インドネシアにおける焼き鳥ビジネスの現実と日系企業の戦略

公開
2026/03/21
更新
2026/06/20
この記事は約6分12秒で読めます。

日本の飲食業がアジアへの進出を検討する際、インドネシアは人口2億7,000万人超を擁する巨大市場として候補に挙がることが多くなっています。なかでも「焼き鳥」は、シンプルな調理設備で展開でき、日本食の象徴的なメニューとしても認知されていることから、インドネシア進出の「武器」として注目する飲食店オーナーも少なくありません。

しかし、インドネシアには「サテ(Sate)」という強力な競合が存在します。また、宗教・文化・所得層の多様性が、ターゲット設定や業態設計に複雑な影響を与えます。

本記事では、インドネシアの焼き鳥市場の現状を整理しながら、日系飲食店がどのような戦略でこの市場に向き合うべきかを考えます。

本記事内のルピア(IDR)の日本円換算は、1IDR=約0.0094円(2026年3月16日時点)を使用しています。為替レートは変動するため、あくまで目安としてご参照ください。

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インドネシアの「焼き鳥」——サテ・アヤムとその文化

インドネシアにも、日本の焼き鳥に相当するグリル料理があります。「サテ(Sate)」です。串に刺した肉を炭火で焼くスタイルは日本の焼き鳥と共通していますが、味付けや食べ方は大きく異なります。

鶏肉を使ったサテ・アヤム(Sate Ayam)が最もポピュラーで、代表的なスタイルが「サテ・マドゥラ(Sate Madura)」です。甘みのあるピーナツソースやケチャップ・マニス(甘口醤油)をかけて食べるのが一般的で、もち米を固めたロントン(Lontong)と一緒に提供されるのが定番スタイルです。

近年注目を集めているのが「サテ・たいちゃん(Sate Taichan)」です。南ジャカルタ・スナヤン地区の屋台が発祥とされており、ピーナツソースを使わず、塩・ライム・サンバルだけでシンプルに食べるスタイルが特徴です。

その名前の由来については諸説ありますが、ピーナツソースが苦手な日本人客が塩で食べるようリクエストし、店主がその客の名前「たいちゃん」をそのまま料理名にしたという説が広く知られています。

2016年頃からジャカルタの屋台で流行が始まり、現在はインドネシア全国に広まっています。日本人的な感覚でいえば「塩焼き鳥」に近いこのスタイルは、日本式焼き鳥との親和性を考えるうえでも興味深い存在です。

飲食業は、景気動向や人々の経済力・消費マインドが影響しやすい分野の一つです。弊社では、インドネシア市場の全体像や進出ステップを整理した資料を無料公開しています。こちらからダウンロードして、ぜひご覧ください。

インドネシアに焼き鳥はありますか?

日本の焼き鳥に近い料理として「サテ(Sate)」が広く食べられていますが、味付けや食文化は大きく異なります。ピーナツソースや甘口醤油で食べる「サテ・アヤㇺ」が一般的で、日本の塩焼き鳥とは別物と考える必要があります。

インドネシア経済の魅力について

インドネシアの焼き鳥(サテ)店の特徴と価格帯

サテはインドネシアを代表する国民食のひとつであり、その販売形態は屋台から高級レストランまで非常に多様です。

路上の屋台では、10本あたりRp15,000〜20,000(約141〜188円)前後が相場で、庶民が日常的に食べるファストフードに近い存在です。

一方、ショッピングモールや高級レストランに目を向けると、価格帯は大きく変わります。インドネシアの高級サテの代表格として知られるのが「Sate Khas Senayan(サテ・カス・スナヤン)」です。

ジャカルタを中心に複数店舗を展開しており、サテ・アヤム10本はRp63,000から(約592円〜、2026年3月時点、税・サービス料別)となっています。インドネシア人の間でも「少し特別な日に食べるサテ」として認知されており、高級サテの価格ラインを把握するうえでの参考になります。

必要な情報が見つからない方は、下記のサイト内検索を活用してください。

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インドネシアに進出している日系焼き鳥店の現状

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とりどーる(トリドールグループ)

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスは、2015年5月にジャカルタ市内のショッピングセンターで焼き鳥業態「とりどーる」の海外初出店を果たしました。

