インドネシアの漁業で働く人たちの特徴や現場風景

公開
2025/02/27
更新
2026/06/20
この記事は約10分43秒で読めます。

インドネシアは世界有数の漁業大国であり、広大な海域を活かした漁業が盛んに行われています。インド洋、太平洋、そして多くの内海に囲まれたこの国では、何世代にもわたって漁業を生業とする人々が暮らしてきました。

そんなインドネシアから日本の漁業に従事しようと、近年多くの若者たちが、技能実習制度や特定技能制度を利用して日本に渡っています。

本記事ではまず、インドネシアの漁業の概要を紹介します。続いて、そこで働く人たちの特徴や現場の風景を、データや動画を交えながら紹介します。

【補足】
本記事の円表記は、2025年2月14日のレート(1ドル=152.32円、1ルピア=0.0094円)で換算したものです。

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インドネシアの漁業業界

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市場規模

インドネシアは水産物の漁獲量・生産量が、中国に次いで世界で2番目に多い国です。インドネシアの漁業は、世界の水産需要の25%を提供しているといわれています。

2022年の水産物輸出額は62億4,000万ドル(8,443億9,680万円)で、主要品目はエビ、カニ、イカ、タコ、マグロ、カツオなどです。

特に盛んなのは遠洋漁業で、同国の水産物生産量全体の57%を占めます。しかし、生産量に比べて世界において競争力は低く、2024年時点でインドネシアの漁業のGDPは、国のGDPの約2.5%にとどまります。原因は、漁師の教育不足、技術不足、保管、加工、輸送などのインフラ不足、サプライチェーンが未発達であることなどが挙げられます。

気候変動や過剰な漁獲の影響もあり、過去数年の成長率は-3%から+3%の間を行き来しています。国内外で需要が伸びているにも関わらず、順調に成長しているとは言えない状況です。

参考:
KEMENTERIAN KELAUTAN DAN PERIKANAN REPUBLIK INDONESIA「Menteri Trenggono Sukses Tingkatkan PDB Perikanan di 2024」
WRI Indonesia「Menuju Hilirisasi Sektor Perikanan Indonesia yang Kuat dan Berkelanjutan」

現状と課題

資源の枯渇と環境への影響

インドネシアの漁場の75%が既に過剰利用または枯渇状態にあり、2017年以降、漁獲量は減少傾向にあります。

そのため政府は水産資源の保全にも力を入れています。2022年時点で2,890万ヘクタールある海洋保護地区を、2045年までに9,700万ヘクタールに広げる目標を掲げています。

漁業従事者の低収入

先にも触れたとおり、インドネシアでは漁業従事者の知識や技術の不足が指摘されています。漁獲物が適切に扱われず、品質が損なわれたために予定通り輸出できない事態もよく発生しています。漁業従事者一人あたりの生産量も中国の10分の1と、生産性の低さが問題です。

小規模漁業者の立場の弱さも指摘されます。

インドネシアの漁業業界のサプライチェーンは、力のある仲介業者が流通量や価格をコントロールする状況が続いています。そのため漁業従事者の96%を占める小規模漁業者が商品を適切なルートで市場に送り出すことができず、漁獲量の20~30%が流通しないといわれています。これが、漁業従事者の低収入の要因の一つとなっています。

インドネシア漁業における政府の取り組み

インドネシア政府は、漁業分野の課題解決と持続的な発展を目指し、以下のような取り組みを推進しています。

  • 計画的漁獲制度の導入(資源管理)
  • 加工技術の向上や新製品開発の推進
  • 資金援助
  • 投資の促進
  • 養殖業の生産性向上のための指導・研修など
  • 養殖業者の組織化
  • 環境保全のための廃棄物管理の徹底

参考:
WRI Indonesia「Menuju Hilirisasi Sektor Perikanan Indonesia yang Kuat dan Berkelanjutan」
Databoks「Baru 308 Ribu Nelayan yang Terlindungi di Indonesia pada 2022」

