インドネシアの食料品製造業で働く人たちの特徴や現場風景
- 公開
- 2025/02/20
- 更新
- 2026/06/20
- この記事は約9分55秒で読めます。
現在、2万人近いインドネシア人が、技能実習制度や特定技能制度を利用して日本の食品製造業分野で働いています。その数は急増しており、今後も増えていく可能性があります。
彼ら、彼女らのルーツを探るべく、今回はインドネシアの食品製造業分野に目を向けます。インドネシアの食品製造業分野で働く人たちは、どのような背景を持ち、どのような場所で働いているのでしょうか。
本記事ではまず、インドネシアの食品製造業業界の概要を紹介します。後半では、そこで働く人々について、データや動画を交えながら詳しくみていきます。
【補足】
本記事の円表記は、2025年2月14日のレート(1ドル=152.57円、1ルピア=0.0094円)で換算したものです。
インドネシアの食料品製造業業界
市場規模と成長率
インドネシア工業省によると、非石油・ガス製造業のGDPに対する食料品製造業の貢献度は、39.1%に達します。また、国全体のGDPに対しては6.6%を占めます。コロナ禍で打撃を受けたのは他の産業と同じですが、そのなかでもプラスの成長を維持し、2024年における食料品製造業分野のGDPは前年比5.9%の成長を達成しています。
また輸出も好調で、2023年の輸出額は417億ドル(6兆3,620億4,140万円)、この分野の貿易黒字額は252億1,000万ドル(3兆8,462億1,250万円)に上りました。投資額も上昇しており、全体の44.5%を海外からの直接投資が占めます(2024年第3四半期)。
参考:
BPS「[Seri 2010] Laju Pertumbuhan PDB Seri 2010 (Persen), 2024」
INDONESIA.GO.ID「Lezatnya Industri Makanan dan Minuman」
Bisnis.com「Kemenperin Catat Investasi Sektor Makanan & Minuman Naik 28% Kuartal III/2024」
政府支援:機械再編プログラム
工業省は、2024年から、食料品製造業界で機械再編プログラムを開始しました。近代的な機械や設備の導入を促進し、生産効率を向上させるため、このプログラムには1年で20億ルピア(1,880万円)の予算が用意されています。初年度は対象企業として、食品製造企業10社と飲料品製造企業10社が選ばれました。
機械再編プログラムはすでに木材加工産業などで実施され実績を残していることから、食料品製造業界でも導入が決まりました。同業界での成果が期待されます。
参考:Bisnis.com「Kemenperin Kucurkan Rp20 Miliar untuk Restrukturisasi Mesin Industri Mamin」
インドネシアに工場を持つ日本の食料品製造企業
インドネシアに工場を開設した日本の食品製造企業を紹介します。
味の素
味の素はインドネシアでも調味料を製造販売しています。工場は東ジャワ州モジョケルトと、西ジャワ州カラワンにあります。
ヤクルト
ヤクルトは西ジャワ州スカブミと東ジャワ州モジョケルトに工場を持ちます。現地ではヤクルトやヤクルトライトが製造販売され、コンビニやスーパーで購入できるほか、自転車などで訪問販売するヤクルトレディーも大勢います。
日清
日清はジャカルタ郊外の工業地区として知られるチカランの工場で、インスタント麺やカップ麺を製造しています。
大塚製薬
大塚製薬はインドネシアで、ポカリスエット、オロナミンC、SOYJOYなどを製造販売しています。工場は、西ジャワ州スカブミと、東ジャワ州クジャヤンにあります。
他に、菓子メーカーのロッテや江崎グリコ、洋菓子店を展開するシャトレーゼ、コンビニ向けパンを製造するアンデルセンなどもインドネシアに工場をもっています。
インドネシアに工場をもつ外国企業としては、ネスレ、ユニリーバ、ダノングループ、コカ・コーラ、ペプシコなどもあります。
食料品製造業で働くインドネシア人
食料品製造業で働く人の数
中央統計庁(BPS)によると、インドネシアの全労働人口(15歳以上)1億5,211万人に占める製造業の労働者の割合は、13.8%でした(2024年2月)。つまり、約2,100万人です。産業分野別では、農林水産業(28.2%)、自動四輪車・二輪車関係(卸売業・小売業・整備業)(19%)に次ぐ雇用を創出する産業です。
食品と飲料品の製造業に絞ると、全体の4.4%にあたる、約670万人です。そのうち小企業・零細企業の従業員は約400万人に上ります。
参考:BPS
「Indikator Pasar Tenaga Kerja Indonesia Agustus 2024」
「Proporsi Tenaga Kerja pada Sektor Industri Manufaktur (Persen), 2022-2024」
「Jumlah Tenaga Kerja Industri Skala Mikro dan Kecil Menurut 2-digit KBLI (Orang), 2023」
食料品製造業で働く人の特徴
性別
BPSの2024年8月のデータによると、製造業従事者の55.5%が男性、44.5%が女性です。食料品製造業に絞ったデータは見つかりませんでしたが、製造業全体よりも女性の割合が高くなると思われます。
学歴
製造業従事者の学歴は一般的に、品質管理部門やマーケティング部門など現場作業員以外の職種の場合、専門学校よりも高度な職業訓練課程である3年制ディプロマ課程(D3)、または、学士課程(S1)以上の学歴が求められます。
一方、現場作業員は、高等学校卒業程度の学歴でも働ける場合が多いようです。
食料品製造業における給与水準
性別・居住地別
BPSによると、製造業従事者の平均月給は、以下の通りです。どの項目も、全産業の平均額とあまり変わらないことがわかります。
男性平均の給与:359万ルピア(3万3,640円)
※全産業男性平均:354万ルピア(3万3,170円)
女性平均の給与:263万ルピア(2万4,640円)
※全産業女性平均:277万ルピア(2万5,950円)
都市部平均の給与:351万ルピア(3万2,890円)
※全産業都市部平均:359万ルピア(3万3,635円)
農村部平均の給与:234万ルピア(2万1,920円)
※全産業農村部平均:245万ルピア(2万2,954円)
全体平均の給与:325万ルピア(3万450円)
※全産業平均:327万ルピア(3万637円)
参考:BPS「Indikator Pasar Tenaga Kerja Indonesia Agustus 2024|P.120-121」
職種別
前述のとおり、ディプロマ課程および学士課程の卒業生の場合、同じ製造業でも現場作業員以外の職種に就ける可能性があります。職種と月給のおおまかな目安は、以下の通りです。なお、勤務経験3~5年が「経験者」、5年以上が「シニア」の目安です。
品質管理(QC)・品質保証(QA)の給与
- 新卒:500万~700万ルピア(4万6,850円~6万5,580円)
- 経験者:700万~1,000万ルピア(6万5,580円~9万3,690円)
- シニア:1,000万~1,500万ルピア(9万3,690円~14万540円)
研究開発(R&D)の給与
- 新卒:600万~800万ルピア(5万6,210円~7万4,950円)
- 経験者:800万~1,200万ルピア(7万4,950円~11万2,430円)
- シニア:1,200万~2,000万ルピア(11万2,430円~18万7,380円)
生産管理者の給与
- 新卒:700万円~900万ルピア(6万5,580円~8万4,320円)
- 経験者:1,000万円~1,500万ルピア(9万3,690円~14万540円)
- シニア:1,500万円~2,500万ルピア(14万540円~23万4,230円)
マーケティングの給与
- 420万円~580万ルピア(3万9,350円~5万4,340円)
輸出入スペシャリストの給与
- 新卒:600万円~800万ルピア(5万6,210円~7万4,950円)
- 経験者:800万円~1,200万ルピア(7万4,950円~11万2,430円)
- シニア:1,200万円~1,800万ルピア(11万2,430円~16万8,640円)
参考:Tirto.id「Prospek Kerja Teknologi Pangan dan Berapa Gajinya?」
食料品製造業で働く人の社会的なイメージ
一般的に工場労働者(現場作業員)は、低学歴、あるいは貧困家庭出身で、若いころから家計を支えるために就労している人が多いと認識されています。「単純作業で低賃金」というイメージも強いでしょう。
必要な情報が見つからない方は、下記のサイト内検索を活用してください。
食料品製造業の現場で働く人たちの日常風景
肉団子工場の女性たち

