インドネシアの株式会社「PT」とは?仕組みと設立の基本を解説

公開
2025/10/19
更新
2025/10/20
この記事は約9分24秒で読めます。

インドネシアで事業を展開する際に必ず耳にするのが、「PT」という言葉です。日本語では株式会社に相当し、法人格を持つ企業形態の中でも最も一般的な形です。

外資企業がインドネシアに進出する際はPTを設立することになるため、その仕組みを理解することは、安定した事業運営の第一歩となります。

本記事では、インドネシアのPTについて、定義、要件、種類など、概要を把握するために必要な情報をまとめて紹介します。

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  • インドネシアのGDP成長率
  • インドネシアの人口とその特徴
  • インドネシアのEC市場規模
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インドネシアの「PT」とは何か

株式会社(PT)の定義

インドネシアで株式会社を意味する「PT:Perseroan Terbatas」とは、法人格を有する企業形態の一つで、会社の資本金が株式に分割されている事業体を指します。その主な目的は、利益の創出と事業の発展です。

「Terbatas」は「限定された」という意味で、株主の責任が、保有する株式の額に限定されることを意味します。PTは、その所有者(株主)とは独立した存在として扱われ、株主は取締役に任命されない限り、経営には関与しません。

PTは取締役会(Direksi)によって運営され、監査役会(Dewan Komisaris)によって監督されます。監査役会は取締役会の下に設けられるのではなく、2つの機関が並立するという特徴があります。

株式会社(PT)の法的根拠

インドネシアで株式会社(PT)を規定する主な法律は、2007年会社法(2020年の雇用創出法などで一部改正)です。現在、株式会社の設立およびその他の法的手続きは、オンラインシステムで可能になっています。

株式会社(PT)設立の要件

  • 設立者:通常は2名以上(個人株式会社の場合は1名でも可)
  • 会社名:オンライン法務行政システム(AHU Online)に未登録であること
  • 設立証書:公証人によって作成され、会社の基本構造が明記されていること
  • 払込資本:会社口座に入金済みであること
  • 事業所在地:適法かつゾーニング規制に合致する住所を有すること

PTと日本の株式会社との類似点・相違点

インドネシアのPTは日本の株式会社に似た仕組みを持っていますが、相違点もあります。

主な類似点

1. 有限責任の原則

インドネシアのPTも日本の株式会社も、株主は出資額(保有株式の価額)を限度としてのみ責任を負います。会社の債務や損失について、株主の個人財産は原則として責任を負いません。

2. 法人格を持つ独立した存在

会社は「株主とは独立した法的主体(法人)」です。訴訟、契約、資産の保有などを、会社自身の名義で行うことができます。

3. 所有と経営の分離

株主(所有者)と取締役(経営者)の役割が明確に分かれています。

4. 利益追求を目的とする営利法人

主たる目的は利益の創出であり、株主への配当を通じてその成果を還元します。

5. 株式による資本構成

資本金は株式に分割され、譲渡や売買を通じて所有関係を変動させることが可能です。また、上場企業の場合、証券取引所を通じて株式を一般に公開できます。

主な相違点

1. 設立要件

日本の株式会社は、原則として1名の株主と1名の取締役で設立可能です。株主と取締役が同一人物でも問題ありません。一方、インドネシアのPTを設立するには、通常2名以上の株主と1名以上の取締役、および1名以上の監査役が必要です。

2. 最低資本金

日本の株式会社の法定最低資本金の制度は廃止されており、1円からでも設立可能です。

一方、インドネシアのPTの設立には、最低資本金の規定があります。業種により異なりますが、内資法人の最低払込資本は1,250万ルピア(約11万4,000円)で、最低投資金額は5,000万ルピア(約45万5,000円)です。

外資法人については、2025年10月に最低払込資本金の要件が改正され、払込資本金が最低100億ルピア(約9,100万円)から25億ルピア(約2,280万円)に変更となりました。

【補足】
円表記は、2025年10月16日のレート(1ルピア=0.0091円)で換算したものです。

3. コーポレートガバナンス

日本の株式会社は、監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社など複数の機関設計が選択できます。一方、インドネシアのPTは、株主総会、取締役会、監査役(会)という構成です。

4. 外資規制

日本の株式会社には、安全保障や公共サービスに関係する一部の業種を除き、原則として外資規制はありません。一方、インドネシアのPTには、「優先投資リスト(旧ネガティブ投資リスト)」に基づき、外資出資比率が制限される業種があります。