インドネシアの漁業分野に進出した日本企業

インドネシアの漁業分野では、日本水産がエビ養殖事業を行っていましたが、2016年に連結子会社の株式を全額譲渡し、撤退しています。

漁業に関わる分野では、スズキ株式会社が漁業用のボートや整備の製造・販売を行っています。それに関連して、インドネシアを含む各国で「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」を実施し、プラスチック梱包資材の削減や海洋マイクロプラスチックの回収などの活動を続けています。

またヤマハ発動機は独自のマングローブ植林手法を展開するワイエルフォレスト株式会社と協力し、マングローブ林の周りでエビや魚の養殖を行う森林経営・水産業支援プロジェクトを実施しています。

参考:
SUZUKIマリン「スズキクリーンオーシャンプロジェクト」
YAMAHA「インドネシアのマングローブ植林プロジェクトで植林式を実施」

インドネシア経済の魅力について

漁業で働くインドネシア人

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インドネシアの漁業事業者の種類

インドネシアにおける農林水産業の事業者は、主に以下の4つに分類されます。漁業(養殖業を含む)においては家庭経営または個人経営の事業者が大部分を占めます。また前述のとおり、小規模または伝統的な漁を行う零細漁業事業者は、全体の96%に上ります。

家庭事業者(RTUP)

家庭事業者は家族単位で漁業活動を行う事業体で、生産物の全部または一部を販売・交換することを目的としています。2023年の中央統計庁(BPS)の調査によると、漁業の家庭事業者の数は185万2,832件です。

法人事業者(UPB)

継続的に事業を運営し、利益を追求する法人事業者は、法令に基づき設立され、所轄官庁からの許可を取得しています。生産から販売まで、漁業活動の各段階を組織的に実施します。このカテゴリーの漁業事業者は、893件です。

その他の事業者(UTL)

その他の事業者(UTL)とは主に、地域住民が共同で漁業に取り組む事業者です。地域内の漁業生産性とメンバーの福祉の向上を目的としています。このカテゴリーの漁業事業者は、2,553件です。

個人事業者(UTP)

個人事業者(UTP)は、個人が技術的、法的、経済的な責任を負って事業を管理するものです。この個人は、すべての業務を自らが行うこともできますが、他者(個人であり法人ではない)に委任することもできます。このカテゴリーの事業者は、189万3,581件です。

参考:BPS「Hasil Pencacahan Lengkap Sensus Pertanian 2023 – Tahap II: Usaha Pertanian Perorangan (UTP) Tanaman Perkebunan|P.28」

漁業で働く人の数

インドネシア海洋水産省のデータによると、インドネシアの漁師(捕獲漁業の漁師)は2010年から2022年までの12年間で40万人増え、303万人に達しました。海洋漁業の漁師が79%を占め、残りは川や湖を漁場としています。

一方、人口増加により水産物への需要は伸びており、漁師の数は十分とはいえません。すでに触れたとおり、漁師の収入向上を目指すためにも、国内の需要を充足させるためにも、生産性の向上が望まれます。

参考:CNBC Indonesia「Miris! Nelayan di RI Ternyata Makin Miskin」

漁業における給与水準

男女別・居住地別

BPSによると、農林水産業従事者の平均月給は、以下の通りです。全体的に全産業平均額を大きく下回り、産業分野別では「その他サービス業」を除き最も低くなっています。

全産業平均と比較すると、都市部と農村部で差が小さいことも特徴です。インドネシアでは全国的に漁業が行われていますが、特にスラウェシ島、モルッカ諸島、小スンダ列島など東部の島々で盛んです。

なお、2024年の州別最低賃金の平均は311万ルピア(2万9,230円)です。

男性平均の給与:255万ルピア(2万3,970円)
※全産業男性平均:354万ルピア(3万3,170円)

女性平均の給与:173万ルピア (1万6,260円)
※全産業女性平均:277万ルピア(2万5,950円)

都市部平均の給与:252万ルピア(2万3,690円)
※全産業都市部平均:359万ルピア(3万3,635円)

農村部平均の給与:235万ルピア(2万2,090円)
※全産業農村部平均:245万ルピア(2万2,954円)

全体平均の給与:241万ルピア(2万2,650円)
※全産業平均:327万ルピア(3万637円)

