漁業分野におけるインドネシア人(特定技能・技能実習)の採用方法と受け入れ

公開
2024/12/11
更新
2025/01/20
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インドネシアは日本と同じ島国であり、漁業は重要かつ身近な産業の1つです。そんなインドネシアからの人材が日本の漁業分野で働く姿は、近年ますます目立つようになってきました。

本記事では、技能実習生や特定技能人材として日本の漁業に従事するインドネシア人の現状や制度の概要、採用のプロセスについて解説します。

【補足】
本記事の円表記は、2024年12月13日のレート(1ルピア=0.0096円)で換算したものです。

インドネシアでの会社設立

日本の漁業分野で働くインドネシア人の現状

技能実習「漁業関係」

2023年度の技能実習計画認定件数をみると、インドネシア人技能実習生は7万4,879人で、ベトナム人に次いで多くなっています。

7万4,879人のうち漁業関係は1,510人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。2022年度と比較すると1,211人から約1.2倍になりました。

参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)

特定技能「漁業分野」

2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人で、こちらもベトナム人に次いで2番目に多くなっています。

そのうち漁業分野は2,452人で、介護分野、飲食料品製造業分野、農業分野、工業製品製造業分野、建設分野に次いで6番目に多い分野です。2022年6月末と比較すると、人数は797人から3.1倍になりました。

なお、2024年12月時点で、漁業分野の技能試験は、日本国内と、インドネシア、フィリピンで受験できます。このうち、漁業分野に含まれる「漁業」「養殖」の両方の区分の技能試験を実施しているのは、日本を除けばインドネシアのみです。

参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表」
「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」
特定技能総合支援サイト「特定技能に関する試験情報」

技能実習制度による採用

採用の流れ

インドネシア人技能実習生の受け入れには、インドネシア側と日本側でそれぞれ仲介業者を通す必要があります。

インドネシア側の送り出し機関はSOと呼ばれます。SOは職業訓練機関LPKの資格も持つため、LPKの名称の方がよく知られています。日本側には、受け入れ先に対する指導や監査などを行う監理団体という組織があります。

技能実習制度での在留期間は最大5年間ですが、技能実習2号または3号から、特定技能に資格変更することができます。

参考:外国人技能実習機構「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)

仕事内容

技能実習「漁業関係」には、次の分野が含まれます。

漁船漁業

  • かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業、棒受網漁業(技能実習2号まで)

養殖業

  • ほたてがい・まがき養殖作業

参考:国際人材協力機構「技能実習制度の職種・作業について|移行対象職種の一覧と新規の職種追加」

メリット・デメリット

人材の質

技能実習制度は本国への技術移転を目的に、外国人に日本の技術を習得させることを目指す制度です。そのため制度上は、漁業未経験者が派遣される可能性がある点がデメリットです。

また日本語力についても、要件はありません。ただ、インドネシア政府は特定技能と同じ日本語能力試験(JLPT)N4への合格を推奨しており、近年は多くの技能実習候補者が日本語を勉強してから渡航しています。

雇用の安定性

技能実習生の在留期間は、最大で5年間と決まっています。また、実習期間中の各段階で、技能評価試験を受験させる必要もあります。家族の帯同が禁止されているなど、実習生にとっては不自由な点が多い制度なので、受け入れ機関(企業)側の手厚いサポートが求められる点に留意する必要があります。

実習終了後は、本人が希望する場合、特定技能へ資格変更することで働き続けてもらうこともできます。

コスト面

技能実習生の受け入れに当たっては、受け入れ機関はインドネシア側の送り出し機関と日本側の監理団体に対し、各種費用を支払う必要があります。金額は機関によりますが、大まかには以下のとおりです。

実習生配属前の初期費用:60万円~
  • 監理団体への入会金 1万円~20万円
  • 監理団体への年会費 2万円~15万円※年額
  • 公益財団法人国際人材協力機構(JICTO)への年会費(任意加入) 10万円~30万円※年額
  • 技能実習生入国後配属までの費用(研修・講習手当・健康診断費用など) 実習生1人あたり約20万円

※現地で面接などを行う場合はその費用が必要です。
※入国準備費用(健康診断費用、教育費、渡航費用など)を一部負担するケースもあります。

実習生配属後の継続的な費用:実習生1人あたり年額40万円~
  • 配属後の監理団体への費用 約3万円※月額
  • 配属後の送り出し機関への費用 約5,000~1万円※月額

※ほかに、上記年会費関係、寮費用、在留資格更新費用、技能検定費用、帰国渡航費用など

監理団体に支払う金額を実習生の給与から差し引く受け入れ機関もありますが、本来ならやってはいけないことです。

このように規則違反をして低賃金で技能実習生を受け入れる機関が少なくないため、技能実習生の給与は低くなる傾向がありますが、「技能実習生は安く雇える」という認識は誤りです。