インドネシアの外資規制とネガティブリスト/プライオリティリスト

インドネシアの外資規制やネガティブリストについて理解することは、日本企業が外資企業としてインドネシアに参入する上で欠かせません。

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5. 株式の譲渡制限

日本の株式会社では、非公開会社では譲渡制限がありますが、上場会社では自由に譲渡可能です。一方、インドネシアのPTの場合、定款で株式譲渡制限を設けることが一般的です。

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PTの種類

インドネシアの株式会社(PT)は一般的に、公開・非公開、内資・外資の区別によって、以下の6種類に分類されます。

公開・非公開

1. 公開株式会社(PT Terbuka)

公開株式会社は、一定の条件を満たし、一般投資家が株式を保有できる株式会社を指します。このうち、実際にインドネシア証券取引所(IDX)に株式を上場し、市場で取引されている会社を、上場会社(Perusahaan Tercatat)と呼びます。上場している公開会社は、社名の後ろに「Tbk.」(Terbukaの略)を付けて表記します。

2. 非公開株式会社(PT Tertutup)

非公開株式会社は、資本を親族・友人など限られた範囲から集める株式会社で、証券取引所を通じて一般の人々に株式を売買することはありません。ただし、株主総会の承認を得て、特定の個人や関係者に株式を譲渡することは可能です。

3. 休眠会社(PT Kosong)

休眠株式会社は、特定の商標やブランド名の保護、または将来の事業再開を見据えた維持管理を目的に存在する株式会社で、実際の事業活動や資産を一切持ちません。運営コストや行政費用を最小限に抑えるために設立されることもあります。「Kosong」は「空(から)」という意味で、ペーパーカンパニーのイメージです。

4. 個人株式会社(PT Perseorangan)

個人株式会社の最大の特徴は、株主が1人のみであることです。設立者本人が株主であり、同時に会社の代表取締役を務めます。中小規模の事業者や個人事業主が法人化する際に選ばれることが多いタイプです。

内資・外資

5. 内資系株式会社/国資企業(PT Penanaman Modal Dalam Negeri)

内資系株式会社は、PT PMDNと呼ばれる、インドネシア国内で設立・運営される会社です。すべての資本がインドネシア国民によって所有され、法令に従う限り、事業分野や運営拠点を自由に決定することができます。

6. 外資系株式会社/外資企業(PT Penanaman Modal Asing)

外資系株式会社は、PT PMAと呼ばれます。海外からの資本によって設立された会社で、その株式の一部または全部が外国人投資家によって所有されている企業を指します。外国資本比率の上限や事業分野の制限など、特定の規定が適用されます。

インドネシアの企業名に付いている「PT」「Tbk」はそれぞれどのような意味ですか。

インドネシアの企業名の先頭に付く「PT」は、「Perseroan Terbatas」の略で、株式会社という意味です。企業名の後ろに付く「Tbk」は「Terbuka」の略で「公開」を意味し、PT~Tbkという企業名は上場企業であることを意味します。

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インドネシアの外資規制

外資規制の概要

インドネシアの外資規制は以前、ネガティブ投資リストによって多くの事業分野が「条件付き分野」や「投資禁止(閉鎖)分野」として指定されていました。

このリストが大統領令第10号(2021年)および改正令第49号(2021年)に基づき再編され、現在は「投資優先リスト(Daftar Prioritas Investasi)」となっています。投資優先リストは、「ネガティブリスト」に対して「ポジティブリスト」とも呼ばれます。

新しいリストは、「優先事業分野」、「協働分野(パートナーシップが必要な事業分野)」、「特定要件付き事業分野」の3つに分かれています。ネガティブ投資リストと比べると、特定要件付き事業分野が約350から46に、投資禁止(閉鎖)分野が20から6に大幅削減されるなど、規制緩和が進んでいるのが特徴です。

100%外資のPT設立が認められない分野

投資優先リストには、外資企業の進出にあたり、現地企業などとの協業が必要な分野、外資比率の上限が定められている分野、100%国内資本限定の分野が掲載されています。以下に、主な例を挙げます。