非正規労働者平均の給与:148万ルピア(1万3,910円)
※全産業非正規労働者平均:191万ルピア(1万7,950円)

【補足】
非正規労働者のデータは2023年、それ以外は2024年のものです。

参考:
BPS「Indikator Pasar Tenaga Kerja Indonesia Agustus 2024|P.120-121」/「Rata-rata Pendapatan Bersih Sebulan Pekerja Informal1 Menurut Provinsi dan Lapangan Pekerjaan Utama2 (rupiah), 2023」

職種別

月収2万円台というのは、インドネシアの漁業従事者のほとんどを占める零細漁業事業者の漁師の収入というイメージです。地域差はあるものの、職種別では、捕獲漁業・養殖業従事者で月収200~500万ルピア(1万8,800円~4万7,000円)、遠洋漁業などの船員で550~600万ルピア(5万1,700円~5万6,400円)、加工技術者で500~1000万ルピア(4万7,000円~9万4,000円)程度が期待できます。

インドネシア伝統漁師協会のデータによると、国全体の貧困層の25%が捕獲漁師です。漁師の多くが貧困ライン以下の生活を送っています。

また資金難のために銀行からの融資に頼り、不良債権を抱える漁師も少なくありません。2024年5月時点で漁業セクターの不良債権比率は6%で、金融監督当局が理想的とする5%未満を超えています。

参考:CNBC Indonesia「Miris! Nelayan di RI Ternyata Makin Miskin」

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漁業で働く人の社会的なイメージ

統計が示す通り、漁業従事者の多くは経済的に厳しく、貧困層に含まれます。インドネシア人の多くがこのイメージを共有しており、特に「漁師」というと「地方の漁村の貧しい人」を想起する人が多いでしょう。また、捕獲漁業の漁師といえば男性であり、妻や娘の役割は限定的です。

一方、養殖業に関しては、性別、学歴、年齢を問わず、より広い層が従事しやすいと考えられています。インドネシアでは淡水魚の需要も高いため、内陸部であっても事業が可能です。家の庭や所有する土地を使って、小規模な養殖業を行う家庭もあります。

またインドネシアの漁業分野では、漁業従事者と消費者をつなぐオンラインプラットフォームを提供する企業や、養殖業者に新しい設備や技術を提供する企業など、複数のスタートアップが活躍し、注目されています。

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漁業の現場で働く人たちの日常風景

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小さなカツオ漁船

インドネシアのカツオ漁

こちらの動画は、網を使った、伝統的なカツオ漁の様子です。小さなボートに10人以上の男性が乗り、そのうち数人が網を引き寄せてカツオをボートに乗せています。板張りになっている床には隙間が空いていて、そこからカツオを船底に落とす仕組みのようです。

ナマズの養殖場

インドネシアのナマズの養殖場

ナマズは比較的安価で多くの人に親しまれている魚の一つです。衣をつけて揚げたり、カレー煮込みにしたりします。

この養殖場は化学薬品に頼らず、池の中にバイオフロックと呼ばれる微生物の集合体を浮遊させることで水質を保つ技術を採用しています。直径4mの池で6,000匹を養殖できるということです。

海水魚の養殖場

バリ島の海水魚の養殖場

こちらはバリ島にある海水魚の養殖場です。民家のような建物ですが、屋内外に多くの池や桶を並べ、3種類ほどの海水魚の養殖を行っています。

この業者は国内外に向けて稚魚を出荷しています。動画はベトナムへの出荷準備をしているところということです。

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日本の漁業現場で働くインドネシア人

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技能実習「漁業関係」

2023年度の技能実習計画認定件数をみると、インドネシア人技能実習生7万4,879人のうち漁業関係は1,510人で、建設関係、機械・金属関係、食品製造関係に次いで4番目に多くなっています。2022年度と比較すると1,211人から約1.2倍になりました。

技能実習生全体ではベトナム人が46.3%を占めますが、漁業関係においては63%がインドネシア人です。

参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」

特定技能「漁業分野」

2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人です。そのうち漁業分野は2,452人で、2022年6月末と比較すると、人数は797人から3.1倍になりました。

