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インドネシア中南部に位置するジョグジャカルタは、多数の文化遺産を有する古都として知られる特別州です。観光地としての魅力が高い一方で、コストの低さや豊富な人材資源といったビジネス面での利点も数多く備えています。

本記事では、ジョグジャカルタの気候やアクセス情報、主要産業、進出のメリットと注意点について紹介します。

【補足】
本記事の円表記は2025年4月24日のレート（1ルピア＝0.0084円）で換算したものです。

ジョグジャカルタの基本情報

位置・面積・人口

インドネシアの古都として知られるジョグジャカルタ（Yogyakarta）は、東西に長いジャワ島のほぼ真ん中に位置し、南海岸に面しています。行政区としてはジョグジャカルタ特別州（Daerah Istimewa Yogyakarta）で、略称は「ジョグジャ」または「DIY」です。州都はジョグジャカルタ市です。

• ジョグジャカルタ特別州：面積 3,170.7 ㎢　人口 417万9,333人（2025年）
• ジョグジャカルタ市：面積 32.8㎢　人口46万6,950人（2025年）

ジョグジャカルタ特別州とジョグジャカルタ市

ジョグジャカルタ特別州には、4つの県と1つの市があります。インドネシアにおける「県（Kabupaten）」と「市（Kota）」は、行政単位としては対等で、県の中に市が入っているのではありません。つまりジョグジャカルタ特別州は、5つの地域、5つの行政単位に分けられます。

州都であるジョグジャカルタ市には、王族が暮らす王宮があります。また繁華街「マリオボロ通り」や国立博物館があり、観光地として人気が高いほか、国内屈指の難関大学であるガジャ・マダ大学など著名な教育機関が多い「学生の街」として知られています。

• 参考：BPS Provinsi Di Yogyakarta「Luas Daerah dan Jumlah Pulau Menurut Kabupaten/Kota di Provinsi DI Yogyakarta x, 2022」 / 「Proyeksi Jumlah Penduduk menurut Kabupaten/Kota di D.I. Yogyakarta (Jiwa), 2024-2025」

気候

ジャワ島は東西に長いものの南北には短く、平地であればどこでも気候に大きな差はありません。ジョグジャカルタは海抜50～200mほどの低地にあり、ジャカルタなどと同じ熱帯気候です。年間平均気温は26.3℃（2023年）で、インドネシア平均の27.2℃とあまり変わりません。

一方、山と海に囲まれており湿度が高くなりやすいことや、年間を通して気温の上下が少ないことが特徴です。季節は10月～3月頃の雨季と、4月～9月頃の乾季の2つです。

参考：

• BPS Provinsi Di Yogyakarta 「Suhu Rata-Rata (Celcius), 2023」
• GoodStats「Simak Rata-Rata Suhu Tahunan di Indonesia」

交通

電車

長距離列車

ジョグジャカルタ中心部にあるターミナル駅「トゥグ駅（ジョグジャカルタ駅）」は都市間を結ぶ長距離列車の停車駅で、ジャカルタ、バンドン、スマラン、スラバヤなど、ジャワ島各地からジョグジャカルタにアクセスする場合の降車駅となります。

また、中部ジャワ州とジョグジャカルタを一周するジョグロスマルケルト線（ジョグロセマークルト、Joglosemarkerto）も停車します。ジョグロスマルケルト線はジョグジャカルタ、ソロ、スマラン、テガル、プルワケルトなど20駅を巡る路線で、座席には2つのクラスがあります。

空港鉄道

空港鉄道は、海沿いにあるジョグジャカルタ国際空港と、ジョグジャカルタ市にあるトゥグ駅の間を運行しています。空港・トゥグ駅間の所要時間は普通列車が39分、急行列車が35分です。

通勤列車（KRL）

国有鉄道会社KAIが運行する通勤列車「コミューターライン・ジョグジャカルタ線」は、トゥグ駅から中部ジャワ州カランガンヤル県のパルール駅を結ぶ路線です。

途中、世界遺産に指定されたプランバナン寺院に近いブランバナン駅や、ジョグジャカルタよりも古い時代に都が置かれた古都スラカルタ（ソロ）の各駅を経由します。

バス

ジョグジャカルタ特別州は、トランス・ジョグジャ（Trans Jogja）という2種類の路線バスを運行しています。20以上の路線があり、州内の主要な駅、教育機関、観光地へのアクセスには事欠きません。なお以前運行していた路線バス「テマン・ブス（Teman bus）」は2024年末で運行を終了し、路線はトランス・ジョグジャに引き継がれています。

その他

観光客でにぎわうジョグジャカルタ市や人気の観光スポットの周辺では、自転車の前方に座席を取り付けた三輪タクシー「べチャッ（Becak）」や、アンドン（Andong）またはデルマン（Delman）と呼ばれる馬車を利用できます。