こちらは東ジャワ州パスルアン県にある肉団子工場です。工場と呼ぶには素朴な作業場で、作業員が背の低い椅子や床に座って作業をしている様子は、一般家庭の調理風景と重なります。作業員の多くは女性です。
pentolまたはbaksoと呼ばれる肉団子は、インドネシア人の食事やおやつの定番です。簡単な機械はありますが、作業員たちが主に手作業で肉団子の製造から袋詰めまでを行っている様子がわかります。
豆腐作りは力仕事

こちらは中部スラウェシ州の州都、パル市にある豆腐工場です。国から表彰を受けたこともある、地域では有名かつ最大の豆腐工場で、20年の歴史があると紹介されています。さきほどの肉団子工場に比べるとやや機械化されていますが、伝統的なレシピを継承した豆腐作りが続けられています。
「豆腐作りは男性の仕事」というわけではありませんが、力仕事が多いこともあり、こちらの工場の作業員の多くは男性です。20年間豆腐作り一筋という人や、その子どもたちが多いのでしょう。
カップ麺製造工場

こちらはカップ麺の工場の様子です。日本人でもイメージしやすい、近代化された食品工場になっています。蓋を閉める前にカップにフォークを入れる作業や、ベルトコンベアで流れてくる製品の確認などを作業員が担っている様子がわかります。
この投稿は求人情報を紹介するもので、フルタイム勤務で月給は430万ルピア(4万400円)、残業あり、男女可、年齢制限なし、経験不問、寮ありと紹介されています。他のインスタント麺工場やミネラルウォーター工場の求人情報も似たようなものでした。4万円程度の給与で家族を養うのは難しいものの、工場の作業員としては比較的好待遇です。
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日本の食料品製造業で働くインドネシア人
技能実習「食品製造関係」

