではインドネシアの農業で働く人にフォーカスし、その特徴や働く様子を、データや動画を交えながら紹介します。
【補足】
本記事の円表記は、2025年2月14日のレート(1ルピア=0.0094円)で換算したものです。
インドネシアの農業業界
市場規模
2023年のデータによると、インドネシアの農林水産業の、国内総生産(GDP)への寄与率は12.5%でした。漁業と林業を除いた狭義の農業に絞ると、9.2%です。
内訳は、プランテーション(3.9%)、漁業(2.7%)、稲(2.3%)、畜産(1.6%)、園芸作物(1.4%)、林業(0.6%)、そして農業サービスと狩猟(0.18%)となっています。
参考:BPS「Indikator Pertanian 2023|P.22」
現状と課題
インドネシアの農業には、生産性の低さ、所得の低さ、インフラやサプライチェーンの貧弱さなど、いくつもの課題があります。具体的には、例えば以下のようなものです。
- 農業機械やデジタル技術の利用率が低い
- 貯蔵庫や灌漑設備などが不足している
- 小規模な農家が多い(生産力が低い、十分な設備を設けられない)
- 伝統的な農法や品種を改善・改良せずに事業を続けている
- 記録やデータを元にした計画、予測、リスク管理が浸透していない
- 行政や企業からの指導・支援が足りない
政府は生産効率向上のため、農家の規模を大きくすることを推奨していますが、依然として小規模農家が多い実態があります。BPSによると、土地を利用する農家のうち、62.1%が0.5ヘクタール未満の小規模農家です。
原因としては、土地をすべての子どもに分割して相続させる慣習や、農地転用などが挙げられます。
参考:BPS「Petani Gurem」
主要な農作物
インドネシアが生産量で世界の上位に位置する主な農作物を紹介します。データは主に2023年のものです。
米はインドネシア人の主食でありもっとも重要な農作物の一つです。しかし、人口の増加や所得水準の向上で需要が伸びる一方、生産側が天候不良などの影響を受けやすく供給が追い付かない事態が起こりがちで、より安定して供給するための対策が求められています。
- 米:4位
- サツマイモ:7位
- キャッサバ:7位
- トウモロコシ:8位
- 唐辛子(ピーマン含む):4位
- バナナ:3位
- マンゴー:2位
- 茶:7位
- コーヒー豆:3位
- カカオ:3位
- ココナッツ:1位
- クローブ:1位
- 生姜:5位
- 天然ゴム:2位
- サトウキビ:7位
- アブラヤシ:1位
インドネシアの農業分野に進出した日本企業
伊藤忠商事
伊藤忠商事は、スマトラ島のパレンバンとジャンビで2つの天然ゴム加工工場を経営するPT Aneka Bumi Pratama(アネカ・ブミ・プラタマ)を保有しています。
また伊藤忠商事は、天然ゴム加工事業に関連して、天然ゴムのサプライチェーンへのCSR(企業の社会的責任)ポリシーの浸透とGPSNR(持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム)ガイドラインの適用を実現するためのプロジェクトを発足させました。農家の持続可能性と公平性を改善するプログラムを構築や、アネカ・ブミ・プラタマ社のサプライチェーンの透明性の確保などを進めています。
トプコン
株式会社トプコンと住友商事は2019年、インドネシアにおいて合弁会社PT. Weeo Solutions Frontierを設立しました。 Weeo社は、トプコンのテレマティックス技術と精密農業ソリューションをインドネシア市場に提供し、自動化・IT化により農業の生産性を高めることを目指しています。
参考:
伊藤忠商事「PROJECT TREEの取り組み」
住友商事「トプコンと住友商事、インドネシアに合弁IoTカンパニーを設立」
農業で働くインドネシア人
インドネシアの農業事業者の種類
インドネシアにおける農林水産業の事業者は、主に以下の4つに分類されます。
家庭農業事業者(RTUP)
家庭農業事業者は家族単位で農業活動を行う事業体で、生産物の全部または一部を販売・交換することを目的としています。
