インドネシア・オムニバス法による規制緩和と雇用制度の見直し
- 公開
- 2025/12/04
- 更新
- 2026/08/10
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インドネシアで外資企業が事業運営を行ううえで、避けて通れない重要テーマの一つが「オムニバス法」の動向です。2020年に初めて成立したこの法律は、当初から大きな議論を呼び、その後の修正・再制定、さらには2024年の憲法裁判所判決を経て、現在の制度は当初とはかなり異なる姿へと変化しています。
本記事では、2020年版、2023年版、そして2024年の憲法裁判所判決をふまえて、外資企業が特に関係する規制・手続きの簡素化と労働・雇用分野の見直しのポイントに絞ってを整理します。
インドネシアのオムニバス法とは
大規模な規制改革を進めたJoko Widodo(ジョコ・ウィドド)政権は、2020年の法律第11号(UU 11/2020)で、79本の法律を同時改正しました。これが雇用創出法(UU Cipta Kerja)、通称「オムニバス法」です。オムニバス法は許認可、投資、労働など幅広い分野を一括して整理するもので、この方法自体が国内でも大きな論争を生みました。
2021年には憲法裁判所(MK)が「手続き上の問題がある」として条件付き違憲を宣告。それを受けて政府は2022年末に緊急政令(Perppu 2/2022)を発し、2023年に新たな法律第6号(UU 6/2023)としてオムニバス法を「作り直し」、再制定しました。
その後、2024年10月の最高裁判所判決が労働分野を中心に多数の条文の読み替え・修正を命じ、現在(2025年末時点)の最新ルールは、「2023年改正法+2024年最高裁判所判決」の組み合わせで運用されています。
- 2020年のオムニバス法:
「Undang-undang (UU) Nomor 11 Tahun 2020 Cipta Kerja」 - 2022年のオムニバス法再設定の法律化(2023年改正法):
「Penetapan Peraturan Pemerintah Pengganti Undang-Undang Nomor 2 Tahun 2022 tentang Cipta Kerja menjadi Undang-Undang」 - 2024年憲法裁判所判決:
「PUTUSAN Nomor 168/PUU-XXI/2023」
規制・手続きの簡素化
オムニバス法により、外資法人の参入や外国投資について大きく規制緩和されました。
OSS-RBAの導入
オムニバス法により、2018年に運用が開始された許認可申請システム「OSS(オンライン・シングル・サブミッション)」が、リスクベース事業許認可システム「OSS-RBA」になりました。OSS-RBAの導入で、各種許認可申請がますますOSSシステムに集約されました。また、特にリスクレベルが低い事業について、手続きが大幅に簡素化されました。
各種許認可番号のNIBへの集約
複数の許認可番号をNIB(事業基本番号)が代替するシステムになり、必要な申請・手続きが減りました。
ネガティブリストの廃止
外資参入規制に用いられていたネガティブリストが廃止され、ポジティブリスト方式へ変更されました。これにより、「原則規制・例外解禁」の方針が転換され、外資参入が「原則自由」となったと評価されています。実際に、規制分野が大幅に減り、許認可の基準やプロセスも明確になりました。
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ネガティブリストやポジティブリストとは何ですか。
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外資規制の話と合わせて説明した記事があるので、こちらを参考にしてください。
必要な情報が見つからない方は、下記のサイト内検索を活用してください。
労働・雇用制度の見直し
オムニバス法の中でも、外資企業の実務に大きな影響を及ぼすのが労働分野です。2020年版に対する労働者側の強い反発を受け、一部を修正した2023年の再制定でも基本構造は継続。その後、2024年の憲法裁判所判決により、労働者保護を強化する方向でルールが大きく修正されました。
契約社員
2020年のオムニバス法は、労働者を期間無制限で契約社員(PKWT)にできると解釈され、批判が集中しました。これを受けて2023年改正法では、契約社員の契約期間が終了した際、または特定業務が完了した際に補償金を支払う制度を明確化。さらに、2024年の憲法裁判所判決は、契約社員の契約期間の上限を5年としました。
