インドネシアの看護教育の現状と課題(教育内容や評価制度)

公開
2025/02/11
更新
2026/01/01
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現在、EPA看護師候補者受け入れ制度などを通して、多くのインドネシア人看護師が日本で働いています。中には国家試験に合格し、日本で看護師の資格を取る人もいます。

日本はEPAによりインドネシアからの介護福祉士候補者の受け入れも行われていますが、インドネシアには介護士の資格がないため、介護福祉士候補として訪日する人たちもまた、看護師です。

では、インドネシアの看護師は、どのような教育を受けているのでしょうか。

本記事では、インドネシアの看護教育の種類や内容を、具体例を挙げながら説明します。また、インドネシアの看護学生が受験する試験や、同国の看護教育の課題も紹介します。

なお本記事における「看護学校」は、看護の専門大学や、看護学部・看護学科を持つ総合大学など、看護師の資格を取得できる高等教育機関を広く含みます。

インドネシアの看護教育の種類

看護教育の種類

インドネシアの高等教育は、2003年国民教育制度法第20号に基づき、以下の3つの種類に分類されています。看護分野もこれに当てはまります。

  • 職業教育:
    専門知識を身に付け実際に働くための、ディプロマ課程(D)などで実施される実践的な教育プログラム
  • 学術教育:
    特定の学問分野の習得を主な目的とする、学士課程(S1)および修士(S2)・博士課程(S3)の教育プログラム
  • 専門教育:
    学士課程修了後、特定の専門技能を必要とする職業に就くための高等教育プログラム

【補足】
※ディプロマ:一部の総合大学や専門大学、アカデミー、ポリテクニックなどが設置する、専門学校よりもレベルの高い職業教育課程。3年制がD3、4年制がD4と呼ばれる。

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看護教育の内容

インドネシアの看護学校の教育は、ディプロマではより実践的な内容が多く、学士課程ではより理論的・学術的な内容が多くなっています。ただ、看護師として習得すべき内容・項目については、日本の看護教育とさほど変わりません。

以下では例として、パジャジャラン大学(Universitas Padjadjaran /UNPAD)の看護学部における、4年間8学期の履修科目を紹介します(学部を問わない選択科目を除く)。

パジャジャラン大学はインドネシアの大学ランキングトップ10に入る難関大学であり、看護課程についても第三者機関から最高評価を受けています。

1学期

  • 看護哲学と理論
  • 人格形成
    ※人との交流に関連する技術や方法を学び、コミュニケーションスキルを向上させるための科目
  • 宗教
    ※宗教の概念やインドネシアにおける宗教生活に関する理解を深め、看護師として精神的ケアを提供する役割について学ぶ科目
  • 看護基礎 I
  • OKK(新入生指導プログラム)
  • インドネシア語
    ※看護学の中で正しいインドネシア語の使い方を学び、口頭および文章でのコミュニケーションスキルを向上させるための科目
  • 英語
    ※看護サービスや業務の場で活用できる英語を学ぶ科目で、TOEFL・IELTSのスコア向上にも対応
  • パンチャシラと市民教育
    ※パンチャシラ(建国五原則)と国家、国家イデオロギー、国民の生活や教育の関係などについて学ぶ科目。

1学期に開講される「インドネシア語」科目は、特に地方言語を第一言語とする学生が、看護の現場で問題なくインドネシア語を使えるようになるための科目です。宗教や建国五原則の授業が入るのも、インドネシアならではといえます。

2学期

  • 看護の基本概念
  • 看護におけるコミュニケーション
  • 看護基礎 II
  • 看護情報システム

3学期

  • 基本看護および患者安全
  • 健康教育とプロモーション
  • 地域看護の基本概念(心理社会的および文化的側面)

4学期

  • 医療外科看護
  • 小児看護
  • HIV/AIDS看護、緩和ケア、終末期看護

5学期

  • 高齢者看護
  • 精神健康看護
  • 研究方法論と生物統計学
  • 家族看護
    ※様々な構成の家族を想定し、家族の概念、家族の健康、家族の幸福、家族の発達段階ごとの看護ケアについて学ぶ科目

6学期

  • 地域奉仕活動(KKN)
  • 救急および災害看護
  • 母子看護
    ※妊婦や産後期の女性の健康、新生児の健康などについて臨床学習を交えて学ぶ科目
  • 重症患者看護

7学期

  • 看護管理
  • 地域看護と職場健康安全

8学期

  • 卒業論文

参考:UNIVERSITAS PADJADJARAN「PEDOMAN PROGRAM STUDI PENDIDIKAN SARJANA KEPERAWATAN|P.18-25「Jabaran Mata Kuliah」」

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インドネシアの看護師の試験・評価制度

客観的臨床能力試験(OSCE)

インドネシアの大学の看護学士課程(S1)では、日本の大学の医学部などと同様に、コンピュータを使った試験(CBT)と客観的臨床能力試験(OSCE)の実施が義務付けられています。

看護のOSCEは、看護師の臨床能力を評価する試験であり、健康履歴の評価、身体検査、およびコミュニケーションスキルの評価などが含まれます。

看護師資格試験(UKPI)

看護師資格試験(UKPI)は、看護師候補者の知識、技能、態度を評価するための筆記試験です。これが、看護学生の卒業試験となっており、3年制および4年制のディプロマ課程(D3・D4)でも、学士課程(S1)でも実施されます。なお卒業の可否については、試験結果に加え、それまでの学業成績が考慮されます。