2023年の中央統計庁(BPS)の調査によると、家庭農業事業者のうち農業(稲、園芸作物、プランテーション)事業者、畜産事業者、農業サービス事業者の数は以下の通りです(1つの事業者が複数の事業を行っている場合はいずれもカウント。以下同じ)。
- 農業:3,592万件
- 畜産業:1,205万件
- 農業サービス:36万件
法人農業事業者(UPB)
継続的に事業を運営し、利益を追求する法人農家は、法令に基づき設立され、所轄官庁からの許可を取得しています。生産から販売まで、農業活動の各段階を組織的に実施します。
法人農業事業者のうち農業事業者、畜産事業者、農業サービス事業者の数は以下の通りです。
- 農業:3,099件
- 畜産業:1,014件
- 農業サービス:61件
その他の農業事業者(UTL)
その他の農業事業者(UTL)とは主に、地域住民が共同で農業に取り組む事業者です。地域内の農業生産性とメンバーの福祉の向上を目的としています。
その他の農業事業者のうち農業事業者、畜産事業者、農業サービス事業者の数は以下の通りです。
- 農業:9,634件
- 畜産業:2,414件
- 農業サービス:1,875件
個人農業事業者(UTP)
個人農業事業者(UTP)は、個人が技術的、法的、経済的な責任を負って管理するものです。この個人は、すべての業務を自らが行うこともできますが、他者(個人であり法人ではない)に委任することもできます。
個人農業事業者のうち農業事業者、畜産事業者、農業サービス事業者の数は以下の通りです。
- 農業:3,649万件
- 畜産業:1,219万件
- 農業サービス:37万件
農業で働く人の数
BPSによると、2023年2月時点の農業・畜産業従事者数は、インドネシアの全労働人口(15歳以上)の27.5%にあたる3,814万人でした。農業・畜産業は、インドネシアにおいて最大の労働人口を抱える産業です。
農業従事者の70~80%が、家庭農業事業に従事する人です。
参考:Potal Satu Data Pertanian「Statistik Ketenagakerjaan Sektor Pertanian (Februari 2023)|P.xiii PENDAHULUAN」
農業で働く人の年齢
同じくBPSの2023年の統計によると、農業従事者の42.4%が43歳~58歳のいわゆるX世代です。
次いで多いのは59歳~77歳の「ベビーブーマー世代」で27.6%、さらに27歳~42歳の「ミレニアル世代」が25.6%で続きます。78歳以上は2.2%、26歳以下のZ世代は2.1%でした。
参考:Databoks「Generasi X Mendominasi Jumlah Petani Indonesia 2023」
農業における給与水準
BPSによると、農林水産業従事者の平均月給は、以下の通りです。全体的に全産業平均額を大きく下回り、産業分野別では「その他サービス業」を除き最も低くなっています。
企業のマネージャー職などになると700~900万ルピア(6万5,800円~8万4,600円)程度が期待できますが、それ以外、特に最も数が多い家族または個人経営の農家の収入は概して低く、生活が厳しい人が多いであろうことが容易に想像できます。
全産業平均と比較すると、都市部と農村部で差が小さいことも特徴です。
なお、2024年の州別最低賃金の平均は311万ルピア(2万9,230円)です。
男性平均の給与:255万ルピア(2万3,970円)
※全産業男性平均:354万ルピア(3万3,170円)
女性平均の給与:173万ルピア (1万6,260円)
※全産業女性平均:277万ルピア(2万5,950円)
都市部平均の給与:252万ルピア(2万3,690円)
※全産業都市部平均:359万ルピア(3万3,635円)
農村部平均の給与:235万ルピア(2万2,090円)
※全産業農村部平均:245万ルピア(2万2,954円)
全体平均の給与:241万ルピア(2万2,650円)
※全産業平均:327万ルピア(3万637円)
非正規労働者平均の給与:148万ルピア(1万3,910円)
※全産業非正規労働者平均:191万ルピア(1万7,950円)
【補足】
非正規労働者のデータは2023年、それ以外は2024年のものです。
参考:
