インドネシアでカリマンタン島が注目されている理由
- 公開
- 2024/03/23
- 更新
- 2024/11/26
- この記事は約6分12秒で読めます。
インドネシアの中央に位置するカリマンタン島は、首都移転の発表以降、世界から注目を集めています。豊かな自然や多様な動植物のイメージが強いカリマンタン島ですが、主要な都市や生活環境、産業などの詳細を知っている人は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、カリマンタン島の人口や地理、インフラ、物流、給与水準、産業などの詳しい特徴をまとめました。
また、記事の後半部分ではカリマンタン島が首都移転先に選ばれた理由や、首都移転に際して懸念されていることなどを紹介しているので、最後までご覧ください。
※カリマンタン島は英語圏やマレーシアではボルネオ島と呼ばれていますが、インドネシアでの呼称に従い本記事ではカリマンタン島と記載しています。
※カリマンタン島にはマレーシアの一部とブルネイ王国が含まれますが、本記事における「カリマンタン島」は、特に説明がない場合、カリマンタン島のインドネシア側を指します。
※円表記は2023年12月13日のレート(1ルピア=0.0093円、0.000064ドル)で換算したものです。
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カリマンタン島が首都移転先に決定
Joko Widodo大統領は2019年8月、首都をジャワ島のジャカルタからカリマンタン島へ移すことを発表しました。新首都ができるのは、東カリマンタン州Kabupaten Kutai Kartanegara(クタイカルタネガラ県)とKabupaten Penajam Paser Utara(北プナジャムパスル県)にまたがる場所です。
首都移転の理由の1つが、約1,000万人の人口を有するジャカルタの人口密集です。人口密集により、ジャカルタでは長年にわたり大気汚染や交通渋滞が問題視されています。
そのほか、多数の企業や工場が事業で地下水を汲み上げることで起こる地盤沈下、ジャカルタ首都圏と農村部の激しい経済格差なども背景にあります。
移転は、2022年開始、2045年完了が目標。しかし、2024年に行われる大統領選挙や費用の問題から、先行きは不透明な状況です。
以下の記事では、インドネシアの首都移転計画の現状についてより詳しくまとめているので、移転の背景やスケジュールを知りたい方はご覧ください。
カリマンタン島の特徴
では、カリマンタン島の特徴を紹介します。
地理・人口
カリマンタン島の北部にはマレーシアやブルネイ王国があり、マレーシアと国境を接する南側に、インドネシアの西カリマンタン州、中部カリマンタン州、南カリマンタン州、東カリマンタン州、北カリマンタン州の5州があります。東西に長いインドネシアの国土全体からみると、ちょうど中心付近に位置します。
首都移転を予定している東カリマンタン州の州都Samarinda(サマリンダ)の人口は110万人、サマリンダの南にあるBalikpapan(バリクパパン)の人口は72.5万人(2023年時点)。カリマンタン島全体で、ここ数年人口は増加している傾向にあります。
カリマンタン島といえば豊かな自然と多様な生物で知られる島ですが、その一方で発展した都市を有しているのが特徴です。
※人口はmacrotrendsのデータを参考
インフラ・物流
カリマンタン島とほかの島の主要都市は、航空網で結ばれています。主な空港としては、東カリマンタン州のスルタン・アジ・ムハンマド・スレイマン空港や、南カリマンタン州のシャムスディン・ノール空港があります。
また、2021年8月には、カリマンタン島の2大都市BalikpapanとSamarindaを結ぶ高速道路が全線開通し、陸の物流の利便性が高まりました。
そのほか、カリマンタン島の特筆すべき点として、Samarindaが南洋材の輸出基地となっていることが挙げられます。Samarindaは海港を持っていないことから、同州で最も規模の大きなマハカム川を物流の拠点としています。
給与水準
カリマンタン島に住む人々の給与は、インドネシア全体と比べて西カリマンタン州と南カリマンタン州は低水準、中部カリマンタン州と東カリマンタン州、北カリマンタン州は高水準です。
特に東カリマンタン州の給与水準が高く、2022年のインドネシア全体の平均が1か月290万ルピア(2万7,000円)であるのに対して、東カリマンタン州は380万ルピア(3万5,500円)でした。