現地企業などとの協業が必要な分野の例

農林水産業や製造業を中心に、現地の中小企業や協同組合とのパートナーシップが必要な分野が規定されています。

  • 肉用鶏の養鶏
  • 海水魚・汽水魚・淡水魚の育種、肥育業
  • 特定の水産物加工業
  • 果物と野菜の塩漬加工業
  • 粉ミルクとコンデンスミルク加工業
  • 精製糖産業
  • 醤油産業
  • 醤油・テンペ・豆腐以外の大豆及び豆類を使った食品産業
  • 粘土/セラミック製の煉瓦・その他の物品産業
  • セメント製品産業、石灰製品産業
  • 釘・ボルト・ナット産業
  • エンジン・タービンのコンポーネント・部品産業
  • その他のポンプ・コンプレッサー・栓及びバルブ産業
  • 貴金属製の宝飾品産業
  • 宝石産業
  • 非金属品製品リサイクル産業
  • ビル建設
  • クーリエ代理店活動
  • 電力設備分野のコンサルティング
  • クリニック・臨床検査ラボ
  • 特定の機械修繕

外資比率の上限が定められている分野の例

以下の産業分野は、外資比率の上限が49%となっています。

  • 特定の海上輸送、河川及び湖輸送、航空輸送、連絡輸送
  • クーリエ活動

100%国内資本限定の分野の例

以下の分野の企業は、100%国内資本であることが求められます。

  • バティック産業(スタンプバティック)
  • 木製構造物品産業
  • 伝統化粧品産業、伝統薬品産業

なお、新聞、雑誌、民間放送機関などについては、設立時は内資100%、その後の事業追加で外資参入可能(上限規定あり)となっています。

合弁事業の設立

外資100%の会社設立が認められない分野でインドネシア進出を目指す外国企業は、現地の企業や個人と共同出資で合弁会社(JV:Joint Venture)を設立するのが一般的です。法人形態は外資系株式会社で、外資比率は投資優先リストなどで指定された上限に従います。

合弁会社の設立は、参入条件をクリアするという目的達成に加え、現地ネットワークの活用という点でも大きなメリットがあります。

合弁会社を設立するうえで最も重要なのは、信頼できるパートナーを選ぶことです。パートナーの信用・実績の調査は必須で、株主間協定で重要事項の決裁ルール・経営権の担保・再投資方針を明確化することや、各種ライセンス、秘密保持などについて契約に明記することも欠かせません。

弁護士など法律の専門家に支援を依頼しつつ、現地の行政手続や商慣行に合わせて、慎重な準備が求められます。

PT設立のメリットとデメリット

PT以外の選択肢

内資の事業体であれば、PT以外にも、合名会社、個人会社、協同組合など、いろいろな選択肢があります。しかし外国企業がインドネシアで事業を行う場合は、ほぼPT一択になっています。駐在員事務所の設立も選択肢の一つになりますが、収益事業を行えないのがデメリットです。

メリット・デメリット

PT設立のメリットとしては、株主に対する法的保護があること、大規模な資金調達が可能であること、事業活動の自由度の高さ、長期的な事業展開の容易さ、信用力などが挙げられます。

デメリットとしては、手続きに手間と時間がかかること、資本金など初期費用や撤退コストの大きさなどが考えられます。

インドネシアで外資系株式会社を設立する際は、これらのデメリットがあることを念頭に、現地の専門家やパートナー企業などと上手に連携していくことが欠かせません。

参入ハードルが高いインドネシアで、他社はどのように進出しているのか?

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業種ごとのインドネシアでのビジネスの始め方
「インドネシアで送り出しビジネスを始めたい」「インドネシアでネット広告代理店を始めたい」といった業種ごとのビジネスの始め方については下記をご参照ください。

対象企業 インドネシア進出の目的 参考ページ
人材紹介会社 インドネシアから技能実習や特定技能の人材を送り出したい 進出方法はこちら
広告代理店 在インドネシアの日系企業の広告運用案件を獲得したい 進出方法はこちら
Web制作会社 インドネシアでサイト制作やオフショア開発を行いたい 進出方法はこちら

インドネシアの代表的な日系PT

インドネシアの代表的な日系PTを、分野別に紹介します。

自動車・製造業

  • PT Toyota Motor Manufacturing Indonesia:トヨタ自動車
  • PT Mitsubishi Motors Krama Yudha Indonesia:三菱自動車工業
  • PT Astra Daihatsu Motor:ダイハツ工業/トヨタグループ
  • PT Honda Prospect Motor:本田技研工業(四輪車の製造・販売)
  • PT Astra Honda Motor:本田技研工業(二輪車の製造・販売)
  • PT Suzuki Indomobil Motor:スズキ
  • PT Yamaha Indonesia Motor Manufacturing:ヤマハ発動機
  • PT Komatsu Indonesia:コマツ製作所

商社・流通

  • PT Mitsui Indonesia:三井物産
  • PT Mitsubishi Corporation Indonesia:三菱商事
  • PT Itochu Indonesia:伊藤忠商事
  • PT Marubeni Indonesia:丸紅
  • PT Sumitomo Indonesia:住友商事