BPS「Indikator Pasar Tenaga Kerja Indonesia Agustus 2024|P.120-121」/「Rata-rata Pendapatan Bersih Sebulan Pekerja Informal1 Menurut Provinsi dan Lapangan Pekerjaan Utama2 (rupiah), 2023」
必要な情報が見つからない方は、下記のサイト内検索を活用してください。
農業で働く人の社会的なイメージ
紹介したとおり、農業従事者は平均的に低所得で、インドネシア人の多くがそのイメージを共有しています。家族経営の農家は地方の農村部で代々農家であるケースが多く、一般的に中低所得層であり、教育水準も低い傾向があります。実際に、農業従事者の90.3%は、最終学歴が初等教育以下です。
このような状況もあり、若者が家業の農業を継ぎたがらず、農林水産業従事者の高齢化が進んでいます。
一方で、最近は消費者のニーズや流行を敏感にキャッチして農業を始め、ECプラットフォームやSNSを活用することで十分な業績をあげる家族や個人の農家もあります。アーバンファーミング(都市農業)の事業者も登場しており、農業に注目する若者も少なくありません。
参考:Potal Satu Data Pertanian「Statistik Ketenagakerjaan Sektor Pertanian (Februari 2023)|P.17」
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農業の現場で働く人たちの日常風景
昔ながらの稲作

こちらは昔ながらの稲作の風景です。現在では機械を使うところも多いものの、水田が狭い、形がいびつ、傾斜地にあるなどの事情で手作業に頼らざるを得ない農家も多く残ります。費用の面で機械の導入が厳しい農家の業務の機械化を、地方政府や民間企業が支援している例もあります。
インドネシアの多くの地域では、稲の3期作が可能です。しかし実際はインフラが整わず、降水量に頼った稲作が行われており、乾季は裏作としてトウモロコシなどを栽培する米農家が多くなっています。
鶏卵のフランチャイズビジネス

最近は特に飲食業界で、少ない資本で始められる小規模なフランチャイズビジネスが流行っていますが、農業分野でも登場しています。
こちらは庭などのわずかなスペースを活用し、数万円から始められる鶏卵ビジネスです。2年契約、500万ルピア(4万7,000円)の資本で、10羽のニワトリ、ケージ、薬・ビタミン類、餌、スタッフによるサポートが付き、卵はフランチャイザーが毎月買い取る仕組みになっています。
アブラヤシ農家が牛ブリーダーに

アブラヤシの木の寿命は25年程度と言われ、時期が来れば植え替えが必要になります。小規模なアブラヤシ農園を経営するこの男性は、アブラヤシの生産や加工を手掛けるAsian Agri社からの支援を受け、植え替えのタイミングで牛の飼育を始めました。
インドネシアではこのように、農家の収入向上や農業の持続可能性の確保を目指す取り組みが、各地で始まっています。
なおAsian Agri社は花王株式会社などと協力し、インドネシアの小規模アブラヤシ農園の生産性向上と、持続可能なパーム油に対する認証(RSPO認証)の取得を支援するプログラム「SMILE」を実施しています。
日本の農業現場で働くインドネシア人
技能実習「農業関係」

2023年度の技能実習計画認定件数をみると、インドネシア人技能実習生は7万4,879人で、ベトナム人に次いで多くなっています。
7万4,879人のうち農業関係は6,218人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。2022年度と比較すると、4,319人から約1.4倍になりました。
参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
特定技能「農業分野」

2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人で、こちらもベトナム人に次いで2番目に多くなっています。そのうち農業分野は8,514人で、特定技能1号「農業分野」従事者の30.6%を占めます。