特定技能1号「漁業分野」の外国人の80.8%がインドネシア人で、そのうち84.4%が元技能実習生です。なお、技能実習制度でも特定技能制度でも、捕獲(漁船)漁業と養殖業の両方で、外国人の受け入れが行われています。

参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表/第7表」
「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」

日本の漁業現場で働いたインドネシア人の帰国後

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日本での経験とは無関係に起業する人が多い

技能実習制度や特定技能制度を利用して日本で働き、インドネシアに帰国した人の進路はさまざまです。多くの人が日本での就労を出稼ぎと割り切っているため、必ずしも帰国後に日本で経験したものと同じ仕事をしたいと考える人ばかりではありません。

産業分野別の細かいデータはありませんが、まず、技能実習生の帰国後の進路についての調査を紹介します。

技能実習生の帰国後の就職状況

上掲の表は、法務省が2022年9月~12月に帰国した技能実習生の進路を、2023年2月までに調査したものです。これを見ると、インドネシアの元技能実習生について、以下のような特徴がわかります。

  • 雇用されて働いている、またはその予定がある人の割合が他国に比べて低い(10.9%)
  • 起業している人の割合が他国に比べて高い(21.9%)
  • 何もしていない人の割合が他国に比べて低い(2.5%)
  • 実習と異なる仕事をしている人の割合が他国に比べて高い(48.6%)

全体的に、「実習の内容とは関係なく」「起業している」という人が比較的多いことがわかります。多くの人が起業(自営)を志す背景には、失業率が高く、ツテやコネがないと企業への就職が難しいという事情があります。

なお、元実習生が、実習の内容と関係なく就く仕事の1つが、日本語教育分野です。日本で従事した職業ではなくても、日本で身に付けた日本語力を活かし、日本語学校や職業訓練機関(LPK)などの日本語教師になったり、日本語塾を立ち上げたりする人もいます。自らLPKを立ち上げる人もいます。

参考:法務省「令和4年度「帰国後技能実習生フォローアップ調査」」

日本での就労経験を活かせる仕事

日本企業への就職

日本で働いた経験を活かすため、日本企業での就職を目指す人もいます。漁業に限りませんが、日本で就労した経験から、また日本企業で働きたいと考える人は多く、帰国者の主な就職先の選択肢となっています。日本企業なら、たとえ分野が違っても日本語力を活かせるという魅力があります。

漁業分野での就職

日本への出稼ぎを経験した人にとって、国内でも最も収入が低い職業の一つである漁師になることは、進路の選択肢に入らないでしょう。Uターン希望者は、地元からできるだけ近い場所で、業界を問わず職を探します。

一方で、日本で漁業に従事した経験を積極的に活かそうと、身近な漁業事業者や水産加工業者など、漁業に関わる仕事を探す人もいます。また、自ら養殖業などのビジネスを始める人もいます。

就職サポートが課題

日本で働き帰国した人の就職サポートについては、課題が残っています。

訪日前に通ったLPKなどが提供する就職サポートを受けられる人もいますが、ほんの一部です。LPKが就職サポートを提供していなかったり、Uターンを希望する元生徒の出身地から遠かったりして、LPKのサポート範囲から漏れてしまう人も大勢います。

強まる両国の漁業の繋がり

紹介したとおり、インドネシアの漁業はまだ発展途上であり、多くの人が「低収入の厳しい仕事」「漁師は田舎の低学歴者」といったイメージを持っています。そのため、縁があって日本の漁業で働くことなったインドネシア人からは、「近代的な設備やシステムに驚いた」「漁業のイメージが変わった」などという声が聞かれます。

技能実習や特定技能の制度を利用するインドネシア人のなかには、日本での就職を目指すにあたり、たまたま漁業を選んだ人も多いでしょう。それでも、日本の漁業に刺激を受け、経験したことを帰国してから何らかの形で活かそうと考える人は大勢います。今後、日本の漁業で働くインドネシア人がますます増えていくと、両国の同分野の繋がりも、より強くなっていくかもしれません。

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