アウトソーシング
2020年のオムニバス法はアウトソーシング対象を実質自由化し、大きな論争を呼びました。そこで、2023年改正法では、アウトソーシングが可能な職種を政府が指定する従来の方式へ戻されました。続く2024年の憲法裁判所判決はさらに踏み込んで、業務タイプを省令レベルで明確に定めるように命令しています。
2025年末時点では、アウトソーシングの運用方法について2021年の政府規則を参照できますが、どの分野・業務でアウトソーシングを可能とするかのリストは発表されていません。
労働時間・休日制度
2020年のオムニバス法では、旧労働法が明記していた「週休2日制」の記載が削除されました。それまでは「週の労働時間の上限40時間を守れる範囲で週休2日制または週休1日制を選べる」ことが法律に明記されていましたが、このうち週休2日制の部分がなくなったのです。
これにより、企業にとって週休2日制導入の優先度が下がる可能性が指摘されていましたが、2024年の憲法裁判所判決により、週休2日制の「明記」が復活しています。
また、6年以上勤務した労働者に対する長期休暇(2か月)付与の義務についても、2020年のオムニバス法で削除されましたが、2024年の憲法裁判所判決で「一定の企業については義務(省令などで規定)」となっています。
最低賃金制度
2020年のオムニバス法では、市・県別最低賃金(UMK)や産業別最低賃金(UMS)が実質的に弱体化し、最低賃金制度は「州別最低賃金(UMP)中心」に再編されました。その後、2023年には最低賃金の算定式が政令ではなく法律レベルに引き上げられ、制度の根拠が強化されました。
しかし、2024年の憲法裁判所判決により、産業別最低賃金(UMS)が正式に復活し、加えて最低賃金に生活賃金(KHL)要素を必ず含めるよう修正が入りました。加えて、2020年のオムニバス法で形骸化していた労使・政府が参加する賃金審議会の実質的な復権が図られ、労使双方の意見が反映される仕組みに戻っています。
解雇手続き
2020年のオムニバス法は、労働者への通知後に解雇(PHK)できる簡易手続を可能にしました。しかし、2024年の憲法裁判所判決により、解雇は「労働裁判所の確定判決」後でなければ実行不可(旧労働法の規定に復帰)となっています。
外国人労働者
2020年のオムニバス法により、外国人労働者(TKA)雇用の許可申請がOSSに統合され、RPTKA(外国人従業員雇用計画)の適用除外範囲の追加(取締役、緊急保全要員など)など、運用が簡素化されました。この許可申請システム自体に変更はありませんが、2024年の憲法裁判所判決以降は、外国人を雇用する際に国内労働者を優先すべしとする原則が明文化されています。
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インドネシアのオムニバス法(2024年憲法裁判所判決)で、最低賃金決定の際に考慮すべき要素とされた生活賃金(KHL)とは何ですか。
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生活賃金(KHL)は、労働者とその家族が人間として最低限の生活を送るために必要な費用の総額で、日本の「最低生計費」に近い概念です。
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外資企業が押さえるべきオムニバス法に関する留意点と今後の見通し
「2024年憲法裁判所判決」が現状では最新
法律本文は2023年改正法のままですが、実務で適用される内容は「憲法裁判所判決後の条文」が優先されます。
労働コスト・雇用管理負担は増加傾向
2024年の憲法裁判所判決で産業別最低賃金(UMS)が復活したことで、製造業など一部業界の最低賃金が上昇する可能性があります。また、解雇手続きの厳格化、アウトソーシングに関する制限の強化(詳細は未発表)についても、留意する必要があります。
許認可・投資規制緩和は維持
労働分野とは対照的に、外資参入や事業許可に関する部分は、2024年の憲法裁判所判決で修正が入らず、2020年〜2023年の枠組みがほぼそのまま維持されています。
具体的には、投資促進が目的の大幅な規制緩和、例えば、ネガティブリストからポジティブリストへの転換、外資規制がある分野の縮小、各種許認可番号のNIBへの統合などが、引き続き外資参入の追い風になると考えられます。