公共交通機関よりも割高ですが、短距離の移動や観光目的にはおすすめです。

日本からジョグジャカルタへの行き方

日本からジャカルタまで/飛行機

ジョグジャカルタには、ジョグジャカルタ国際空港と、アジスチプト空港の2つの空港があります。2020年に開港したジョグジャカルタ国際空港が、アジスチプト空港の役割を引き継ぎ、現在はジョグジャカルタのメインの空港となっています。

ただしジョグジャカルタ国際空港の国際線は、現状ではクアラルンプール便とシンガポール便のみです。そのためジョグジャカルタに飛行機でアクセスする場合は、エアアジアやシンガポール航空の乗り継ぎ便を利用するか、ジャカルタ郊外のスカルノ・ハッタ国際空港で国内便に乗り継ぐことになります。

日本からスカルノ・ハッタ国際空港までは、成田空港および羽田空港から直行便が運航しています。所要時間は約8時間です。関西国際空港など他の空港からは乗り継ぎ便を利用することになります（2025年4月時点）。

ジャカルタ（スカルノ・ハッタ国際空港）からジョグジャカルタまで

電車

ジャカルタからジョグジャカルタまでは、ジャワ島を横断する長距離列車を利用できます。

ジャカルタの出発駅は、中央ジャカルタのガンビール駅、パサール・セネン駅、東ジャカルタのジャティネガラ駅です。所要時間は早いもので6時間前後です。料金は利用する列車や座席の等級によって異なり、通常はエコノミーなら35万ルピア（2,940円）前後から、エグゼクティブなら60万ルピア（5,050円）前後からとなっています。

スカルノ・ハッタ国際空港から上記の各駅まではまず、KAIスカルノ・ハッタ空港鉄道線でジャカルタのターミナル駅であるマンガライ駅まで約55分。ジャティネガラ駅まではチカラン線（ブカシ行）で約6分、パサール・セネン駅まではジャティネガラ駅でチカラン線（カンプン・バンダン行）に乗り換えて約10分です。

一方、ガンビール駅は電車でのアクセスは不便です。空港からは高速バス「ダムリ」やタクシーを利用するのがよいでしょう。

バス

スカルノ・ハッタ国際空港からジョグジャカルタまでの直行バスはありませんが、空港周辺やジャカルタ市内からは多数の高速バスが運行しています。そのため、タクシーなどで乗車地まで行って、ジョグジャカルタ行きのバスを利用することはできます。乗車地や降車地はバスによって異なるので、調べてから利用しましょう。

ジャカルタからジョグジャカルタまでの運賃は利用するバスや乗車日によりますが、通常は20万～40万ルピア（1,680～3,360円）程度で、所要時間は10～13時間です。チケットは各バスの運行会社のWebサイトや、Travelokaなど旅行予約サイトから購入できます。

ジョグジャカルタの主要産業

製造業

中央統計庁（BPS）によると、2024年第1四半期、製造業はジョグジャカルタ特別州の域内総生産（PDRB）のうち12.1%を占めます。 特に多いのは食品、家具、衣服などです。また伝統工芸がさかんなジョグジャカルタでは、ろうけつ染め「バティック」や金・銀細工などの工房も多数あります。

参考：

• CGS International「GENJOT KINERJA INDUSTRI JATENG DAN JOGJA, KEMENPERIN TEMPA SDM SIAP KERJA」
• BPS Provinsi Di Yogyakarta「Direktori Industri Pengolahan Besar dan Sedang Daerah Istimewa Yogyakarta 2022/2023｜P.1」

ジョグジャカルタ特別州の工業団地としては、バントゥル県のピユンガン工業団地があります。

政府は、2025年からの5年間、同県のピユンガン工業団地の開発を、県の経済成長と雇用創出のための主要プログラムの一つにすると発表しました。ピユンガン工業団地は2015年頃に開発・運営が始まっていましたが、投資家誘致・企業誘致が計画通りに進んでいないことや、インフラ整備の遅れなど、複数の課題が指摘されています。

県によると、本プログラムでは、農業や水産業の工業化、資金調達アクセスの円滑化が計画されています。また、地域の教育機関と連携し、技能訓練やビジネス研修、マネジメント研修も実施される予定です。

ジョグジャカルタ特別州およびバントゥル県はこの地域の経済における製造業の重要性に鑑み、ピユンガン工業団地の発展を重要視しています。

参考：

• Antara「Bantul bangun kawasan industri Piyungan dorong pertumbuhan ekonomi」
• Harian Jogja「Kawasan Industri Piyungan Tak Kunjung Ada Perkembangan, Pemkab Bantul Layangkan Surat Teguran Kedua ke PT YIP」