また農業分野は、介護分野、飲食料品製造業分野に次いでインドネシア人が多い分野でもあります。2022年6月末と比較すると、人数は2,243人から3.8倍になりました。
なお「農業分野」には耕種農業と畜産農業が含まれます。漁業と林業は別の産業分野として扱われています。
参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表」
「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」
日本の農業現場で働いたインドネシア人の帰国後
日本での経験とは無関係に起業する人が多い
技能実習制度や特定技能制度を利用して日本で働き、インドネシアに帰国した人の進路はさまざまです。多くの人が日本での就労を出稼ぎと割り切っているため、必ずしも帰国後に日本で経験したものと同じ仕事をしたいと考える人ばかりではありません。
産業分野別の細かいデータはありませんが、まず、技能実習生の帰国後の進路についての調査を紹介します。

上掲の表は、法務省が2022年9月~12月に帰国した技能実習生の進路を、2023年2月までに調査したものです。これを見ると、インドネシアの元技能実習生について、以下のような特徴がわかります。
- 雇用されて働いている、またはその予定がある人の割合が他国に比べて低い(10.9%)
- 起業している人の割合が他国に比べて高い(21.9%)
- 何もしていない人の割合が他国に比べて低い(2.5%)
- 実習と異なる仕事をしている人の割合が他国に比べて高い(48.6%)
全体的に、「実習の内容とは関係なく」「起業している」という人が比較的多いことがわかります。多くの人が起業(自営)を志す背景には、失業率が高く、ツテやコネがないと企業への就職が難しいという事情があります。
なお、元実習生が、実習の内容と関係なく就く仕事の1つが、日本語教育分野です。日本で従事した職業ではなくても、日本で身に付けた日本語力を活かし、日本語学校や職業訓練機関(LPK)などの日本語教師になったり、日本語塾を立ち上げたりする人もいます。自らLPKを立ち上げる人もいます。
参考:法務省「令和4年度「帰国後技能実習生フォローアップ調査」」
日本での就労経験を活かせる仕事
日本企業への就職
一方で、日本での経験を就職に活かす人もいます。農業に限りませんが、日本で就労した経験から、また日本企業で働きたいと考える人は多く、帰国者の主な就職先の選択肢となっています。
理由としては、地元企業で他のインドネシア人と一緒に働くよりも、待遇がよいことが挙げられます。また、日本企業の風土や労働環境に好感を持ち、また似た環境で働きたいと考える人もいるようです。
農園経営
日本で農業に従事した経験を積極的に活かそうと考える人もいます。身近な農業事業者の門を叩き、そこで力を発揮するのも選択肢の一つです。また、自分で農園経営を始める人もいます。
日本での就労、または国内でもまったく別の業界での就労経験のある若者がその知識や技術をもって農業に参入する例も目立ち、「ミレニアルファーマー」などと呼ばれています。
就職サポートが課題
日本で働き帰国した人の就職サポートについては、課題が残っています。
訪日前に通ったLPKなどが提供する就職サポートを受けられる人もいますが、ほんの一部です。LPKが就職サポートを提供していなかったり、Uターンを希望する元生徒の出身地から遠かったりして、LPKのサポート範囲から漏れてしまう人も大勢います。
新風吹き込むインドネシアの農業
紹介した通り、インドネシアの農業はまだ近代化への道の途中にあります。一方で、アグリテックと呼ばれる農業スタートアップ、アーバンファーミングやスマート農業の登場など、ここ10年ほどは新しいニュースに事欠かない分野でもあります。既存の農家の生産力や収入の向上のため、政府や企業による、さらなる支援が期待されます。
このような状況のなか、農業に興味を持つ若者も少なくありません。海外への出稼ぎを目指す際、数ある選択肢の中からたまたま日本の農業と出会い、それがきっかけで本格的に農業を始める人もいます。
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