参考:BADAN PUSAT STATISTIK「Rata-rata Upah/Gaji Bersih Sebulan Buruh/Karyawan/Pegawai Menurut Provinsi dan Jenis Pekerjaan Utama, 2022-2023」
カリマンタン島の産業
広大なカリマンタン島は、それぞれの州で異なる特徴を持ちます。そのためここでは、カリマンタン島の中でも最も経済規模の大きな東カリマンタン州の産業を取り上げます。
2023年9月に公表された在スラバヤ総領事館の情報によると、東カリマンタン州の主要産品は石炭、石油、天然ガス。インドネシアの国営石油会社Pertaminaに加えて、海外の石油開発企業も進出しています。
2022年における石油・ガスを除いた海外への輸出は330億5,000万ドル(4兆8,100億円)で、主な輸出先は中国(25.4%)、インド(17%)、日本(11.4%)。海外からの輸入は17億4,000万ドル(2,530億円)で、主な輸入相手国は中国(15.7%)、韓国(13.9%)、アメリカ(万3.7%)です。
参考:在スラバヤ総領事館「東カリマンタン州概況」
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カリマンタン島が首都移転先に選ばれた理由
新首都を決める際、東カリマンタン州以外にも、中部カリマンタン州や南スラウェシ州など、いくつかの州が候補地として挙がっていました。
いくつかの候補地の中から、ジャカルタから約2,000kmも離れた東カリマンタン州が選ばれたのにはどういった背景があったのか。以下では、東カリマンタン州が選ばれた主な理由について説明します。
好立地
カリマンタン島が新首都に選ばれた理由の1つとして、好立地だということが挙げられます。
まず、新首都ができる場所はカリマンタン島の2大都市BalikpapanとSamarindaの中間地点。大きな企業や工場がこの2つの都市に集まっていること、両都市の間には高速道路も開通していることなどから、島内の経済活動を行う上で非常に便利な場所にあることがわかります。
また、カリマンタン島がインドネシアの国土の中央に位置しており、ほかの島との行き来がしやすいのもポイントです。カリマンタン島の主要な空港スルタン・アジ・ムハンマド・スレイマン空港も新首都の近くにあり、空路を利用する人の利便性も考えられています。
自然災害リスクが少ない
インドネシアの多くの島が自然災害のリスクが高い環太平洋火山帯に属していますが、新首都ができる東カリマンタン州は環太平洋火山帯に属していません。
また、Badan Geologi Kementerian ESD(エネルギー鉱物資源省地質庁)の調査によっても、より詳細な調査は必要なものの、現段階では地震のリスクが低いことが分かっています。
現在の首都があるジャワ島は地震が多いことに加え、ジャカルタでは地盤沈下の影響もあり水害のリスクが高まっています。このような背景から、新しく首都となる場所の選定基準として、自然災害リスクの低さが挙がりました。
参考:CNBC INDONESIA「Ibu Kota Baru RI Rawan Bencana? Simak Kajian Badan Geologi」
開発可能な広大な土地がある
国家開発計画大臣のBappenas Bambang Brodjonegor(バペナス・バンバン・ブロジョネゴロ)氏は首都移転の開始について、「私たちの首都の建設はまず18万haを確保し、開発は政府用の6,000haから始めます」と述べました。
政府によってすでに確保されている18万haとは、ジャカルタ首都圏の政府が管理する土地の3倍の広さです。
参考:CNBC INDONESIA「Pindah Ibu Kota Baru: Gedung Apa yang Pertama Dibangun?」
首都移転に伴うカリマンタン島の課題
立地のよさや自然災害リスクの低さ、政府の確保した広大な土地など、さまざまな条件のもとカリマンタン島東カリマンタン州が新首都に最適であると決定が下されました。
しかし首都移転計画に対しては、カリマンタン島に住む人々を中心に、懸念や反対の声が挙げられています。そこで最後に、カリマンタン島への首都移転の際の課題を紹介します。
環境破壊の懸念
新首都は、緑あふれる都市「グリーンシティ」をコンセプトの1つに掲げています。環境に配慮した首都を目指すこと、森林保護地域には手を出さないことなどが当初から約束されていますが、開発を進める上で環境破壊が起こる可能性が懸念されています。
例えば、森林を横切る形で道路をつくることで森林が破壊され、森林が減り気候が変わることで山火事などが起こる可能性があります。さらに、大量の炭素を含む泥炭地を開発することで二酸化炭素が放出されることも、将来的な影響を考えると見逃せません。