観光産業/クリエイティブ産業

ジョグジャカルタは、世界遺産にも登録されているボロブドゥール寺院やプランバナン寺院などの史跡、歴史的建造物、博物館など、多くの観光資源を持ちます。また、独特のグルメや伝統工芸品のショッピングスポット、文化体験スポット、美術館なども人気があります。

環境産業の一部である宿泊および飲食業をみると、ジョグジャカルタ特別州のPDRBに占める割合は10.2%（2023年）で、製造業、農業に次いで規模が大きい産業です。PDRBの成長率も、交通、金融サービス、企業サービスに次いで4番目に高くなっています。

また、クリエイティブ産業も、ジョグジャカルタの特徴的な産業の一つです。ジョグジャカルタ市には、多くのアートギャラリーやデザインスタジオがあり、さまざまな文化芸術イベントが頻繁に開催されています。

• 参考：BPS Provinsi Di Yogyakarta「Potensi Pertanian Provinsi D.I. Yogyakarta: Menuju Pertanian Berkelanjutan dan Ketahanan Pangan.|P.95」

IT産業

ジョグジャカルタでは、IT産業も注目すべき存在です。情報通信産業がジョグジャカルタ特別州のPDRBに占める割合は10.1%（2023年）で、宿泊および飲食業に次いで4番目に規模の大きい産業となっています。

生活費の安さや、多くの著名な大学・ポリテクニックがあり優秀な人材が豊富なことから、若い起業家によるITスタートアップの立ち上げも目立ちます。

ジョグジャカルタ発のスタートアップ企業としては、エビ養殖業者向け管理システムを提供するアグリテック「Jala Tech」、多言語学習のオンラインプラットフォームを提供するEdTech（エドテック）「Lister Teknologi Edukasi」、AIチャットボット開発の「Botika」などがあります。

• 参考：BPS Provinsi Di Yogyakarta「Potensi Pertanian Provinsi D.I. Yogyakarta: Menuju Pertanian Berkelanjutan dan Ketahanan Pangan.|P.95」

農業

稲作を中心とする農業はPDRBの10.2%を占め、ジョグジャカルタで2番目に規模が大きい産業です。PDRBへの貢献率を地域別で見ると、大きい順にグヌンキドゥル県で24.9%、クロンプロゴ県で15.4%、バントゥル県で13.8%となっています。

ジョグジャカルタの農業は地域内での規模は大きく主要な産業の一つですが、成長は緩やかで競争力について課題もあり、新しい農法やテクノロジーを活用した改革が望まれる分野です。

• 参考：BPS Provinsi Di Yogyakarta「Potensi Pertanian Provinsi D.I. Yogyakarta: Menuju Pertanian Berkelanjutan dan Ketahanan Pangan.|P.10」

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ジョグジャカルタに進出している日系企業

ジョグジャカルタに進出している主な日系企業を紹介します。

• アジアクエスト株式会社
• 三菱グループ（PT Dipo Star Finance）
• PT. LOGIQUE Digital Indonesia（※日本人社長）

他にもジョグジャカルタには、日本の自動車・バイクの販売店や修理店、飲食店、コンビニエンスストアなどが出店しています。

またジャカルタに拠点を置く三井住友海上は、インドネシア政府と協力し、ジョグジャカルタ特別州にあるパリヤン野生動物保護林で森林再生プロジェクトを進めています。

• 参考：三井住友海上「インドネシア熱帯林再生プロジェクト」

ジョグジャカルタに進出する上での注意点

最低賃金

ジョグジャカルタは物価や家賃がジャカルタやスラバヤに比べて安いため、現地の学生たちにとっても、拠点を構える企業にとっても魅力的です。また、最低賃金も国内でもっとも低い地域の一つで、人件費を抑えられるメリットがあります。

インドネシアでは中規模および大規模企業の場合、州または県・市が毎年定める最低賃金に沿って従業員の給与を決定する必要があります。

注意点は、「県・市が定める最低賃金は州の最低賃金よりも高く設定される」ということです。つまりジョグジャカルタ特別州の場合、企業は州ではなく、県・市の額を参照することになります。

ジョグジャカルタの最低賃金（2025年）

• ジョグジャカルタ特別州：226万4,080ルピア（1万9,040円）
• ジョグジャカルタ市：265万5,042ルピア（2万2,330円）
• スレマン県：246万6,515ルピア（2万750円）
• バントゥル県：236万533ルピア（1万9,850円）
• クロン・プロゴ県：235万1,240ルピア （1万9,780円）
• グヌンキドゥル県：233万263ルピア（1万9,600円）
• 全国平均（州別）：331万5,728ルピア（2万7,890円）