不動産・商業施設開発

  • PT Tokyu Land Indonesia:東急不動産
  • PT Aeon Mall Indonesia:イオンモール

電機・電子

  • PT Panasonic Gobel Indonesia:パナソニック
  • PT Sharp Electronics Indonesia:シャープ

食品・小売

  • PT Ajinomoto Indonesia:味の素
  • PT Yakult Indonesia Persada:ヤクルト
  • PT Nitori Retail Indonesia:ニトリ
  • PT Aeon Indonesia:イオン
  • PT Fajar Mitra Indah:ファミリーマート
  • PT Lancar Wiguna Sejahtera:ローソン

化学・素材・工業材料

  • PT Nippon Shokubai Indonesia:日本触媒
  • PT DJK Indonesia:大一実業

医薬品・ヘルスケア

  • PT Astellas Pharma Indonesia:アステラス製薬
  • PT Otsuka Indonesia:大塚製薬
  • PT Takeda Indonesia:武田薬品工業

日用品・消費財・化粧品

  • PT Mandom Indonesia:マンダム
  • PT Kao Indonesia:花王
  • PT Uni-Charm Indonesia:ユニ・チャーム

日本企業とインドネシア企業の合弁会社の例を教えてください。

製造業や小売業の分野では、合弁会社が多くなっています。
例えば「PT Astra Daihatsu Motor」は、ダイハツ(トヨタグループ)とインドネシアの大手企業PT Astra International Tbkによる合弁会社で、国内最大級の小型車メーカーとして知られています。また、三菱自動車は、自動車の生産・組立を担当する「PT Mitsubishi Motors Krama Yudha Indonesia」と、販売・マーケティング・アフターサービスを担当する「PT Mitsubishi Motors Krama Yudha Sales Indonesia」を合弁会社として設立しています。二輪車を扱うホンダの「PT Astra Honda Motor」も合弁会社です。
小売業では、「PT Aeon Indonesia(イオン)」、「PT Fajar Mitra Indah(ファミリーマート)」、「PT Lancar Wiguna Sejahtera(ローソン)」などが合弁会社です。

法人設立の概要やステップをまとめた資料などはありますか?

通常はご契約後に詳細な資料を共有していますが、法人設立の概要やステップが分かる簡易版の資料で良ければ、こちらからご確認ください。

【映像でみる】インドネシアのPT

大塚製薬のインドネシアオフィス

大塚製薬のインドネシアオフィス

大塚製薬は医薬品製造・販売を行うPT Otsuka Indonesiaのほかに、ポカリスエットやSOYJOYなどを扱うPT Amerta Indah Otsukaを設立しています。後者は西ジャワ州と東ジャワ州に工場を構えています。

こちらの動画は、PT Amerta Indah Otsukaの西ジャワ州スカブミのオフィスの、ある日の様子です。午前の仕事を終えてお昼休憩を取ったこの女性は、午後に開催されたメイクアップクラスに参加しました。

なお、工場の方では団体の見学を受け付けており、現地職員が案内してくれます。

ニトリがインドネシア進出

ニトリがインドネシア進出

2024年7月、ニトリ(PT Nitori Retail Indonesia)がインドネシア第1号店をオープンさせました。場所は、ジャカルタの高級ショッピングモール「Central Park Mall」です。

この動画は、Central Park Mallでのオープニングセレモニーの様子です。ニトリやCentral Park Mallの関係者に加え、インドネシア貿易副大臣代理、駐インドネシア日本国大使、駐日インドネシア共和国大使などが出席しました。

2025年8月に5店舗目がオープンした際、ニトリホールディングスの執行役員・佐野正俊氏は記者会見で、「インドネシアでの展開はまずジャカルタに集中し、その後スラバヤ、メダン、マカッサル、バンドンなど他の主要都市へ広げていく」と述べたうえで、「今後10年間で、インドネシア国内に80店舗を出店することが目標」と語っています。

PTを正しく理解することがインドネシア進出の第一歩

インドネシアのPTは、日本の株式会社と多くの共通点を持ちながらも、外資規制や最低資本金、組織構造など独自の法制度に基づいて運営されています。特に外資が関与する場合は、投資優先リストや現地パートナーとの合弁条件を十分に確認することが不可欠です。

PTという形を正しく理解し、法的・実務的な準備を整えることで、インドネシア市場での長期的かつ安定した事業展開が可能になります。現地専門家との連携が、成功への重要な鍵となるでしょう。

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