また、東カリマンタン州にはオランウータンをはじめとした多様な生き物が生息しており、開発により生態系の破壊が進むリスクもあります。
先住民の反対
首都移転が、新首都建設予定地に住むダヤック族やバリク族などの少数民族の暮らしに影響を与えることも懸念されています。
例えば現在住んでいる場所が政府関連施設などの建設予定地となっている場合、先住民たちはほかの場所に土地を買い、移り住まなければいけません。しかし、新首都からやや離れた場所でも地価が高騰しており、自らの財産だけでは購入できないケースがすでに見られています。政府からの補償金もありますが、それでも足りないという声が上がっています。
また、先住民の中には、自分の家を建てている土地の法的な所有権を持っていない人が少なくありません。そのため、政府との交渉において不利な立場に立たされるという問題もあります。
費用面での現実性
首都移転プロジェクトは総額で最大486兆ルピア(4兆5,400億円)かかるとされており、そのうちの8割を民間からの投資に頼る予定です。
2024年2月の選挙の結果によっては首都移転プロジェクトに大きな変更が出る可能性もあり、民間頼りで本当に費用を賄えるのか不透明な状況にあります。
インドネシア政府は、国内外からの投資を募っており、新首都のインフラ整備などへの投資に興味を持つ外国企業は2023年8月時点で18か国121社とされます。同月に行われた独立記念日の式典で新首都庁のAgung Wicaksono(グン・ウィチャクソノ)次官は、日本からの投資も期待していると述べました。
参考:NHK「インドネシア 首都移転開始まで1年 建設費用に日本の投資期待」
また、新首都は最終的に人口170~190万規模の都市になることが想定されていますが、多くの人が利用する学校や病院を運営するための人材をどこから集めてくるのかという疑問の声も挙がっています。
今後の動向が見逃せないカリマンタン島
首都移転計画の発表により、カリマンタン島の今後に世界から注目が集まっています。経済機能はジャカルタに置きつつ、カリマンタン島には政治機能のみを移すとのことですが、都市開発や人口流入により今までとは景色が大きく変わるのは間違いありません。
インドネシア政府にとっては、新首都建設を計画通り進められるかどうかが大きな課題であるのとともに、豊かな自然や独自の文化風習を持つ先住民たちをどのように守っていくかという点も重要です。
まだまだ不透明なことが多く、この先どのように進んでいくのかが見通しにくいインドネシアの首都移転。カリマンタン島の今後がどうなるのか、引き続き注視していく必要がありそうです。
インドネシアでのビジネスにお悩みの方へ
最後まで文章を読んでいただきありがとうございます。ここまでご覧いただいたということは、記事の内容に対して一定の信頼感や満足感を得ていただいたのかなと推測しています。
もし宜しければ、現在抱えているお悩みを弊社に壁打ち的に相談してみませんか。何かしらお役に立てる情報を共有できる自信があります。
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カリマンタン島の基本情報を教えてください。
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カリマンタン島は西カリマンタン州、中部カリマンタン州、南カリマンタン州、東カリマンタン州、北カリマンタン州の5州で構成されるる島で、インドネシアの中部に位置しています。最も経済規模が大きな島は東カリマンタン州で、主要産品は石炭、石油、天然ガスです。
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カリマンタン島はなぜインドネシアの首都移転先に選ばれましたか?
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カリマンタン島が首都移転先に選ばれた理由として、好立地にあること、自然災害リスクが少ないこと、開発可能な広大な土地があることが挙げられます。
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カリマンタン島への首都移転の状況を教えてください。
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2022年に移転が開始し、2045年には移転が完了しているスケジュールが予定ですが、いまだ先行きは不透明です。
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