この試験に合格すると、看護師の資格を取得したことになります。

インドネシア看護師能力試験(UKNI)

インドネシア看護師能力試験(UKNI)の合格者は、看護分野における専門的な知識や技能を有することを証明する資格証明書を取得できます。医療分野に従事することが公的に許可されるための登録証明書(後述)を取得するには、この試験に合格する必要があります。

看護師の登録制度と登録証明書「STR」

看護学校を卒業し、看護師の資格を取得した人でも、実際に医療行為を行うには、看護師資格試験(UKPI)に合格し、登録証明書(STR)を取得する必要があります。

STRは、公的な医療従事者登録システムに紐づいています。この証明書は裁判所などによって取り消されない限り生涯有効で、取得すると、看護師資格を持っていることが証明されるとともに、医療行為を行うことが公的に許可されます。ただし、STRを持っていなくても、看護助手や医療事務職、介護士など、医療行為を行わない職種には就くことはできます。

なお、インドネシア人の看護師が海外で看護師として働く場合も、STRが必要です。

参考:DATABASE PERATURAN「Undang-undang (UU) Nomor 17 Tahun 2023|Pasal 260」

インドネシアの看護教育の課題

教育水準の低さと地域格差

インドネシアでは、すべての看護学校が十分な水準の教育を提供できているわけではありません。特に地方の看護学校では、高度な設備や優秀な講師、適切な臨床実習の場が不足しています。

インドネシアでは、すべての高等教育機関とそれぞれの専攻・教育課程について、第三者機関「国立高等教育アクレディテーション機構」が3段階で評価する仕組みを導入しています。しかし最高の評価を得た看護課程は、3年制ディプロマ課程(D3)の9.3%、学士課程(S1)の8.6%に過ぎません。

看護課程に限らず、全体的に高い評価を得る課程(教育機関)がまだわずかであること、つまりレベルが低いことは、インドネシアの高等教育機関の長年の課題です。

看護師の過剰供給と地域偏在

インドネシアの看護学生の数は増加し続けていますが、医療現場がすべての卒業生を受け入れられていない現状があります。そのため、看護師候補者の間で厳しい競争が生まれ、看護学校を卒業しても、就職できなかったり、看護とはまったく別の仕事に就いたりする人も少なくありません。

一方で、インドネシアの看護師は人口の多いジャワ島に集中しており、他の島、特に地方では看護師不足が深刻です。

人口に対する看護師の数は、インドネシア保健省が掲げる「国民1,000人あたり2人」の目標数をすでに満たしています。看護師の数は今後も増加が予想されますが、上記のような事情から、都市部では看護師の供給過剰が、地方では人手不足がますます進むことが懸念されます。

インドネシア政府は2023年、この事態に対応すべく、全国の医療機関に十分な医療従事者を均等に配置するための法律を制定しました。詳細なガイドラインが整備され、状況が改善することが期待されます。

介護士養成課程の未整備

インドネシアには、日本の介護福祉士のような介護士の公的な資格はありません。介護士はいますが、看護師の資格取得者が高齢者などの介護について追加で学び、介護の仕事に就くことが多くなっています。

インドネシアでは急速に高齢化が進んでいます。加えて、かつてのような大家族が減り、家族が高齢者の介護を担えない家庭も増えています。

高齢者介護の施設や専門家がますます必要になっていくことが予想されるなか、看護教育が介護教育を兼ね、看護師志望者の一部が介護士になるような今のシステムでは、質の高い介護士の供給が追い付かなくなる可能性があります。

低賃金・過重労働、キャリア開発の不足

看護学生が無事に看護師になってからのキャリアにも課題があります。

インドネシアの医療現場では、看護師の過重労働や低賃金が問題になっています。また、研修やスキル向上のための支援が不足していることや、キャリアアップの機会が限られていることが、看護師のモチベーション低下に繋がっていることが指摘されています。

このような問題が看護師の離職の原因になっているとされ、労働環境の改善や賃金アップなどの対策が求められています。

参考:
KOMPAS.com「Pemerataan Tenaga Perawat Dalam Sistem Kesehatan」
BPS「Jumlah Tenaga Kesehatan Menurut Provinsi, 2023」

レベルアップが望まれるインドネシアの看護教育

インドネシア政府は、看護師のレベルアップを目指し、看護学校と看護教育の制度の改善を進めてきました。

例えば2014年には、看護師の資格を取得できる課程を3年制ディプロマ課程(D3)以上とし、それまで看護師になれていた看護専攻高校(SPK)の卒業生が取得できる資格を「認定看護助手」に限定しました。

また、看護師全体に占める学士課程修了者の割合を引き上げることも目標に掲げています。

これからもさまざまな面で改善が進み、インドネシアの医療サービスの質が向上することが望まれます。

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インドネシアで看護師の資格を取れる学校は何ですか。

インドネシアでは主に、通常3年制の「ディプロマ」と呼ばれる職業教育の看護課程か、総合大学などが設置する看護学士課程を修了することで、看護師の資格を取得できます。

インドネシアの看護師資格試験はどのようなものですか。

インドネシアの看護師資格試験はUKPIと呼ばれます。看護学生の卒業試験となっており、ディプロマ課程(D3・D4)でも学士課程(S1)でも実施されます。

インドネシアの看護教育にはどのような課題がありますか。

インドネシアの看護教育には、教育水準の低さや地域格差、介護士養成課程の未整備などの課題があります。また、看護師の過剰供給と地域偏在、キャリアアップ・キャリア開発の機会の不足も指摘されています。

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