2023年度の技能実習計画認定件数を見ると、インドネシア人技能実習生は7万4,879人です。7万4,879人のうち食品製造関係は8,623人で全体の11.5%を占め、建設関係、機械・金属関係に次いで3番目に多くなっています。2022年度と比較すると、4,574人から約1.9倍になりました。
参考:外国人技能実習機構
「令和5年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
「統計令和5年度概要P.3-5」
「令和4年度業務統計1-6国籍・地域別職種別 技能実習計画認定件数(構成比)」
特定技能「飲食料品製造業」

2024年6月末時点で、特定技能1号の在留資格で日本に滞在するインドネシア人は4万4,298人です。
そのうち飲食料品製造業分野は9,134人で、介護分野に次いでインドネシア人が2番目に多い分野です。2022年6月末と比較すると、1,536人から5.9倍と急増しています。
この分野に従事するインドネシア人の特徴として、試験を受けて在留資格を取得する人が多いことが挙げられます。
特定技能1号外国人の大多数が元技能実習生です。飲食料品製造業分野でも、ベトナム人の場合は65.3%が技能実習かの資格変更で特定技能1号の資格を取得しています。一方、同分野のインドネシア人9,134人のうち元技能実習生は28.9%に過ぎず、残りの71.1%は試験を受けて資格を取得しています。
技能実習制度が完全に育成就労制度に移行する予定の2030年頃までは、試験ルートで採用されるインドネシア人が増えていく可能性があります。
参考:出入国在留管理庁
「特定技能在留外国人数の公表等|令和6年6月末特定技能1号在留外国人数第1表、第2表、第3表」/「特定技能在留外国人数の公表(令和4年以前)|令和4年6月末【概要版】」
「特定技能1号在留外国人数第7表」
― ビジネス最前線の声
日本の食料品製造業で働いたインドネシア人の帰国後
日本での経験とは無関係に起業する人が多い
技能実習制度や特定技能制度を利用して日本で働き、インドネシアに帰国した人の進路はさまざまです。多くの人が日本での就労を出稼ぎと割り切っているため、必ずしも帰国後に日本で経験したものと同じ仕事をしたいと考える人ばかりではありません。
産業分野別の細かいデータはありませんが、まず、技能実習生の帰国後の進路についての調査を紹介します。
上掲の表は、法務省が2022年9月~12月に帰国した技能実習生の進路を、2023年2月までに調査したものです。これを見ると、インドネシアの元技能実習生について、以下のような特徴がわかります。
- 雇用されて働いている、またはその予定がある人の割合が他国に比べて低い(10.9%)
- 起業している人の割合が他国に比べて高い(21.9%)
- 何もしていない人の割合が他国に比べて低い(2.5%)
- 実習と異なる仕事をしている人の割合が他国に比べて高い(48.6%)
全体的に、「実習の内容とは関係なく」「起業している」人が比較的多いことがわかります。多くの人は地元か、地元に近い都市での就職を希望しますが、簡単なことではありません。20%以上の人が起業(自営)を志す背景には、失業率が高く、ツテやコネがないと企業への就職が難しいという事情があります。
なお、元実習生が実習の内容と関係なく就く仕事の1つが、日本語教育分野です。日本で経験した職業ではなくても、身に付けた日本語力を活かし、日本語学校や職業訓練機関(LPK)などの日本語教師になったり、日本語塾を立ち上げたりする人もいます。
参考:法務省「令和4年度「帰国後技能実習生フォローアップ調査」」
食品製造業の経験を活かせる仕事
一方で、日本での経験を就職に活かす人もいます。
日本とインドネシアでは就労態度や衛生観念に差があります。一般的に日本の工場はより衛生的かつシステマチックで、規則が多く、作業員の就労態度も概して真面目です。
日本での就労経験をもち、このような「日本基準」を理解した人材を、一般のインドネシア人よりも好待遇または高いポストで採用する企業もあります。日系企業であれば、日本語ができることもプラスに評価される場合があります。
また、日本で食品製造業に従事した経験を活かして、自ら食品製造企業や飲食店を設立する人もいます。
就職サポートが課題
日本で働き帰国した人の就職サポートについては、課題が残っています。
訪日前に通ったLPKなどが提供する就職サポートを受けられる人もいますが、ほんの一部です。LPKが就職サポートを提供していなかったり、Uターンを希望する元生徒の出身地から遠かったりして、支援を受けられない人も大勢います。
活気あるインドネシアの食料品製造業業界
紹介したとおり、食料品製造業は、インドネシアの製造業のなかでも、特に活気がある分野です。簡単な設備で小規模なビジネスを始めやすいこともあり、零細事業者がECなどで成功し、有名になって規模を拡大する例もあります。
一方で、工場の作業員の賃金は低く、求人があってもそれ以上に求職者がおり、就職するのはなかなか大変という現状もあります。
また、日本で働いて帰国した人についても、日本での就業経験を活かせる人もいればそうでない人もいます。今後は出稼ぎ後に帰国した人たちへの、政府や民間企業による支援強化が望まれます。
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