その後、Kota Kasablanka・Gandaria City・Kelapa Gadingなどジャカルタ市内に複数店舗を展開しましたが、現在は複数店舗の閉店が確認されており、営業中の店舗は確認できない状態です。公式な撤退発表は現時点では確認されていません。

なお、同グループの丸亀製麺はインドネシアで全く異なる軌跡を描いています。

2013年の1号店出店から約12年でインドネシア全国127店舗を展開しており(2025年4月、トリドール公式発表)、同じグループ内でも「焼き鳥」と「うどん」という業態の違いが、現地市場での結果に大きな差をもたらした好対照な事例といえます。

鳥清(TORISEI)

ジャカルタのブロックM(MRTブロックM駅から徒歩約5分)とチカランに店舗を構える鳥清(TORISEI)は、焼き鳥を主軸にした居酒屋としてローカルにも人気を集めている店舗です。

現地で日本人が経営しており、焼き鳥をメインに据えながら日本から輸入した刺身など幅広いメニューを揃えています。日本人マネージャーが常駐しており、サービス品質の高さも強みとして知られています。

ブロックMエリアはかつて在住日本人・日本人駐在員が多く集まる飲食激戦区として知られていましたが、近年はインドネシア人の若者が集まるエリアとしても注目を集めています。そうした変化の中でも、一部の日本食レストランは引き続き営業を続けており、日本人とインドネシア人の双方の客を集める存在となっています。

インドネシアで焼き鳥にハラール対応は必要ですか?

ターゲットによりますが、多くのムスリム顧客を取り込む場合、ハラール対応は実質的に必須です。豚肉の不使用に加え、みりん・料理酒などアルコールを含む調味料も制限対象となるため、日本式のレシピをそのまま持ち込むことは難しいケースが一般的です。

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進出前に必ず向き合うべきハラールの課題

インドネシアは世界最大のムスリム人口を抱える国であり、飲食ビジネスにおいてハラール対応は避けて通れない論点です。日本式焼き鳥においては、主に以下の点が課題となります。

豚串(バラ・かしら・てっぽうなど)の扱い

イスラム法において豚肉は禁忌(ハラーム)であり、提供するか否かの判断が必要になります。

タレ・調味料に含まれるアルコール

焼き鳥のタレに欠かせないみりんや料理酒にはアルコールが含まれます。

ハラール認証を取得するためには、アルコールを含まない代替調味料の使用が求められます。丸亀製麺はインドネシア進出の際、一般的な醤油は製造過程でアルコールが発生するため使用できず、アルコールが発生しない製法の醤油を採用するという対応を取っています。焼き鳥においても同様の工夫が必要です。

アルコール(お酒)の提供

ハラール認証取得を目指す場合、原則としてアルコールの提供は認められません。ただし後述するように、アルコールを提供する業態での進出という選択肢もあります。どちらを選ぶかは、ターゲット顧客層と収益モデルの設計に直結する重要な経営判断となります。

ハラール許認可の進め方について、不安や疑問がある方は、こちらからお気軽にお問い合わせください。

インドネシアで焼き鳥ビジネスは儲かりますか?

一般大衆向けに焼き鳥単体で勝負するのは難しく、成功している事例を見ると、日本人駐在員や富裕層など特定ターゲットに絞った業態設計を行っています。サテとの価格競争を避ける戦略が重要です。

インドネシアで挑戦する人々
― ビジネス最前線の声
月間約400万人のインドネシア人女性が訪れるライフスタイルメディア「Beautynesia(ビューティーネシア)」のマーケティング戦略や組織運営について。
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インドネシアでの焼き鳥ビジネスのターゲット

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「日本式」がそのまま価値になるとは限らない

インドネシアに進出する飲食店オーナーが見落としがちな点として、日本式焼き鳥へのこだわりが現地で必ずしもそのまま価値に変わるわけではない、という現実があります。

日本人が好む焼き鳥は、ふっくらとしてジューシーな食感が魅力です。一方、インドネシア人の多くはオリジナルのサテのように、小ぶりな肉をしっかりと、表面が少しカリッとするくらいまで焼いたスタイルを好む傾向があります。

調理スタイルの違いは、そのまま「好みの違い」につながります。日本式の品質へのこだわりを武器にするのであれば、その価値を理解してくれる顧客層を明確に狙う必要があります。