法律本文の再改正・追加の省令などに注目
2024年の憲法裁判所判決による条文修正を正式に書き込む法改正が必要で、今後新しい雇用創出法改正法が成立する可能性が高いと見られています。また、アウトソーシングについてなど、別途詳細を定める政令や省令の発布も見込まれます。
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オムニバス法の制定により、外資企業はインドネシアへ参入しやすくなりましたか。
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オムニバス法は外資参入について大きく規制緩和しているため、外資企業のインドネシア進出は容易になったといえます。一方で、2020年オムニバス法で企業寄りに緩和された労働・雇用分野については、2024年の憲法裁判所判決で部分的に巻き戻されているため、注意が必要です。
― ビジネス最前線の声
外資企業設立時の資本金緩和について
インドネシア投資・下流産業省(BKPM)は2025年10月2日、リスクベース許認可と投資優遇手続きを定めるBKPM規則2025年第5号を施行しました。これにより、外資企業(PMA)の最低払込資本金の最低額は従来の100億ルピア(約9,400万円)から25億ルピア(約2,350万円)へと大幅に引き下げられ、設立時の負担が軽減されます。
インドネシア進出を検討する外国企業にとって、オムニバス法、OSS-RBAの導入以上にインパクトの大きな規則変更といえます。
弊社としても、この規制緩和は非常に大きなビジネスチャンスだと捉えており、法人設立”0″円キャンペーンを実施しています。詳しくはこちらから。
【補足】
円表記は2025年12月1日のレート(1ルピア=0.0094円)で換算したものです。
映像でみるインドネシアのオムニバス法
オムニバス法反対学生デモ

2020年、政府と国会が策定したオムニバス法案の施行に反対して、インドネシア各地で大規模なデモが実施されました。
抗議者は「法案内容が未成熟で、多くの層に不利益を与える」と批判し、一部の団体は大統領の辞任も要求。法案が可決された10月5日の直後には混乱が拡大し、大勢の拘束者が出ました。一連のデモ活動で、公共施設の焼き討ちなども発生しています。
特に大統領が署名・承認を行うと見られた10月末〜11月初旬が重大局面と位置付けられ、抗議活動は各地で長く続きました。
こちらの動画は、インドネシア大学の学生たちによるデモの様子です。インドネシア大学の学生デモは複数回行われ、郊外を出発したグループがジャカルタ中心部に侵入しないよう、警察隊が出動し道を封鎖する事態も起こりました。
経済特区の用途規定撤廃

オムニバス法(2020年・2023年)は、経済特区(KEK)に関する基幹法(2009年法律第39号(KEK法))を大幅に改正し、経済特区の用途・機能に関する「分野の限定」を撤廃しました。
これにより、経済特区を製造業、物流、エネルギーなど特定用途に縛る従来の枠組みが取り払われ、中央政府が政令・大統領令によって自由にKEKのテーマや分野を指定できる制度になりました。その結果、オムニバス法施行後には、デジタル、医療・医療観光、教育など、新しいタイプの経済特区が次々と誕生しています。
こちらの動画で紹介されている動画のサヌール経済特区は、2025年6月にオープンした、インドネシア初の「医療特化型経済特区」です。医療に特化したさまざまなインセンティブが用意され、各国の医療機関と提携が進んでいます。
バリ島デンパサール市内の約41haにおよぶ敷地には、国際水準の医療施設、ホテル、MICE(ビジネスイベント拠点)、研究センター、薬草園などが整備され、統合型ヘルスケア複合エリアとして設計されています。
改正・修正が続くオムニバス法
インドネシアのオムニバス法は、投資促進と規制緩和を目的に導入された大規模改革であり、外資企業にとって参入手続きの簡素化や許認可の統合など多くの利点をもたらしました。
一方、労働分野では、2024年の憲法裁判所判決により、最低賃金制度や解雇手続き、アウトソーシングなどで労働者保護を強化する方向へ再修正が行われています。
今後も、オムニバス法自体の改正や、関連する政令・省令の追加発布が見込まれます。最新動向を継続的に確認しながら、事業と雇用管理の双方で適切な対応が求められます。
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