在留資格に関わらず、技能実習生を含む外国人の給料は、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と規定されています。

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特定技能制度による採用

採用の流れ

受け入れ機関になるには

受け入れ機関は、全産業分野に適用される基準を満たしている必要があります。例えば、「1年以内に解雇者がいない」「1年以内に行方不明者がいない」「5年間出入国・労働法違反がない」などです。

また漁業分野では、水産庁が設ける「漁業特定技能協議会」の1号構成員になる必要があります。構成員として登録されたことを証明する1号構成員資格証明書が、在留資格認定証明書交付申請の必要書類となっています。

参考:水産庁「在留資格「特定技能」による新たな外国人材の受入れ|特定技能外国人材の受入れ制度について(漁業分野)P.15」

原則1対1で直接採用可能

特定技能制度で外国人を雇用する方法として、まずは技能実習からの資格変更があります。技能実習からの資格変更の場合、従事する仕事の区分が同じであれば、試験は免除されます。ほかに、既に日本に在留している留学生も、試験に合格すれば特定技能人材として採用できます。

技能実習を経ていないインドネシア人が、一から特定技能での渡日を目指す場合、原則、候補者と受け入れ機関は1対1のやりとりで採用を決定できます。

現状では候補者個人と企業が直接つながるのは難しく、インドネシアの場合は政府から認可を得た移民労働者紹介会社(P3MI)を通すのが一般的です。他に、政府が運用するオンライン求人・求職マッチングシステム「IPKOL」を通す方法もあります。また日本側も、各産業分野の管轄省庁や業界団体が、交流会の開催やマッチング支援などを行っています。

インドネシア政府は特定技能制度を活用した人材派遣に力を入れる方針で、マッチングシステムの強化を目指しています。現状ではP3MIやIPKOLの利用は候補者にとっても受け入れ機関にとっても任意ですが、今後、制度の変更がある可能性もあります。

漁業特定技能協議会への加入

特定技能「漁業分野」の外国人を受け入れる企業などは、地方出入国在留管理局への在留諸申請の前に、漁業特定技能協議会に加入する必要があります。

協議会の構成員には、特定技能外国人を雇用する受入れ機関「1号構成員」、1号構成員を指導や助言する立場にある団体「2号構成員」、登録支援機関「3号構成員」の3つがあります。

特定技能外国人を受け入れる際には、営む漁業や養殖業について必要な指導・助言が行える2号構成員(組合、協会など)に所属する必要があります。入会費や年会費などについては協議会ではなく、2号構成員団体がそれぞれ独自に定めています。

参考:水産庁「漁業特定技能協議会|漁業特定技能協議会1号構成員資格証明書交付手続に関するQ&A」

農業・漁業分野限定「派遣形態での受け入れ」

農業・漁業分野では季節により作業の繁閑の差が大きいという事情があるため、特別に、派遣形態での受け入れが可能です。派遣事業者は、法務大臣が農林水産大臣と協議の上で要件を満たしたと認定した者で、2024年8月末で27社が該当します。

このケースでは外国人材と雇用契約を結ぶのは派遣会社で、派遣会社が「受け入れ機関」となります。外国人材を受け入れる事業者は、派遣会社と労働者派遣契約を結び、繁忙期で人手が必要なときに派遣を受けます。

参考:農林水産省「農業分野における外国人材の受入について|P.15」

仕事内容

特定技能「漁業分野」の仕事内容は、以下のように規定されています。

漁業区分

  • 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等

養殖業区分

  • 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲・処理、安全衛生の確保等

特定技能2号では、特定技能1号で従事可能な作業に加え、「操業・養殖を指揮する者の補佐、 作業員の指導及び作業工程の管理」が追加されます。

参考:出入国在留管理庁「特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description)」

メリット・デメリット

人材の質

特定技能制度で就労する外国人は、日本語試験と技能試験に合格してから日本に来ます。ある程度の知識や技能が身についているため、即戦力になるというメリットがあります。一方で、試験に合格するための詰め込み学習で条件をクリアしてくる人が多いことは考慮する必要があります。

雇用の安定性

特定技能には1号と2号があり、最初は1号からスタートします。特定技能1号の在留期間は最大5年で、2号になると無期限になります。

技能実習「漁業関係」と特定技能1号・2号「漁業分野」は接続しており、従事する内容が変わらなければ資格変更をしながら長期的に雇用することができます。ただし、将来的には対象分野が変更される可能性もあるので、最新情報を確認することが大切です。

コスト面

特定技能制度の場合、技能実習制度で義務となっているような監理団体との契約は不要です。

採用前については、人材派遣会社を利用する場合、紹介料などの費用がかかります。一方で採用後は、別の機関への月ごと、年度ごとの支払いは発生せず、継続的な費用は在留期間更新申請などに限られるため、コストを抑えられます。