また、「サテ」という強力な競合が存在する点も忘れてはなりません。

屋台で10本Rp15,000〜20,000未満(約141〜188円未満)で食べられるサテに対して、日本式焼き鳥が価格競争を挑むのは現実的ではなく、広くインドネシア人一般を対象に焼き鳥単体で市場を取りにいくビジネスモデルは相当な困難を伴います。

現実的なターゲット層

現在インドネシアで展開されている日系焼き鳥・居酒屋業態のメインターゲットは、おおむね以下の層です。

  • 在住・訪問日本人・日本人駐在員
  • 中華系インドネシア人(飲酒文化があり、日本食への親和性も高い)
  • 裕福なリベラル層のムスリム(アルコールは飲まないが日本食への関心は高い)
  • インバウンド観光客(特にアジア圏からの旅行者)

ジャカルタではアルコールを提供する居酒屋に、お酒ではなく食事を楽しみにヒジャブを着用したムスリム女性が訪れる光景は決して珍しくありません。信仰に対してリベラルな姿勢を持つ裕福なムスリム層も、実質的なターゲットとして視野に入ります。

業態の選択——「IZAKAYA」か「焼き鳥居酒屋」か

焼き鳥を前面に打ち出しながら現実的な収益を確保するためには、大きく2つの方向性が考えられます。

① 焼き鳥を「看板」に据えた居酒屋(IZAKAYA)スタイル

焼き鳥を武器にしながら幅広いメニューを揃えた居酒屋として展開するモデルです。

インドネシアでは近年、アルコールを提供しない「ノンアルコール居酒屋」も増えており、ムスリム層を含む幅広い客層を取り込もうとする動きが見られます。YAKITORIを看板に据えたIZAKAYAとして展開することで、単品勝負の制約を超えた収益モデルを構築できます。

② アルコールを提供する焼き鳥居酒屋で単店収益を最大化

日本人・中華系インドネシア人・観光客といった飲酒層に絞り込み、単価を高めて1店舗あたりの収益性を追求するモデルです。

ブロックMの鳥清はこの方向性に近く、出店エリアとしてはブロックM・スディルマン・クニンガンといったジャカルタ中心部の日本人集積エリアのほか、日系製造業が集積するチカランやカラワンも有力な候補となります。

現地店舗の実態把握や出店候補エリアの調査は、事前の視察が重要です。インドネシア現地視察支援の詳細はこちらをご覧ください。

フードデリバリーという選択肢

インドネシアではGojek(GoFood)・GrabFoodなどのフードデリバリープラットフォームが日常的なインフラとして定着しており、飲食店の収益チャネルとして欠かせない存在です。日本式焼き鳥においても、低単価の焼き鳥を屋台形式で提供しながらフードデリバリーを併用する展開は、可能性としてゼロではありません。

ただし、この場合に最大の競合となるのはサテです。価格競争力をどこまで確保できるかが成否を分けるポイントになります。

また、インドネシアでの飲食展開において一般的に見られる傾向として、フードデリバリーを活用して中価格帯の日本食店が店舗数・エリアを拡大する一方で、配達に適した低単価メニューへの依存度が高まり、ブランドの価格ポジションが徐々に下がっていくケースが散見されます。

焼き鳥業態においても、デリバリー展開を進める際にはこの点を意識した価格・メニュー設計が求められます。

焼き鳥を「武器」に、インドネシア市場をどう攻めるか

インドネシアで焼き鳥ビジネスを展開するうえで重要なのは、「焼き鳥」そのものへのこだわりよりも、誰に・どんな体験を・どんな業態で提供するかという設計です。

広くインドネシア人一般を相手に焼き鳥単体で勝負することは、サテという強力な競合の存在を考えれば現実的ではありません。一方で、日本人駐在員・中華系インドネシア人・日本食に関心の高い富裕層をターゲットに、YAKITORIを看板に据えたIZAKAYAとして展開するモデルには、一定の需要と実績があります。

ハラール対応・アルコール提供の可否・出店エリアの選定は、それぞれが独立した経営判断ではなく、ターゲット設定と連動して決まるものです。

まずターゲットを明確にし、そこから業態・メニュー・立地を逆算していくアプローチが、インドネシアでの焼き鳥ビジネスを成功に近づける第一歩となるでしょう。

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