なおジャカルタ首都特別州の最低賃金は539万6,761ルピア（4万5,390円）で、ジョグジャカルタ市の最低賃金の約2倍です。同じジャワ島でも最低賃金にここまでの差が出るということは、インドネシア進出を目指す企業が留意すべきポイントの一つです。

ジョグジャカルタの物価や最低賃金が低い背景には、大都市に比べて経済規模が小さいこと、大企業が少ないこと、雇用の多くが観光・教育・手工芸など給与水準が低い産業分野に集中していること、大規模な工業エリアが限られており雇用機会が少ないことなどが挙げられます。

参考：

• Kompas.com「Resmi, Ini Daftar UMP 2025 di Seluruh Provinsi Indonesia」 / 「Daftar UMK Jogja 2025, Kota Yogyakarta Tertinggi」

工業団地の整備状況

紹介した通り、ジョグジャカルタの工業団地は現在開発中のピユンガン工業団地のみで、西ジャワ州ブカシ（チカラン・カラワン）に代表される大規模な工業地域に比べると、インフラ不足といえます。

なおクロン・プロゴ県のセントロ産業用途指定地域（通称セントロ工業団地）を工業団地として開発する計画が以前からありますが、投資が進まず整備も遅れています。セントロにはジョグジャカルタ国際空港からの高速道路の出口が設けられる予定で、今後、開発の進展が期待されます。

参考：

• ANTARA「Kulon Progo siapkan skema titik “exit toll” sebagai pusat ekonomi baru」
• Harian Jogja「Lahan Sudah Siap sejak 2015, Kawasan Industri Sentolo Masih Saja Sepi Investor」

交通インフラ

ジョグジャカルタは、特に製造業者にとって重要な交通インフラにも課題があります。

陸路は貨物列車もありますが、現状では国内の大規模輸送はトラックがメインです。西のジャカルタ、東のスラバヤ方面には高速道路および幹線道路からアクセスできます。またジョグジャカルタ・スラカルタ（ソロ）・スマランを結ぶ高速道路が建設中で、2024年にジョグジャカルタからスラカルタまでは開通しています。

国際貨物は、ジョグジャカルタ国際空港を利用できます。ただし海路の場合は中部ジャワ州スマラン市のタンジュン・エマス港やチラチャップ県のチラチャップ港、場合によってはスラバヤのタンジュン・ペラック港まで出向く必要が出てきます。

映像でみるジョグジャカルタの街と産業

ジョグジャカルタの多様な観光スポット

ジョグジャカルタには、多様な観光スポットがあります。こちらの動画では、ボロブドゥール寺院やプランバナン寺院を始めとする遺跡、王宮、博物館、ビーチなどが紹介されています。

最後に紹介されているのはジョグジャカルタ市のマリオボロ通りで、バティックの買い物や市場見学、ストリートフードなどを楽しめます。

スカルノ・ハッタ国際空港からジョグジャカルタへのアクセス方法

こちらはトゥグ駅とジョグジャカルタ国際空港を結ぶ空港鉄道の様子です。座席指定なので満席を心配し、この女性は事前にオンラインでチケットを購入しました。空港までは急行列車で35分。早めに到着した空港で写真撮影を満喫したようです。

ジョグジャカルタ国際空港はインドネシアで5番目に広い空港です。略称はYIAで、「イェー・イー・アー」と発音します。

ジョグジャカルタのお菓子工場

ジョグジャカルタにはたくさんの名物土産があります。中華風饅頭「Bakpia（バックピア）」もその一つ。伝統的には緑豆の餡などを包みますが、最近はチョコレートやクリームなど、種類豊富です。

動画で紹介されているのは、2018年創業の地元企業が「Juwara Satoe」のブランド名で製造するBakpiaの工場です。こちらはジョグジャカルタ最大級のBakpia工場で、ショップを併設しています。

「Juwara Satoe」はBakpiaブランドとしては後発組ですが、ジョグジャカルタを中心に、既に24の販売店を構えています。多様で斬新な商品展開やおしゃれなパッケージが人気の秘密です。

さまざまな面で独自性のあるジョグジャカルタ

ジョグジャカルタは、伝統文化を継承しながら発展を続ける、調和のとれた魅力的な都市です。産業面では、規模が大きい一方で成長に課題がある製造業や農業、勢いがありさまざまな分野に展開できる観光業やIT産業など、いくつもの注目分野、注目ポイントがあります。

ジョグジャカルタに進出するうえでは、コストや人材確保の面で優位性がある一方、インフラ面は十分な事前調査と対応が必要です。地域に根ざしたビジネスを展開するには、現地政府や教育機関との連携、地元文化への理解も重要な鍵となります。

インドネシア進出に興味をお持ちの企業さまは、ぜひ一度、弊社カケモチにお問い合わせください。

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