ただし、特定技能1号外国人の場合、受け入れ機関には定められたさまざまな支援を行う義務があります。例えば、事前ガイダンス、出入国時の送迎、公的手続きへの同行などです。

受け入れ機関としての基準を満たしてはいるものの、定められたすべての支援を自ら実施するのが難しい受け入れ機関は、この業務を登録支援機関に委託することができます。

費用は機関や支援内容により、外国人1人あたり、初期費用30~40万円、継続的な支援費としては月額2~4万円程度となっています。

必要な支援をすべて受け入れ機関が行う場合も、特に初期には準備や人材育成にそれなりの時間とコストがかかります。そのため、特に外国人材を初めて受け入れる企業の場合、登録支援機関の利用も選択肢の1つになります。

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インドネシアにおける漁業分野の現状

インドネシアで漁業分野に従事するには

インドネシアの漁業従事者の多くは沿岸地域や島嶼部の、伝統的に漁業が行われてきた地域に昔から住んでいる人々です。漁船漁業も養殖も盛んで、特にエビの養殖は有名です。

地域のコミュニティの団体、もしくは家族単位で漁を行うケースが多く、家族全員が漁や水産物の加工など、漁業と何らかの周辺産業に従事する場合もあります。漁の技術は主に父から子へと引き継がれることが一般的で、多くの漁師が10代で働き始めます。

地域によっては、漁業は古くからその地に根付く民族の文化の一部になっています。

このため他の地域の人が漁業に新規参入することはあまり一般的ではありませんが、漁業関係のアグリテック企業の登場もあり、周辺産業まで範囲を広げると、以前よりも多様な人が関わる産業となっています。

インドネシアの漁業従事者の収入

インドネシアの中央統計庁(BPS)によると、2024年8月の平均月収は326万7,618ルピア(約31,000円)でした。一方で農業・林業・水産業の平均月収は240万7,712ルピア(約23,000円)と、平均値の74%に留まっています。

産業分野別の平均月収を比較すると、農業・林業・水産業の平均月収は、「その他のサービス業」を除けば一番低くなっています。

参考:BPS「Rata-Rata Upah/Gaji (Rupiah), 2024」

インドネシアの漁業のイメージ

インドネシアの漁業従事者は一般的に、もともと低収入で、漁村というと貧しい地域というイメージを持つ人も少なくありません。

背景には、僻地ゆえのインフラ不足や、漁具不足、漁業技術の近代化の遅れなどがあります。加えて、気候変動や海洋汚染などの影響で漁獲量に波があることも、漁師の収入を不安定にしています。

一方で、島国であるインドネシアにとって漁業は重要な産業の1つです。そこでインドネシア政府は、漁師の生活改善のため、さまざまな支援を実施しています。例えば、漁具の提供や貯蔵施設の整備、保険の提供、事業を多様化するための研修プログラムの提供などです。

インドネシア人従業員にとっての日本の漁業の現場

紹介してきたとおり、インドネシアの多くの人が、漁業について重要な産業と認識する一方で、「貧しい人たちの仕事」「近代化が遅れている分野」というイメージを持っています。
そのため日本の漁業に接すると、漁業技術や作業効率の高さや、近代的な設備などに驚きます。また、安全基準がしっかりしていることや、労働時間・休憩時間などに関する規則が整っていることにも新鮮さを感じる人が多いようです。

漁業分野で存在感を示すインドネシア人材

日本において、漁業に従事する人の数は年々減少しています。水産省によると、2022年の漁業従事者数は12万3,100人で、これは2003年の約半数です。また、漁業従事者に占める高齢者(65歳以上)の割合が、38%前後と高い数値で推移しているのも課題です。

技能実習や特定技能といった制度を通じて日本の漁業分野で働くインドネシア人材は、もはや、日本にとって欠かせない存在です。特にそのまじめさや適応力は高く評価されており、外国人材の採用を考える漁業事業者にとって、ぜひ検討すべき選択肢となっています。

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インドネシア人技能実習生のうち、漁業に従事する人は何人いますか。

2023年度、インドネシア人技能実習生7万4,879人のうち漁業関係は1,510人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。

特定技能1号「漁業分野」に従事するインドネシア人は何人いますか。

2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人です。そのうち漁業分野は2,452人で、介護分野、飲食料品製造業分野、農業分野、工業製品製造業分野、建設分野に次いで6番目に多い分野です。

特定技能1号「漁業分野」の技能試験が受けられる国はどこですか。

2024年時点で、特定技能1号「漁業分野」の技能試験は、日本、インドネシア、フィリピン(養殖のみ)で受けられます。

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